2024年4月から、トラックドライバーの時間外労働の上限規制と改正改善基準告示が適用され、労働時間が短くなることで輸送能力が低下すると言われている「物流の2024年問題」。物流に関わる各社が対応に迫られる中、大和ハウスグループの物流会社である大和物流は、課題解決に向け業務効率化を図る。
「まずは現場の実態を把握するために、データ分析ツールを活用している」と語るのは、同社で経営企画部長兼情報システム部長である岡貴弘氏だ。物流の課題解決に向け、また長期的に競争力を向上させるため、同社はどのようにDXを進めているのか。岡氏に話を聞いた。
――大和物流は、「物流の2024年問題」をどのように捉え、対策を進めたのでしょうか。
トラックドライバーの時間外労働の上限規制などによって、このまま何も対策を講じなければ、2024年には約14%、2030年には約34%の輸送力不足の可能性があると言われています。これに向け、政府としては2023年6月に「物流革新に向けた政策パッケージ」を決定、「物流の適正化と生産性向上に向けたガイドライン」を公表し、2024年5月に物流関連2法(1.流通業務総合効率化法、2.貨物自動車運送事業法)の一部改正案が公布されました。
国内で対応に迫られているこの「物流の2024年問題」は、当然ながら2024年だけでなく、今後もずっと継続していく問題です。当社としても、持続可能な事業基盤を構築していく必要があると考え、早い段階から議論を始めていました。
具体的な対策としては、プロジェクトを立ち上げ、そのプロジェクトの1つとしてバース管理システムによってトラックの待機時間を可視化するなど、現場の実態を把握するためのデータ収集とその分析による改善活動を進めています。まだブラックボックスになっているところを、今後はどんどん解像度を上げ、改善提案につなげていくつもりです。
――DXツールの導入は、どのような流れで行いましたか。
当社では、2020年4月に「データ活用プロジェクト」を社内で立ち上げ、収集したデータを分析して現場へのアクションへつなげる動きが始まりました。物流の現場はアナログで管理している部分がまだまだ多く、標準化が難しかったこともあり、まずはこれらを標準化し、デジタル化するところからスタートしました。プロジェクトの中で、別々の場所やシステムに保存されているデータや情報を効率的に可視化するBIツールを導入することが決定し、2020年8月からは「Domo」を活用しています。
――Domoのツールを選定した理由には、どのようなものがあったのでしょうか。
当社の現場では、統合基幹業務システム(ERP)、倉庫管理システム(WMS)、輸配送管理システム(TMS)、その他の周辺システムなど、すでにさまざまなシステムを導入しています。そして、それらのシステムそれぞれがデータを持っていました。
Domoはこれらのシステムを壊さずにデータ同士をつなぎ合わせ、可視化できるツールです。操作も簡単で、PC業務をメインに扱ってこなかった社員も視覚的に理解できる点が強みでした。また、社内の複数のシステムから取得した大量のデータを蓄積するデータウェアハウスの機能も持っていて、外部アプリで接続してデータを加工することもできます。
例えば、これまでは会議があるとそのために資料を作成する必要があり、時間がかかるためタイムラグが発生することがありました。それが、Domo導入によってリアルなデータを即時に共有できるようになったため、現場の効率化につなげられたと思っています。
――ツールを導入しても、使いこなすのに時間がかかるなど問題が生じる場合もあると思います。導入はスムーズに進みましたか。
導入にあたって一部のモデル店からスタートし、そのモデル店からフィードバックを受けながら必要なデータ項目などの改良を重ね、2021年4月に、経営管理指標を中心としたダッシュボードを全社展開するに至りました。
現在は、半年に1回ほど実際に業務で使っている社員が事例発表などを行い、身近に感じてもらうことでデータ活用を前向きに捉えてもらえるよう取り組んでいます。また定期的に勉強会を開催して、社員のスキルを上げる機会も作っています。
――DXツールを導入されてみて、実際にどのような効果がありましたか。
数値としてわかりやすいものを提示できるわけではないのですが、ツールの導入によって、わからないことを誰かに聞く前に自分で情報を取りに行ける体制を整えられたと思っています。このことで、意思決定のスピードは導入前と比べて上がりました。
それ以外だと、社内の文化に与えた影響も大きかったと思います。社会もビジネスも大きく変化しているこの不確実な時代において、企業も変化に迅速に対応していかなければなりません。そのためには、会社の方向性を理解しながら社員一人一人が本来持っている力を発揮し、自らの意思決定で自発的に行動できるよう、会社としてエンパワーメントして権限移譲する必要があると考えていました。
導入するツールとしてDomoを選定した理由はここにもあります。使いやすいツールを導入して、データの見方や分析の仕方、どういうポイントで見るか、どういった推移を見るかなど、同じデータを共有して対話を重ねていくことは非常に重要です。
2024年7月時点ですと、この5日間でシステムにログインしたのは546人中230人くらい、社員全体の4割くらいです。まずは社員がデータに触れ合う機会を作れたことが大きく、数値としてわかりやすい効果が出るのはもっと先で、現在はその過渡期だと捉えています。データの活用シーンが増えたことで、その効果やKPIを正確に設定し、PDCAを早い回転で回せるような体制になったことは大きな変化でした。
――物流の現場におけるデータ活用に関して、今後の展望などをお聞かせください。
導入した目的やその効果につながる話でもありますが、現在はデータドリブンな文化が根付き始めたところなので、社員にいかにメリットを感じてもらい、この文化が定着するかが次の課題になると思っています。導入した側と利用する側で、意識のギャップはどうしても生まれます。そのため目的や効果でズレが出始めたら、現場で理解を得ること、経営者目線で伝えていくこと、それを両軸で考える必要があると思っています。
データを活用し、自社の問題や課題をきちんと特定して対処療法ではない適切なアプローチを考え、アクションにつなげるところを見せていく。その後の効果も合わせて、アクションがどうつながっていくのかで、今後の展開を図っていきます。ツールは導入するだけではなく、現場に定着させて活用することで、効率の向上が期待できるものだと思っています。
また、当社は41の事業所があるのですが、それぞれでやっていることや、お客様が異なります。物流のこういった現場においては、デジタル化していれば横展開もしやすくなりますよね。ナレッジも、1つの事業所だけではなく、それをどんどん広げていくことができます。今後はデータを部分最適だけではなく全体最適として活用し、いかに改善の糸口を見つけていけるかもテーマだと考えています。
できることの幅や余地は、まだまだあります。パートナー企業と協力しながら効率化に取り組むことで、物流という社会のインフラのあり方を見直し、また新たなビジネスの機会を創出していきたいと思っています。
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