「データディスカバリの主要4ツール比較--デジタルマーケティングに活用」を掲載した2014年6月6日のおよそ1カ月後に、SAPジャパンから「SAP Lumira」(ルミーラ)というデータディスカバリツールが発表された。
SAP Lumiraは、もともと「SAP Visual Intelligence」という名称で販売されていたものだが、2013年にSAP Lumiraに改称した。SAPにおけるアナリティクス部門の3分の1の開発リソースを投入し2、3カ月毎にバージョンアップを繰り返し、現在のバージョン1.17を以て他のデータディスカバリツールに対し競争優位に立てるレベルを実現している。
SAP(SAP BusinessObjects)や、前回取材したYellowfinなどの既存BIベンダーは、新興勢力であるDomo、QlikView、Spotfire、Tableauなどの専業データディスカバリベンダーが市場を席巻してきたため、新バージョンから従来のBI機能に加えて、データディスカバリ機能を充実させ、専業データディスカバリベンダーに対抗しているというのが、業界全体の構図になっている。
また、データディスカバリ市場そのものもIDCの調査によると年平均30%の成長率が見込まれており、既存BIベンダーはそれを見逃すはずがない。
今回は、SAPジャパンでSAP Lumiraを含めたアナリティクス全体を統括しているイノベーション&ソリューション統括本部 アナリティクスソリューション本部 部長である中田淳氏にインタビューする機会を得た。既存BIベンダーの中でも強力なユーザー基盤を持つSAPが、なぜデータディスカバリツールであるSAP Lumiraを提供するのか、その真意を探ってみた。
データディスカバリベンダーの担当者にインタビューする際は、はじめに製品についてのプレゼンテーションなどを行っていただくのだが、中田氏は
「SAPの考えるSAP Lumiraのユーザーの位置付け」
を、まずボードに書いたのである。
つまり、データディスカバリベンダーという供給側のカテゴライズしたものではあるが、ターゲットとしているユーザーを明確にしたのだ。
余談だが、あるデータディスカバリベンダーでは、ただひたすら自己陶酔型プレゼンをする人や、自社の方針だけを繰り返す人もいたが、こちらが質問する前に、ユーザーの位置付けを説明していただいたのは、はじめての経験だった。
ボードに書かれた絵は、後ほど広報の方から図として送っていただいたので、それをベースにSAP Lumiraのターゲットユーザーを考察しよう。
図には、SAP Lumiraのターゲットユーザーは「ビジネスユーザー&業務ユーザー」「ビジネスアナリスト」「データサイエンティスト」の3つの中で「ビジネスアナリスト」とあるが、
「経営担当者」というのはマネージャー(Manager)の訳語である。本書では、この語は事業の諸機能(顧客の創造、マーケティング、革新などを中心とする諸機能)を担当する責任と権限を持つ人々を指しており、その中には、社長から職長に至る広範な層が含まれている。マネージャー(経営担当者)と区別されるのは、「一般労働者」(Ordinary worker)と「専門家職員」(Professional employee)とであり、企業はこの3つの集団から成り立っている。……中略……わが国のいわゆる「部課長」とマネージャーとを実体的に同一視することができるかどうかは一概には言えない。
*「現代の経営」(上、下:P.F.ドラッカー 著 野田一夫 監修 現代経営研究会 訳:1987年4月16日 初版発行)より
で考察すると、
となり、SAP Lumiraはマネジャー(Manager)がターゲットユーザーになる。
SAPのアナリティクスソリューションは「SAP BusinessObects」「SAP Lumira」「SAP InfiniteInsight」の3つ、その中のLumiraの製品形態は、
の3つが用途によって分かれている。
データディスカバリを実際行うのは「SAP Lumira(デスクトップ)」、閲覧するのは「SAP Lumira(サーバ)」、「SAP Lumira(クラウド)」などで、HTML5からとしている。この考え方はYellowfinのCEOであるGlen Rabie氏の考え方と同じだ。
Glen Rabie氏は、創業の頃ユーザーニーズを、
「誰でもデータ分析をしたい」
と考えていたが、Yellowfinのビジネスを展開する中で、
「組織の中で5%の人がデータ分析を行うが、95%の人は情報が見たいだけ(見せるだけ)。」
ということを学んだ。
そして、SAP Lumira(デスクトップ)はデータソース制限版を無料でダウンロードして使うことができ(Tableauのマーケティング戦略と似ている)、さらにSAP Lumira(クラウド)も無料で1Gバイトまで活用できる。
当然のことだが、SAP Lumiraは既存のSAP BusinessObjectsのユーザーが最大のターゲットとなる。大阪ガスやJFEスチールなど日本国内3500社のユーザーベースがあり、全社員レポート(ダッシュボード)などで活用されている。Tableauなどの新興データディスカバリベンダーは、SAP BusinessObjectsがいかにインプリメンテーションが大変か、ユーザー部門にとっていかに利活用しにくいかなどを説きながら売り込みをかけて行く。
SAP Lumiraが、「SAP Lumira(サーバ)」「SAP Lumira(クラウド)」「SAP Lumira(デスクトップ)」という3つの製品形態を持つのは、新興データディスカバリベンダー対策なのだろう。
しかし、新興データディスカバリベンダーが狙うのはユーザー部門で、SAP BusinessObjectsのユーザーであるIT部門とは異なるため、無料ダウンロードや1Gバイトまでの無料クラウド、eコマース販売なども行われている。
SAPは、データディスカバリツールベンダーのEndeca Technologiesに出資していたが、SAP Visual IntelligenceからSAP Lumiraへとデータディスカバリツールは自前で開発した。大手ベンダーの場合は、M&Aで製品を新規に揃えたり、自前で開発したり、あるいは自前開発を断念してM&Aでユーザーごと手に入れたり、M&Aを断念し自前開発したりと必要な場合の手段は複数ある。
結果的にEndecaはOracleが買収したが、現在SAP LumiraはSAPのアナリティクス部門の3分の1の開発リソースを投入するほど力を入れているようだ。
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