メルカリが「ビットコイン」の積立サービスを開始した。「メルカリ」アプリ内で最低1円から積み立てることができ、今後は売上金を使った積立にも対応する。積立回数は月間1〜4回を選択でき、ドルコスト平均法によって暗号資産の激しい価格変動のリスクを分散できる。
この積立機能は、初心者が「いつ買えばいいか」を悩まずに、手軽にビットコイン投資を始められる一方で、ビットコインの価格が長期的に維持されなければ積立の効果は薄れる。「オルカン」に代表される株式の投資信託の場合、投資先企業が価値の裏付けとなるが、ビットコインの価値とはどのようなものなのだろうか。
こうしたビットコインの資産性については、機関投資家が参入し、米証券取引委員会(SEC)が現物の上場投資信託(ETF)を承認するなど、単なる投機的な資産から重要な金融アセットとしての地位を確立したとの見方も広がっている。メルカリの子会社で暗号資産事業を手掛けるメルコインはどのように考えているのか、同社で代表取締役CEOを務める中村奎太氏に話を聞いた。
ーーそもそも、なぜメルカリはビットコイン取引サービスを手掛けているのでしょうか。ビットコインによって社会を「こう変えたい」という野望があるのでしょうか?
中村氏:ビットコインを支える技術は社会に大きな変革をもたらす可能性があると考えています。インターネットがここまで社会に浸透し、インターネットなしでは生活が成り立たない状況になったように、暗号資産やブロックチェーン技術も同様のインパクトを持つ可能性があります。
現在、インターネット上で価値を安全かつ安心して伝搬する仕組みはビットコイン(などの暗号資産)以外には存在しないと考えています。
今後はビットコインなどを活用し、よりインターネットネイティブな形で、通信で価値をやりとりできるサービスが登場すると考えており、私たちとしても、そのようなサービスへのアクセスをより容易にしていきたいと考えています。メルカリは生活に根ざしたサービスであるため、ビットコインが生活に近いところから広まることで、暗号資産やブロックチェーンの魅力や意義がより広がると期待しています。
ーー暗号資産やブロックチェーンが浸透した社会の到来に備えていると。
中村氏:抽象的な話になりますが、Web3やブロックチェーンがしっかりと浸透した世界が訪れたとしても、現金や既存の金融システムとの共存は避けられないと考えています。既存の金融は淘汰されるのではなく共存し、相互に行き来できる状態になることを期待しています。
この相互の行き来を簡単にする仕組みを提供することが、私たちが目指すところです。その中でも、特に重要だと考えているのは、法定通貨と暗号資産をつなぐ「取引所」の存在です。また、デジタルコンテンツを簡単に売買できる「マーケットプレイス」も必要で、そのユーザビリティを高めることも目標としています。
さらに、WEB3の世界で重要とされる「ウォレット」についても、私たちが提供すべき重要な要素だと考えています。結局のところ、この世界線ではウォレットを持ち運ぶことが不可欠です。これをどのように定義し、最適化していくかが、私たちに求められていると感じています。これら3つのピースを仕上げることが、メルカリとしての目標です。
ーービットコインの資産性についてはどのようにお考えでしょうか?
中村氏:さまざまな考え方があると思っていますが、私がさきほども話した通り、インターネット上の行動や価値のやりとりを代替する手段としてビットコインが提案されて、そのビットコインに価値がしっかり付き、その価値がこれだけ継続していること自体、「価値がないもの」とは言い切れない状態に事実上あると思っています。
ある種、金(ゴールド)もまったく同じ概念だと思っていて、誰かが「金には価値がある」「美しい」と言い出さなければ、そこに価値は生まれなかったでしょう。それが通貨として広まっていったように、ビットコインに価値があると信じた人々がそのプロジェクトや概念に共感し、ここまで拡大してきた結果、今ではその価値を否定することはできない状態になっていると考えています。
ーー1ビットコインが1000万円を超えた局面がありましたが、こうした価格上昇は予想されていましたか?中村氏:1000万円を超えるとは思っていましたが、やはり早かったですね。もう少し時間がかかると予想していたので、このスピード感は予測できませんでした。正直、価格の上下は予測できませんが、200万や300万円の時点ではまだまだ安いと感じていました。この領域では、信じるしかない部分が大きく、はっきりした答えはないと思います。
ーーご自身はビットコインはお好きなのでしょうか?
中村氏:「好き」といってもいろいろな意味がありますが、暗号資産が好きで、買ったり売ったり、草コインをたくさん持っている人もいると思います。ただ、私はどちらかというと技術が好きで、昔からテクノロジーに興味がありました。ビットコインに魅了されたのも、儲けるためではなく、その技術自体が面白かったからです。最初にビットコインのホワイトペーパーを読んだとき、その可能性に衝撃を受けました。「こんなことが本当にできるのか?」と驚いたのを覚えています。それが実現し、ここまで広がったのを見て、テクノロジーの力に感心せざるを得ませんでした。だから私は、この技術面が特に好きなんです。
もともと、私はエンジニアとして働いていました。大学ではAIの研究をしていて、特に、今でいうLLMやディープラーニングではなく、AI同士が交渉したり合意を形成するような研究をしていました。いわゆる「コンセンサス」に関する研究です。AIと人間がどうやって交渉し、答えを導き出すのか、またAI同士がどうやってそれを行うのかを研究していたんですが、この「コンセンサス」の概念は、ビットコインのシステムにも反映されています。ビットコインのネットワーク上では、データが飛び交い、それをみんなで確認して「これは正しい」と合意する仕組みがあるんです。このコンセンサスアルゴリズムが、実際に動いている分散システムとして現れたのがビットコインです。ビットコインは100%完璧なものではありませんが、実際に機能するシステムとして提案され、それが価値を持っているというのは、非常に面白いと感じます。これが、私がビットコインや暗号資産を面白いと思う理由です。
ーーDMMビットコインの流出事件がありましたが、同じく暗号資産を扱うメルコインとしてはどのように受け止めていますか?
中村氏:実際のところ、DMMビットコインの流出事件の原因が完全に特定されているわけではなく、情報もすべて公開されているわけではありません。そのため、私たちも聞いた話をもとに状況を把握しているという状態です。私たちは安全性について改めて確認を行い、どこかのポイントに漏れがないか、内部からの不正やハッキングの経路がないかなども含めて、システム全体をしっかりと点検しました。その結果、現時点では、私たちのシステムに懸念はないと考えています。引き続き、お客様に安心してご利用いただけると確信しています。
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