前回の企画「データディスカバリの主要4ツール比較--デジタルマーケティングに活用」では取り上げなかったが、Ver 7(2013年12月)からデータディスカバリ機能を取り入れたYellowfinのCEOであるGlen Rabie氏にインタビューする機会を得た。Yellowfinはスケーラビリティとコストパフォーマンスから、
「ひとつの企業での利用従業員比率No.1ダッシュボード」
の評価を得ているが、今回はインタビューを通じて、その秘密を探ってみた。
「BARC BI Survey 2013のTop ranked Dashboard Vendor in proportion of employees(利用従業員の比率)において、Yellowfin(3.20)は1位、QlikView(0.64)は9位、Tableau(0.62)は10位、平均(1.42)。」
Glen Rabie氏はNational Australia BankのIT部門で働いていたとき、7、8社の関連企業の情報活用の戦略立案のメンバーだった。主な仕事はBusiness Object(SAP)のデリバリーだったが、それは高価で導入が大変だったため、同時に代替として社内BIプロダクツをスクラッチで開発していた(結果的にBusiness Objectで困難な部分はスクラッチBIで解決)。
この経験がベースにあり、クリスマスにビールを飲みながらBIを独自開発するアイデアを友人2、3人に話し、創業を決心。さっそく6カ月でアイデアをまとめたビジネスプランを作成し、2003年に自己資金で創業した。
「データディスカバリの主要4ツール比較--デジタルマーケティングに活用」で紹介したDomo、QlikView、Spotfire、Tableauの4つのデータディスカバリツールの中で、創業のモティベーションが、
「自分が従来のBI(ビジネスインテリジェンス)を使って強烈な不満を持ち、それが動機で創業した」
という意味ではDomoとよく似ている。Domoの創業者Josh James氏はエンジェル、ベンチャーキャピタルから資金を集めて創業したが、対照的にGlen Rabie氏(元銀行IT部門)は自己資金で創業した。
また、Josh James氏はトップマネジメントのニーズを熟知し、Glen Rabie氏はIT部門のニーズを熟知しているため、両方のツールにはそれぞれの特徴がよく表れている。
2003年に創業した会社名はYellowfin。現在は北米、ヨーロッパ、オーストラリアにオフィスがあり、従業員は75名、開発者は20~25名。そして日本を含め世界各地にパートナー展開している。
余談だが、自己資金で創業(オーナー企業)したためか、OEM販売を柱(60%)にし、グローバル展開は各地のパートナーを有効活用するなど、最小の投資で効果を得るビジネスモデルで、2014年7月現在では、100万エンドユーザー、1万を超える顧客を50カ国に持っている。
Glen Rabie氏は、創業の頃ユーザーニーズを、
「誰でもデータ分析をしたい」
と考えていたが、Yellowfinのビジネスを行う中で、
「組織の中で5%の人がデータ分析を行うが、95%の人は情報が見たいだけ(見せるだけ)。」
ということを学んだ。
例えば、レストランチェーンビジネスの店舗マネジャーはBIでデータ分析したいが、ヘッドオフィスは店舗マネジャーにデータ分析やレポートに時間を費やして欲しくない。店舗マネジャーには数字を理解して欲しいが、データ分析に費やす時間は最小にして欲しい。
そのため、Yellowfinは大量の人々(組織の95%)にデータをディプロイすることにフォーカスし、なおかつデータ分析などのデータディスカバリ機能(組織の5%)をビルトインした。創業の頃の考え方はTableauの「Help people see and understand their data.」に似ているが、Yellowfinは組織でデータ分析を必要とする人は5%、95%はディプロイされたものを必要としているという考え方だ。
Yellowfinはドラッカーの定義する経営担当者(Manager)向けにデータディスカバリ機能を用意し、一般労働者(Ordinary worker)にはディプロイするのみという方針をとるため100%ウェブベースで、ディプロイする規模が拡大してもパフォーマンスに影響を与えないことにフォーカスしている。
それを実証するかのように、テレコムユーザーで16万ユーザー(おそらく世界最大のBIユーザー数)、日本で3000ユーザーという実績がある。
「『現代の経営』(上、下:P.F.ドラッカー 著 野田一夫 監修 現代経営研究会 訳:1987年4月16日 初版発行)より、
『経営担当者』というのはマネージャー(Manager)の訳語である。本書では、この語は事業の諸機能(顧客の創造、マーケティング、革新などを中心とする諸機能)を担当する責任と権限を持つ人々を指しており、その中には、社長から職長に至る広範な層が含まれている。マネージャー(経営担当者)と区別されるのは、『一般労働者』(Ordinary worker)と『専門家職員』(Professional employee)とであり、企業はこの3つの集団から成り立っている。……中略……わが国のいわゆる『部課長』とマネージャーとを実体的に同一視することができるかどうかは一概には言えない。」
