ITプロジェクト全般にいえることかも知れないが、プロジェクトを開始する前段階の工程がない、もしくは軽視され、いきなり「製品の実装=プロジェクト」となるケースが多い。製造業であればリサーチ・企画立案・設計、そして製造となる。「製造業の製造=ITプロジェクト(製品の実装)」に陥る傾向が増えたのは、ユーザーが手作りでソフトウェアを開発する習慣を忘れてしまったからだろう。デジタルマーケティングのテクノロジーを手作りする人はそれほどいないと思うので、今回は前段階の工程をきっちり行い製品の実装に入るひとつの方法を紹介する。
料理人は素材を買いに行くときに(素材からヒントをもらいつつ)「顧客を思い浮かべ、何をどう作ろうか」ということを考え、そして「料理を作る」。ITの場合は、冷蔵庫にあるERPとかSCMを選び、そのプロジェクトを行う(料理をする)。料理は「料理を作る」の前に、「みそ汁は沸かしすぎると麹菌が死滅し、しょっぱくなる」とか、「~は熱を加えすぎると硬くなる」というような過去の失敗が研究(おばあちゃんの知恵など)されている。みそ汁を沸かしすぎてもみそ汁は飲めるので、それでも良い。つまり、ITのプロジェクトが完了すれば使えることは使える。美味しくないだけ。
料理人が素材を買いに行く工程と失敗研究の工程があった上で、「料理を作る」工程があれば、美味しくなる。
デジタルマーケティング経営のプロジェクトの前段階を日本版システム工学で考えると以下の工程が必要になる。
ひとつひとつの工程は料理人が普通に頭の中でやっていることで、大したことはない。PMBOKなどでこのプロセスをどう捉えているかどうかは知らないが、一般の新商品開発の現場では(方法は別にして)行われているプロセスだと思う。ところが、デジタルマーケティングのテクノロジーの導入は、何を導入するかを決定(9)し、(10)が開始されることが多い。
外資系ITベンダーのお手伝いをしている頃、ユーザーからたくさんのRFP(Request For Proposal)が送られて来たが、RFPに書いてあるプロジェクトの名前が
「リニューアルプロジェクト」
と書いてあるのがほんとんどで驚いた。Webサイトのリニューアルは手段のはずが目的化しているのだ。これでは(5)オルターナティブが出てこない。
例えば、前段階をロジカルに進める方法のひとつである日本版システム工学のプロセスで(3)使命分析を金魚鉢で考えてみよう。普通、パッと思い浮かぶのは四角い金魚鉢だ。この金魚鉢の他に円形(球形)の金魚鉢も思い浮かぶだろう。金魚鉢は金魚を泳がす目的もあるが、人は鑑賞することを目的に金魚を飼う。四角い金魚鉢は、ガラスに囲んだだけの金魚鉢だが、円形の金魚鉢は三百六十度の鑑賞ができる金魚鉢で、四角いものより鑑賞性に優れている。そしてもうひとつ「部屋」と「部屋」の壁の間に壁の厚さの薄い金魚鉢を作り、そこに枠をもうけると、まさに動く絵画のような金魚鉢になる。
この3つに金魚鉢を設計し作るときに、金魚鉢の目的を「桁」で使命分析すると、
3桁:部屋の中からでも隣の部屋からでも鑑賞できる動く絵画的金魚鉢
(二つの異なる部屋のそれぞれの人が鑑賞できる)
2桁:円形で360度どこからでも鑑賞できる金魚鉢
(ひとつの部屋の全員があらゆる角度から鑑賞できる)
1桁:四角いただガラスで囲んだだけの金魚鉢
(何も考えず作った金魚鉢)
1桁、2桁、3桁と同じ金魚鉢で目的が同じでも桁違いのものが出来上がる。
今回のゴールデジタルマーケティング経営のプロジェクトを行う前段階に、何らかの手段(私はマーケティングに適応しやすい日本版システム工学を薦めるが)で、その目的、目的の分析、代替え案、失敗研究などのプロセスを踏むことがプロジェクトの成功(美味しい料理を作る)につながる。
縁日に金魚を見たら、このことを思いだして欲しい。
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