データディスカバリの主要4ツール比較--デジタルマーケティングに活用 - (page 6)

田中猪夫(日本総合研究所 特命研究員)2014年06月06日 11時00分

【Tableau】

企業内個人のためのTableau

 Tableauはスタンフォード大学の教授であり、PixarでCGアニメーションの開発を手がけたDr. Pat Hanrahan氏のビジュアライゼーション、画像合成、グラフィックシステムなどの研究から生まれた「VizQL(Visual Query Language)」と呼ばれるデータベース視覚化言語がルーツだ。

 Tableauはその優れた操作性、導入の容易さから企業内でデータを扱う個人をターゲットとしており、この企画で読者想定したマネージャー、トップマネジメントのみならず、「一般データ利用者」(Ordinary data worker)と「専門家職員」(Professional employee)もターゲットとする汎用的なツールとなっている。

 Tableauの特徴を「ひとこと」で表すと、

「企業内個人のためのデータディスカバリツール」

と表現できるのではないだろうか。

Tableau=超Excel

 私感だが、企業内個人をターゲットとして、非定型業務として、

「超Excel=Excel+ビジュアル分析」

と位置付けられる。

 パソコン業界の歴史を振り返って見ると、位置付けがさらにはっきりする。ExcelはWindows PCにバンドルされることで必然的に企業内に浸透したが、Windows以前の1980年代は表計算ソフト(例えば、Lotus 1-2-3)は、企業内個人が自分のお金なり、会社のお金で購入していた。

 購入した表計算ソフトは、有志が集まり使い方を勉強したり、書店に「はじめての表計算ソフト」など解説本が山積みされ、自発的に企業内で活用されていた。

 現在のTableauは企業内で1980年代のEUC(End User Computing)に表計算ソフトやデータベースソフトなどが活用されていた段階と似ている。その頃との大きな違いは個人情報保護法の出現で企業のデータなどのガバナンスがしっかりしてきたことだろう。

 当時は一括して同じ表計算ソフトを購入する企業はまれにあったが、ほとんどが個人の活用、部門での活用として組織にビルトインしていった。

 そしてそれはPCにWindowsとExcelがバンドルされ、企業がPCを一括購入することで淘汰し、Excelが標準的な表計算ソフトとなった。現在はPCだけでなく、タブレット、Chromebookのようなクラウド端末などが企業に一括導入される可能性があり、1980年代のようにボトムアップで導入されたものを、トップダウンによるPCの一括購入で駆逐される可能性は少ないが、クラウドのツールが浸透する「隙間」がある。

デジタルマーケティングデータとの連携

 データディスカバリツールでデジタルマーケティングのデータを含めたデータディスカバリを行う場合、重要なポイントはアクセスするデータソースとの接続性にある。

 「全員マーケッターという発想を組織にビルトインすること」(マーケッティングと経営は一体)の3桁の使命分析、

『3桁:データディスカバリツールをトップマネジメント、ユーザー部門(マネジャー)が導入し、「過去からのデータ(財務管理のデータ)」「現在からのデータ(POSデータ、日次決算データ)」「未来からのデータ(アクセスログ、MAのデータ、SFAのデータ、アドテクのデータなど)」から「何かを探索する」』

におけるデジタルマーケティングデータへの接続プラグインは、ある程度標準で取り揃えているようだ(詳細は不明)。

200名のユーザーコミュニティ

 Tableauは日本で200名規模(2014年6月現在)のユーザーコミュニティがある。企業内個人でTableauを利用する人は、このコミュニティに参加し、ノウハウや情報の交換を行うことができる。しかし、1980年代のEUCにおける非定型業務ツールに解説本があったように、Tableauにも「はじめてのTableau」(Downloadしたのに使えない人の救済)や「Tableau活用ノウハウ集」(利用ノウハウのオープン化)のような解説本が、裾野を拡大する意味でも必要ではないだろうか(米国では数多くのTableauの解説本が出版されている)。

 さらに利用ノウハウをface to faceで伝承する仕組みを工夫する必要があるだろう。

 一般的に自社のノウハウを同業他社に伝えることは難しい。流通業であればペガサスクラブの渥美俊一氏、製造業であれば山田日登志氏のような第3者のリーダーが、データディスカバリ活用ノウハウの伝承ハブになれば、それも可能になる(すでに、Tableau日本法人でも第3者とのオピニオンリーダーとの連携を通じてこのような情報発信を強化しているようだ)。

