培養肉の課題は多大なコスト--うなぎ開発のForsea Foodsに聞く商品化までの道のり

 「土用の丑の日」などで食べる習慣があり、日本で高級食材として親しまれている「ニホンウナギ」は現在、国際自然保護連合により、絶滅危惧種に指定されている。

 そんな中、イスラエルを拠点とする細胞水産業のスタートアップForsea Foodsが2024年1月、細胞を育ててつくる培養うなぎの開発に成功し、試作品を公開した。6月4日にはテルアビブの高級レストランにて行われた公式試食会でこの培養うなぎを提供し、投資家、ジャーナリスト、日本大使館の代表やイスラエルに拠点を置く日本の食品会社の代表など、40人のゲストを迎えたという。

 細胞培養を行うには、細胞を作る「幹細胞」の増殖や分化を促す特殊なタンパク質「成長因子」が使用される。しかし、この成長因子は多大なコストを要し、細胞培養による食品を流通させる際の大きな課題であるとされてきた。

 Forsea Foodsはこの成長因子にかかるコストを、独自の「オルガノイド技術」を使用することで、大幅に削減したという。同社は培養うなぎを世界でどのように展開し、水産品の未来につなげていくのか。事業開発マネージャーを務める杉崎麻友氏に話を聞いた。

Forsea Foods 事業開発マネージャー 杉崎麻友氏 Forsea Foods 事業開発マネージャー 杉崎麻友氏
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  1. 世界で増加する水産品の需要に応えるために
  2. 培養うなぎの商品化を可能にしたオルガノイド技術
  3. 進む培養肉の法整備、日本での認可は?

世界で増加する水産品の需要に応えるために

――Forsea Foodsはどのようなミッションを掲げ、設立に至ったのでしょうか。

 Forsea Foodsは、2021年に設立した第2世代の培養肉スタートアップです。これまで細胞培養は多大なコストを必要とすることが課題で、商品として市場に持っていくことが難しかったのですが、Forsea Foodsはこれを、オルガノイド技術を用いることによって可能にしています。

 世界の水産品需要は2050年までに2倍に増加すると予測されており、現在のままの漁業では、この需要に対応することが難しいと言われています。環境問題などによって海で取れる魚は減っていますし、養殖技術は発達してきていますが、それでもすべての需要には対応できないでしょう。

 したがって、養殖のほか、植物性の代替シーフードなどさまざまな生産手法を組み合わせていくことが必要です。Forsea Foodsはその1つとして、水産品の細胞培養という選択肢を現実化していきたいと考えています。

テルアビブの試食会で提供された培養うなぎ テルアビブの試食会で提供された培養うなぎ
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――イスラエルでは、宗教上の理由でうなぎを食べることは少ないと聞きました。Forsea Foodsが細胞培養する商品として、うなぎを選んだ理由は何だったのでしょうか?

 どのような水産品を細胞培養するかを考えるにあたって、Forsea Foodsは「高価なもの」「絶滅危惧種であるもの」「需要が高いもの」の3つを条件としてあげていました。今後はうなぎと構造が近い他の水産品の細胞培養も進めていく構想がありますが、第1弾として、この3つの条件を満たすうなぎの培養を行うことになったんです。

 うなぎは日本での人気が特に高いため、Forsea Foodsも最初の市場として日本を考えています。しかし、アジアやヨーロッパのほか、アメリカでも日本食ブームなどがあり、うなぎは世界中で食べられている水産品です。

培養うなぎの商品化を可能にしたオルガノイド技術

――培養うなぎの開発にあたって、どのようなことがハードルでしたか。

 培養肉は、動物から採取した細胞を培養液の中で増やすことで生成します。しかし、この培養液に含まれる血清成分や成長因子は非常に高額です。そのため、これまで医学系での研究開発が進んできた細胞培養の技術を食品に生かすためには、コストをいかに抑えられるかが大きな課題となっていました。

 また、筋肉細胞は筋肉細胞、脂肪細胞は脂肪細胞で培養して、それを最終的に組み合わせる従来の技術は製造工程がとても複雑です。大量生産に向かないことも、培養肉を商品として流通させるために乗り越えなければならない課題でした。

ラボでの様子 ラボでの様子
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――細胞培養のコストを抑制し、大量生産にもつなげられるオルガノイド技術について教えてください。 

 オルガノイドとは、幹細胞の自己複製能力と分化能力を活用して作られる三次元構造体です。「ミニ臓器」とも呼ばれ、解剖学的にも機能的にも、生体内の組織に近いという特徴があります。オルガノイドを使用すると、細胞が組織を形作るときに支持体となる足場が不要となり、製造工程をシンプルにできるんです。これにより、スケーラビリティを向上させることができました。

 また、独自の製法で成長因子のコストを大幅に削減しています。これまでは研究開発フェーズでしたが、今後は量産体制に入ったときの実際のコスト面がどうなるかなどを実証していく商業ベースに入っていきます。実際の商品化に一歩ずつ近づいているところです。

Forsea Foodsの細胞培養技術 Forsea Foodsの細胞培養技術
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進む培養肉の法整備、日本での認可は?

――日本での販売開始に向けて、または世界で展開していくにあたって、どのようなことを考えていますか。 

 2025年に資金調達を完了してスケールアップを目指し、生産体制を整え、2026年に実際の商品を発売するというスケジュールを目標に動いています。

 現在商品化を目指している培養うなぎは、可能であれば日本で最初に販売を開始したいのですが、国の認可がどうなるかなど、まだ読めないところも正直あります。2023年12月に厚生労働省が「いわゆる『培養肉』に係るこれまでの状況等」を公表しており、どのような点を評価すれば安全基準を満たしていると言えるのか、事業者が集まって議論や調査を進めているところです。

 日本で販売を開始するとなったら、まずはスーパーなどに並ぶ商品としてではなく、パートナー企業と相談を重ねながら、高級レストランなどで扱う商品としての流通を考えています。

――日本以外の国でも、細胞性食品の法整備は進んでいるのでしょうか。 

 シンガポールとアメリカではすでに培養鶏肉の販売認可が下りています。他には、イスラエルで培養牛肉、オーストラリア企業がシンガポール国内でウズラの培養肉の販売認可を得ています。いずれの場合も、すべての培養肉が許可されているわけではなく、この会社のこの製品で、この製造方法であれば販売可というように、1つ1つ個別に認可が下りているような状況です。

テルアビブで行われた試食会 テルアビブで行われた試食会
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――細胞培養や水産品の未来について、Forsea Foodsが描いているビジョンはありますか。 

 気候変動などの影響により、これまで魚を取れていたエリアでも漁業が難しくなるなど、水産品の未来は厳しい状況にあります。しかしそこで魚を食べるのをやめるのではなく、新しい選択肢として、細胞水産品の可能性を提示していくことが当社のミッションです。50年後や100年後も、今と同じバラエティ豊かな魚を食べ続けられる未来を、Forsea Foodsは実現したいと思っています。

 日本は古くから水産品に慣れ親しんでいて、かつ味にも厳しい国です。そんな日本でこそ、パートナー企業と協力しながら細胞培養の水産品のおいしさを知ってもらい、世界に発信していきたいですね。

 多くの人に「細胞培養という選択肢もありだな」と思ってもらい、市場を確立していくことがこれからの目標です。

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