新バージョンの「Yellowfin 7.1」はMDX(OLAP Cube)、JDBCなど50種ほどのデータソース接続インターフェースを搭載し、ビジュアライズの強化、GIS機能の強化を行った。さらに、OpenAPIなどでデータソースとの連携がさらに容易に拡張できる。
GIS機能の強化ではGEOパックの提供でより簡単に地図データを分析に活用できるようにした。従来は顧客データなどを地図上に表示させる場合、緯度、経度のデータを必要としたが、GEOパックに郵便番号レベルで地図上にデータを表示させるための仕組みを組み込んだ。これによって、以前は担当者が手作業で緯度、経度のデータを取得していた作業や外部に委託していた費用などの削減ができる。
16万ユーザーが利用する例では、情報提供サイトやデジタル広告などを提供する通信事業者が、自社のサービスを横断的に利用しているクライアントに対し、効果測定を行うためのレポーティング環境を提供している。
このようなB to B to Cのサービスでは採用が多数あり、豪州でNo.1の不動産広告サイトである「realestate.com」もYellowfinを活用している。同社は物件情報やバナー広告に対するユーザーの反応を解析し、クライアントである不動産業者約8万ユーザーにリアルタイムにユーザーの動きをレポーティングしている。不動産業者は同地区の他社物件へのユーザーの反応などを確認し、自社のマーケティング戦略を立案する。
また、B to Cの分野では米二輪車大手のハーレーダビッドソンが自社販売データや他社販売データなどを集約し、地域毎の顧客層やニーズを解析、フランチャイズオーナー店を含む1000ユーザーにマーケティングレポートを提供している。
今回のYellowfinの創業者でオーナーであるGlen Rabie氏のインタービューを通じて感じたことは、Yellowfinは大規模ディプロイが得意なことと、Glen Rabie氏は鮨が好きで、好きな鮨ネタを尋ねたら、
「当然、キハダマグロ(Yellowfin)と答えが返ってくると思ったが、ウニが好きとのこと(笑)」
IT部門出身の創業者であるGlen Rabie氏の人柄が伝わってくる楽しいインタビューだった。
Yellowfinは、2003年にオーストラリアのメルボルンで設立されグローバルに展開しているが、自前で現地法人を設立するのではなく各国へのチャネルビジネスが主体だ。日本は京セラ丸善システムインテグレーションが総代理店で、30社のパートナー、140社の顧客ベースがすでに存在する。
価格体系は、最小導入から全社導入までスムースに対応できるよう、
「サブスクリプション契約で、月額2万5000円、5ユーザー(年額30万円)」
という価格体系に加えて、指名ユーザライセンス、同時ログインライセンス、CPUのいずれかを永続、サブスクリプションのいずれかで購入可能だ。
Yellowfinのユニークな点はOEMビジネスが経営の60%を占めているところにある。
データを提供している会社が分析サービスにYellowfinを活用し、サービスを提供したり、パッケージベンダーがYellowfinを製品に組込み付加価値を高めたりする。
例えば、新日鉄住金ソリューションズの「BancMonitorContrast」(融機関財務関連情報提供サービス)の90の分析テンプレートなどや、コードレスなRADツールとしてNetWare時代から脈々とビジネスを展開しているイスラエルのマジックソフトウェア・ジャパンの「Magic xpi」へBIをビルトインしたアプリケーションとして提供されている。
したがって、Yellowfinは静かに世界中に浸透し、世界50カ国1万を超える顧客基盤を獲得している。
Yellowfinは、日本国内でも1社で3000ユーザーを活用しているケースがあるように、最初はチーム単位(5ユーザー)で安価に導入され、後に全社に拡大導入されるケースが多い。これはYellowfinのコストパフォーマンスが高いことと、
「100%ウェブベース(HTML5)であること」
が大きな要因ではないだろうか。
Yellowfinと他のデータディスカバリベンダーとの大きな違いは、外資系日本法人でなく、国内総代理店方式だという点だ。京セラ丸善システムインテグレーションはSIerで、ユーザーのニーズをヒアリングすることからビジネスを開始するタイプの会社であるため、Yellowfin(現物)を「現実」(三現主義)に確認してみてはいかがだろうか。
次の企画は、前回の「データディスカバリの主要4ツール比較--デジタルマーケティングに活用」で紹介した Domo、QlikView、Spotfire、Tableau に加えて、Endeca、Lumira、Yellowfinのデジタルマーケティングにおける日本国内ユーザーの事例を紹介したい。
また、データディスカバリの各種情報のアップデートは、「データディスカバリ活用研究会」を通じて行う予定である。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」