「データディスカバリの主要4ツール比較--デジタルマーケティングに活用」、Yellwofin、SAP Lumiraで、6つのデータディスカバリツールの解説を行ってきたが、今回はOracleのデータディスカバリツールである「Oracle Endeca Information Discovery」(以下、Oracle Endeca)のユーザーであるアサヒビール 経営企画本部 デジタル戦略部 部長 松浦端氏、アサヒプロマネジメント 業務システム部 担当課長 光延祐介 氏にインタビューする機会を得た。
アサヒビール、そしてアサヒグループの取り組みから、デジタル戦略の真意を探ってみたが、今回の取材を通じ思わぬディスカバリ(発見)があり、
「日本の大企業のデジタルマーケティングにひとつの方向性」
が示されているのではないだろうかと強く感じたので、その点も考察してみた。
一般的に日本ではマーケティングというと「広告やプロモーション」と捉えられることも多いが、グローバル化の中で「経営そのもの」として捉えている企業もある。
最近は欧米的なCMOの必要性が叫ばれているが、同じように過去CIOの必要性が叫ばれた時期もあり、現在はある程度CIOというものが日本でも定着してきた。
歴史に学ぶという意味でも、CIOの組織を整理し、日本的CMOのあり方を考察してみよう。
一般的に、経営企画部の配下に存在する「システム企画部」は「CIOオフィス」の役割をし、IT投資の計画などを練り、日常的にトップマネジメントとコミュニケーションをとり、経営課題を解決して行く。そして、IT部門とそれに共生するSIerが実装や運用を行う組織が一般的だ(最近はSIer崩壊が話題になっているが…)。
デジタルマーケティングの領域では、マーケティング部門とIT部門がデジタルマーケティングを推進したり、IT部門がオム二チャネル推進部と名前を変えマーケティング機能を丸呑みしたり、各社の取り組みはまちまちだ。
アサヒビールの場合は経営企画本部の中に「デジタル戦略部」を設け、デジタル戦略部は「CMOオフィス的な役割」を担い、部分最適でなく全体最適を目指す。従来のマーケティングは「広告やプロモーション」の部分最適を追及したとしても、「デジタル戦略部」が全体最適を目指していれば、双方が補完されるという訳だ。
日本にはCMOがいない、あるいはIT部門がデジタルマーケティングを取り込むべきだと議論されているが、アサヒビールの
「経営企画本部の中にCMO的な役割の組織を作る」
というアプローチはひとつのあり方ではないだろうか。
アサヒビールの小路明善社長は「週刊エコノミスト 2014年4月1日号」で、
『私は経営のポイントは、市場拡大、市場創出、当社のファン化、の3点だと思っています。
国内市場が縮小するなか、海外展開は必須。海外企業を買収するか、提携して海外の商品を国内で売ったり、国内の商品を提携先に売ってもらう方法も考えます。
ニッカのウイスキーは、国際品評会で何度も入賞し、フランスを中心に欧州でも評価が高い。12年に米国、13年に豪州でも発売しました。スピリッツ(ウイスキーなど)は世界的に伸びており、今後も積極的に海外販売していきます。
ビールも昨年、「エクストラコールド」という氷点下2度のスーパードライを韓国ソウルで販売し、好評でした。スーパードライは海外70カ国で販売していて、世界ブランドになる可能性が高い。まして氷点下ビールは他に例がなく、差別化商品として東南アジアやオセアニアでも売れる余地があると思っています。』
と語っており、「デジタル戦略部」(CMO室的組織)は、
「市場拡大」(新商品やグローバル展開などによる顧客の創造)
「市場創出」(イノベーションによる顧客価値の創造)
「当社のファン化」
という経営のポイントに貢献しなければならず、「市場拡大」「市場創出」とミッションが明確に示されている。
B2B2Cメーカー(小路社長はメーカーでなく総合酒類企業と表現されている)は、自社の顧客を把握しにくく、ID-POS、eコマース、会員サイト、データでの顧客セグメント化、エスノグラフィーでの行動把握など、各社が知恵を絞り取り組んでいるが、「当社のファン化」は、「総合酒類企業」にとって大きなミッションだろう。
そして、「デジタル戦略部」(CMO室的組織)は、
「既存の研究開発、生産、物流、マーケティング、営業、国内、海外を横断できる組織」
で、経営者から明確にミッションが示されているという恵まれた環境にある。
さて、「デジタル戦略部」、「経営の3つのポイント」という俯瞰(ズーム)した話からデータディスカバリの活用という視点に話をフォーカスしよう。
「最初のOracle Endecaの活用事例は、流通在庫の適正化」
で、ビール、発泡酒、新ジャンルなどの新商品が続々と発売される中、流通在庫(出荷量-販売量)の適正化は容易ではない。しかし、過去の類似商品をOracle Endecaで分析することで、
