データディスカバリツールを導入する前に考えておかなければならないことを、日本版システム工学(プロジェクトなどを開始する前段階の企画レベルなどを体系的に考える方法のひとつ)の流れで整理しておこう。
従来のBIではリーチしなかった(することのできない)デジタルマーケティングデータを利用することによる(1)マスクドニーズ(今まで表面に現れることのなかったマスクをしたニーズ)は、
「『何かを探索したい』(非定型業務)という目的はあるが、その『何か』ははっきりせず、使い込む中で『何を見るべきか』が分かってくる。」
である。そして、そのマスクドニーズの(2)目標設定は、デジタルマーケティングデータを経営に活かす、
「全員マーケターという発想を組織にビルトインすること」(マーケティングと経営は一体)
である。次に、設定した目標設定の(3)使命分析を行い、目標設定のレベル感を考察する。
(1)マスクドニーズ
(2)目標設定
(3)使命分析
先の特集の「第10回:金魚鉢から学ぶデジタルマーケティング経営」でも紹介した金魚鉢の使命分析をすると、
普通、パッと思い浮かぶのは四角い金魚鉢だ。この金魚鉢の他に円形(球形)の金魚鉢も思い浮かぶだろう。金魚鉢は金魚を泳がす目的もあるが、人は鑑賞することを目的に金魚を飼う。四角い金魚鉢は、ガラスに囲んだだけの金魚鉢だが、円形の金魚鉢は三百六十度の鑑賞ができる金魚鉢で、四角いものより鑑賞性に優れている。そしてもうひとつ『部屋と部屋』の壁の間に壁の厚さの薄い金魚鉢を作り、そこに枠をもうけると、まさに動く絵画のような金魚鉢になる。
この3つに金魚鉢を設計し作るときに、金魚鉢の目的を『桁』で使命分析すると、
3桁:部屋の中からでも隣の部屋からでも鑑賞できる動く絵画的金魚鉢
(二つの異なる部屋のそれぞれの人が鑑賞できる)2桁:円形で360度どこからでも鑑賞できる金魚鉢
(ひとつの部屋の全員があらゆる角度から鑑賞できる)1桁:四角いただガラスで囲んだだけの金魚鉢
(何も考えず作った金魚鉢)1桁、2桁、3桁と同じ金魚鉢で目的が同じでも桁違いのものが出来上がる。
同様に、デジタルマーケティングにおけるデータディスカバリで使命分析を考えると、
1桁:データディスカバリツールをマーケティング部門で導入し、アクセスログから「何かを探索」する。
2桁:データディスカバリツールをマーケティング部門で導入し、「過去からのデータ(財務管理のデータ)」「現在からのデータ(POSデータ、日次決算データ)」「未来からのデータ(アクセスログ、MAのデータ、SFAのデータ、アドテクのデータなど)」から「何かを探索する」。
3桁:データディスカバリツールをトップマネジメント、ユーザー部門(マネージャー)が導入し、「過去からのデータ(財務管理のデータ)」「現在からのデータ(POSデータ、日次決算データ)」「未来からのデータ(アクセスログ、MAのデータ、SFAのデータ、アドテクのデータなど)」から「何かを探索する」。
となり、1桁、2桁、3桁と目的が同じでも経営(マーケティングと経営は一体)という観点からは「桁違い」のものが出来上がる。
そして、日本版システム工学の手順でデータディスカバリツールの導入までを考えるなら、以下のプロセスを必要とする。
(4)現状分析
(5)オルターナティブ(代替え案)
(6)システム合成
(7)システム分析
(8)失敗研究
(9)決定
(10)実装プロジェクトの実行
(4)から(8)までは、データディスカバリツールのみならず、デジタルマーケティングツール(MA、WCM、SFAなど)も含んだものになる。例えば、「直帰率が下がればコンバージョン率は上昇する」などのことから、直帰率の低いサイトからのデータと、直帰率の高いデータをデータディスカバリツールの対象とした場合、前者のデータから「何かを探索する」ことの方が、的確なデータを必要とする経営(マーケティングと経営は一体)に不可欠だからだ(「第6回:統計解析から学ぶデジタルマーケティング経営」参照)。
つまり、データディスカバリツールには正確な売上データが必要なのと同様に、
「マーケッティング部門の的確なデジタルマーケティングの実践は、データディスカバリーツールを経営(マーケティングと経営は一体)に役立てるための必要条件」
となる。
今まで広告代理店を必要としていたものが、リーマンショック後に金融トレーディング系の技術がアドテクに流れ込み、アドテクの自動化が進んだことから、「アドテクこそがデジタルマーケティング」という考え方がある。
しかし、マーケティングが経営と一体のもの、あるいは経営そのものだとすると、アドテクは「広告というひとつの部分」でしかない。
デジタルマーケティング全体の工程を、前述の日本版システム工学で(4)現状分析を行うと、5つの要素に分解できる。前工程から順に列挙すると、
「クッキー化」:ブラウザー情報が認識できた段階
「コンバージョン化」:メールアドレスなどの識別できる顧客情報の一部を把握した段階
「リード化」:個人情報のほとんどを把握した段階
「ホット化」:今すぐに購入したいと思っているリードの段階
「顧客化」:商品を購入し、人(顧客)と物(商品)が一致した段階
「クッキー化」と「コンバージョン化」の間、「コンバージョン化」と「リード化」の間には接客工程があるが、アドテクでどんなにたくさんのブラウザレベルの「個」を集めても、接客工程で失敗するとアドテクに投資したお金は砂に水が染み込むように無駄になる(「第5回:接客から学ぶデジタルマーケティング経営」参照)。
このように、アドテクのような前工程からのアプローチは前工程のフェーズでは単体でうまくいくのだが、次の工程になってからうまくいかない場合は全体に影響を及ぼすことがある。
前工程からのアプローチで行き詰った場合、逆に後工程からのアプローチを行うTPS(Toyota Production System)という考え方もある。
TPSでは後工程から考える理由を、
「後工程をキッチリ直していれば本当に必要なことは何かがハッキリし、前工程はどんな条件を整備してやればよいか、どんな形にならなければいけないかが明確になる」
「せっかくある工程を直しても、後ろの工程が目茶目茶だと、せっかく直した工程まで影響されておかしくなってしまう」
と、している(「第8回:TPSから学ぶデジタルマーケティング経営」参照)。
TPSの考え方をデジタルマーケティングにおけるデータディスカバリツールの活用に応用すると、
「データディスカバリツールを最終後工程とする」
ことで、デジタルマーケティング全体をスムースに的確に改善できる、ということになる。
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