 あるいはビジネス的に競合しない異業種の集まり(Association)で、トップマネジメント向け、マネージャー向けなどのデータディスカバリ活用ノウハウの伝承ハブも必要だろう。

Power Pointの教訓

 余談だが、ある企業で導入されたPower Pointが閲覧機能(ビューワー)しかなかった。これは非常に合理的な考え方で、

「PCにバンドルされたPower Pointを使い、全員が図を描く作業は必要ない」

という判断が行われ、ビューワーのみが導入された。

 例えば、Power Pointを使うべき仕事かどうか自分で判断しPower Pointを使う場合と、何も考えずPower Pointを使う場合で、企業内個人のワーク時間の効率に格段の差が出ることは、トップマネジメントやマネージャーなら理解していただけるだろう。

 つまり、データディスカバリでデータをビジュアル化することに費やした時間に意味があるかという判断を、企業内個人が自ら行うなら問題ないが、

「無意識にデータをビジュアル化することが目的」

になると、PowerPointと同じように企業内個人が自発的にデータディスカバリツールを使うことがプラスにならない場合がある。

 Tableauのユーザーターゲットが、企業内個人でデータを扱うすべての人(People)、

「Help people see and understand their data.」

となっているため、この「矛盾」をTableauの日本法人であるTableau Japan とユーザーコミュニティーがどう解決するのか(エコシステム)が気になる。一般論だが、データディスカバリをトップマネジメントやマネージャーが活用する場合は、データをビジュアル分析するという発想にプラスして、Management by exception(例外管理)にフォーカスすることも必要だと思う。

まずは、無料ダウンロード

 Tableauは企業内個人のためのデータディスカバリツールのため、ダウンロードが簡単に(5分以内)できる。「現物」に直接触れ、「現実」を捉え、個人の仕事で活用できるかどうかを確認してはいかがだろうか。

最後に「明日のマネジャー」のために

 ドラッカーは「新訳 現代の経営」(下) <第29章 明日の経営管理者(マネージャー)>に明日のマネジャーに必要なスキルとして、

『最後に、明日の経営管理者(マネジャー)は、多様な手法を習得しなければならなくなる。しかも、その多くは彼ら自身が開発する必要がある。彼らは、事業の重要な領域について、自らの仕事ぶりと成果を評価測定するための尺度を必要とする。また、長期の未来について、意味ある意志決定を行うための経済的手法を必要とする。そして意思決定のプロセスにかかわる新しい方法論を身につける必要がある。』

としている。この本の書かれた当時の「経済的手法」はOR(オペレーションズ・リサーチ)と呼ばれていたが、2000年代のBIのEUC時代はデータマイニングと呼ばれていた。

 そして、2014年からはデータディスカバリ(+データサイエンティスト)となるだろう(読者の皆様の成功をお祈りしています)。

次回はユーザー事例での比較

 次の企画は、4つのデータディスカバリツールの日本国内ユーザーの事例を紹介したいと考えている。今回のように4つのツールの事例を同時にまとめて紹介するのは難しいかも知れないが、各ツールの特長をさらに理解していただく機会となれば幸いである。

 また、今回の企画をベースにして、

『「データディスカバリ活用研究会」:データディスカバリーツールなどを利用し、デジタルマーケティングデータや経営データを、リアルタイムにビジネスに活用する方法・事例などを研究する活用術の研究会』

を運営開始した。

 今後の情報のアップデートはこのFacebookページを通じて行う予定である。

田中猪夫
◇ライタープロフィール
田中猪夫(一般財団法人 日本総合研究所 特命研究員)
1959年11月19日、岐阜県生まれ。
日本版システム工学を専門とする。
20代に、当時発売したばかりのPCでのVARビジネスを創業
30代に、イスラエルITテクノロジーの日本への展開に尽力
40代に、外資系ITベンダーの日本法人のマネジメント
現在は、一般財団法人日本総合研究所 特命研究員。
デジタルマーケティング経営研究会」を主催・運営。
データディスカバリ活用研究会」を主催・運営。お問い合わせはこちら
主な著書
勝ち続けるための- デジタルマーケティング経営(原著)」PDF版
あたらしい死海のほとり」(Kindle版)
New shores of the Dead Sea」(Kindle版)

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