「デジタルマーケティング=アドテクノロジ」と考える方もいるようだが、アドテクノロジを使い、たくさんのブラウザ情報を集めても、流入・遷移したページの直帰率が高い場合は本末転倒だ。これは内装を綺麗にデザインしたお店にたくさんの広告費を使って顧客を導いたにも関わらず、接客が悪く美味しい料理も台無しになることと似ている。確かにアドテクノロジは最近の「流行」だが、接客工程で失敗しては意味がない。こういう事態に陥らない世界に誇る知恵が日本にはある。
以前、トヨタ自動車に物流エンジニアリング部という部門があった。その部門ではトヨタ自動車の創業以来はじめての直販が行われていた。販売したものは「トヨタ生産方式(TPS)の適応」というコンサルティングで、製造業だけでなく多くの異業種に適応した。当時、私はその部隊の方々と一緒にコンサル販売のお手伝いをしていた。「B to B ECで会社が変わる」(1999年発売)という本に事例の数々を掲載したが、コンサルのYさんに飲み会の席で聞いた話を紹介しよう。
皆さんはスーパーでネギを購入されたことがあるだろうか。1本1本がばら売りされている店もあるが、一般的には数本単位でビニールテープ(昔は紙だったらしい)で巻いて売られている。Yさんがコンサルティングしたある中華料理チェーン店もテープで巻いたネギを仕入れていた。ネギをまな板で切る場合、まずそのテープを切り、それからネギを切る。工程をまとめると、
(1)「ネギを仕入れる」→(2)「テープを切る」→(3)「ネギを切る」
となるが、最初からテープがなければ、ネギの生産者もテープを巻く工程が省け、料理人は(2)「テープを切る」が省ける。(3)「ネギを切る」工程を改善しようとすると(2)の工程の改善(テープをなくす)し、(1)の工程でテープのないネギを仕入れることになる。つまり、(3)→(2)→(1)と逆に考える方がスムースに改善できることになる。TPSには、
「改善は後工程から行う」
という知恵(原理原則)がある。
(1)アドテクノロジーで流入を増やす→(2)直帰率が高い→(3)コンバージョン率は Up? or Down?
「デジタルマーケティング=アドテクノロジー」と考えた場合、(1)にパーソナルDMPなどを導入して改善し、(2)の工程で取りこぼす。さらに(3)はUpするのか、Downするのかどちらだろう。
拙著「勝ち続けるための-デジタルマーケティング経営」でウェブログをRコマンダーで分析した結果、「直帰率が高い場合はコンバージョン率が落ちる」という相関関係があった。
今回のゴール日本には世界に誇るTPSという「不易な知恵」がある。TPSは中華料理のチェーン店の改善にも、デジタルマーケティングの改善にも役に立つ。最終の後工程をどこにおくかによって組織をまたがることもあるが、ボトムアップで改善することが可能となる知恵だ。この知恵を使えばデジタルマーケティングを経営に役立てることができる。これからはスーパーでネギを見たら「アドテクノロジー≠デジタルマーケティング」ことを思い出して欲しい。
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