「過去、似たような売れ方をしている過去商品から、現在の商品の出荷量を適正化でき、その製品の累積出荷量と累積販売量を比較することで、追加製造量を適正化できる。」
このケースを時間軸で考察してみよう。
Oracle Endecaの対象としたデータは過去のデータだが、例えば、データを「過去」「現在」「未来」と時間軸(第4回:時間軸で学ぶデジタルマーケティング経営)で分けると、
「過去からのデータ(財務管理のデータ)」
「現在からのデータ(出荷データ、実販データ、POSデータ、日次決算データ)」
「未来からのデータ(iBeaconからのデータ、アクセスログ、MAのデータ、SFA/CRMのデータ、アドテクのデータなど)」
の3つに分類できる。Oracle Endecaは非構造のデータも分析対象とできるので、あらゆるPOSデータを分析対象にできる。これにより、
「Oracle Endecaは現在からのデータも分析可能」
である。アサヒビールではすでにこの部分は取り組まれているが、効果の確認はこれからである。さらに、Oracle Endecaが非構造のデータを分析対象にできるコアコンピタンスは、日本語だけでなく、多言語へも展開可能なので、海外で販売される商品名で、過去、現在のデータを分析することが可能だ。
そして、Oracle Endecaは、正規化された構造化データでなく、非構造化データが多い「未来からのデータ」の分析から、経営の3つのポイントを実現することも可能だ。
「市場拡大」(新商品やグローバル展開などによる顧客の創造)
「市場創出」(イノベーションによる顧客価値の創造)
「当社のファン化」
例えば、多言語のグローバルサイトで共通ブランド商品の世界同時キャンペーンを行った場合、国別にどんな反応があったが分かる。2008年(おそらく日本ではじめての本格的グローバルサイト)に、世界30言語49サイトを構築・統合を完了したクラリオンの福本 博之さん(当時)は、
『サイトを統合しているおかげで、キャンペーン効果を同じ条件で解析して同じ指標でアクセス解析データを判断できます。これからは各国に対しても本社提供のコンテンツだけでなく、ブランド統一下での独自性を出してローカル情報の充実を呼びかけていきます』(福本氏)世界30言語49サイトを1つのCMSに統合してブランド強化に成功 2008年2月4日より
と語っているが、このような「未来からのデータ」や、連携する「現在からのデータ」をグローバルレベルで活用することもOracle Endecaなら可能だろう。
デジタル戦略という視点からアサヒビールのユニークな取り組みは、商品情報、会社情報は自社サイトを通して、ユーザーのライフスタイルの情報は日経BPとの共同運営サイト「カンパネラ(Canpanella)」に集約して発信している点だ。
これは経営の3つ目のポイントの「当社のファン化」につながるものだが、商品そのものの訴求、あるいは広告的なPush要素でなく、ユーザーのライフスタイルと一緒に自社の製品があるという効果が狙っているのだろう。
これはRedBullの考え方と非常に似ている。
(アサヒビールのサイトのMYページが、RedBullのSHOPサイトに類する)
こういうオウンドメディアの考え方をコンテンツマーケティングだと定義する人もいるが、コンテンツそのものに注目させページビューを上げることを目的にするというより、ユーザーのライフスタイルから共感を静かに与えたいということから、
「ライフスタイルマーケティング」
と呼びたい。
余談だが、Facebookなどのソーシャルメディア(自社)に時系列に投稿され流れ消えて行くコンテンツを、ユーザーのライフスタイルに紐付けて集約化する方法なども、多様な商品や、グローバルなローカルライフスタイルもビルトインできる「当社のファン化」に効果のある方法だろう。
ホールディングカンパニーを中心にして子会社が多数存在し、ユーザーのライフスタイル(ステージ)に合わせて商品が複数存在する場合、グループ全体の全体最適をグローバルな「地域の軸」だけでなく、ユーザーの「ライフスタイル(ステージ)の軸」で全体最適を図ることも重要になる。
アサヒビールデジタル戦略部は、アサヒグループにおける先駆けになる必要がある。と、アサヒビールの松浦端氏は最後に語ってくれたが、経営者から明確に示されたミッションがあり、さらに組織横断をすることが可能な(CMO室的)組織があるという意味でも、今後の展開は注目すべきだろう。
今回はOracle Endecaのユーザー事例を紹介したが、Domo、QlikView、Spotfire、Tableau、Lumira、Yellowfinのデジタルマーケティングにおける日本国内ユーザーの事例も紹介したい。
また、データディスカバリの各種情報のアップデートは、「データディスカバリ活用研究会」を通じて行う予定である。
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