連載第5回「接客から学ぶデジタルマーケティング経営」で紹介したように、直帰率とコンバージョン率は相関関係がある。これは、私たちが行った実証実験における統計解析で明らかになった。連載第4回「時間軸から学ぶデジタルマーケティング経営」で解説した「未来からの経営」にも統計解析は役立つ。
今回は、私たちが「ウェブログからの需要予測」という実証実験を行ったときの方針や結果などを解説することで、統計解析をデジタルマーケティング経営に活用するひとつの例を紹介したい。
私たちは実証実験を「最小リスク方式」で行う方針とした。つまり、最初からSASやSPSSなどの高価な商用パッケージを使いプロジェクトを立ち上げ、一気に開発するのではなく、最初は費用ができるだけかからない方法で失敗をしながら知識と知恵を身につけて、段階を踏んで本格的なものにしていく「最小リスク方式」という方法をとった。
こういった手法は、未知の分野を研究探索するときに有効で、そのルーツは東京大学生産技術研究所のペンシルロケットにあった。安価なペンシルロケットをたくさん発射することで、試作、生産、試験、飛翔実験のすべての分野でロケット工学にどんな問題があるかを学び、屋外の飛翔実験に何名の人員といくらの費用がかかるかを知ることができた。そして、ペンシルロケットは後の固体燃料ロケット イプシロンになった訳だ。
具体的には、できるだけコストのかからないWebサイトの アクセス解析ツールは無料のGoogle Analytics、統計解析(データサイエンス)のEUCツールとしてRコマンダーを利用することにした。
「直帰率(Bounce Rate)とコンバージョン率(Conversion Rate)に相関関係があるか、あるならばどれぐらいか、直帰率をどれぐらい下げればコンバージョン率が上がるか」という問いに対して数字を使って説明してくれるのが回帰分析である。回帰分析とは、「あるデータ(説明変数と呼ぶ)から違うデータ(被説明変数と呼ぶ)への相関の程度を分析する」手法である。この手法は「相関の程度を知りたい」、「相関がどの程度の精度を持っているか知りたい」、「相関の程度を使って予測したい」場合に使われる。直帰率とコンバージョン率を使って、回帰分析をした場合、以下のような式を得ることができる。
Convertion Rate = a + b × Bounce Rate + e
a、bは分析するデータによって異なり、aは切片、bは直帰率の角度である。そして、eは残差と呼ばれる。実証実験のデータを使って、回帰分析を行うと、aが1.03、bが-0.01という式が得られた。
Convertion Rate = 1.03 - 0.01 × Bounce Rate + e
「直帰率が50%の場合、コンバージョン率は53%(1.03 - 0.01 × 50)になる。直帰率が49%に下がればコンバージョン率は同様の計算で54%に上昇する」
ということが、今回の実証実験で分かった(「勝ち続けるための-デジタルマーケティング経営」の「実証実験」より)。
今回の実証実験ではウェブログとERPからの売上は「BigQuery」をテンポラリーなワークスペースとして活用した。ここでは具体的な実証実験の解説は省くが、
「今回の実証実験におけるBigQueryの使用料は5円だった」
今回のゴール統計解析を行うソフトウェアパッケージはSAS、SPSS、R言語(Rコマンダー)などがある。また、次世代BI、あるいはデータディスカバリー分野ではセルフサービスでデータ分析ができるQlikView、Tabreau、Spotfireなどがある。デジタルマーケティング経営で、統計解析やデータディスカバリー分野が注目される理由は、これらのツールをEUC(エンドユーザーコンピューティング)として活用できることは、ドラッカーのいう「ビジネス(事業)=マーケティングとイノベーションによる顧客創造」の「マーケティング」と「イノベーションの誘発」の両方に効果的だからだ。
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