第8回:TPSから学ぶデジタルマーケティング経営

田中猪夫(日本総合研究所 特命研究員)2014年04月07日 10時30分
今回のポイント

 連載第1回「ネギとデジタルマーケティング経営」で紹介したトヨタ生産管理(TPS)の「改善は後工程から行う」という知恵は、デジタルマーケティング経営に役に立つ。私の手元に某自動車ディーラーの経営改善をTPSで行ったレポートがあるが、今回は、この改善事例を通じてデジタルマーケティング経営を考察する。

改善は後工程から

 「後工程をキッチリ直していれば本当に必要なことは何かがハッキリし、前工程はどんな条件を整備してやればよいか、どんな形にならなければいけないかが明確になる」

 「せっかくある工程を直しても、後ろの工程が目茶目茶だと、せっかく直した工程まで影響されておかしくなってしまう」

これらの理由により、TPSでは後工程から改善を行う。車の販売の場合は、

「お客様データ」→「ホット」→「受注」→注文書→書類取得→「車庫」→「登録」→「納車」

だが、改善は物作りと同様に逆(=後ろ、後工程)から進める。

「納車」→「登録」→「車庫」→書類取得→注文書→「受注」→「ホット」→「お客様データ」

デジタルマーケティング経営の最終後工程とは

 自動車ディーラーの場合の最終後工程は「納車」である。デジタルマーケティングではどこになるだろうか。おそらく、人により最終後工程は違う。

  1. 「コンバージョンした段階」(デジタルマーケティング)
  2. 「SFAにリードを投入した段階」(デジタルマーケティング)
  3. 「SFA(Pipe)のリードがCloseした段階」(デジタルマーケティング経営)
  4. 「請求書を発行した段階」
  5. 「顧客に商品が届いた段階」(デジタルマーケティング経営)

 ウェブサイトを改善する人は(1)を最終後工程と考え、マーケティングオートメーションを実装する人は(2)を最終後工程と考え、営業の責任者は(3)を最終後工程と考え、経理部門は(4)を最終後工程と考え(IFRSでは売上は検収基準)、メンテナンス部門は(5)を最終後工程と考えている。

 一般的にデジタルマーケティングを行う人は(1)で思考が止まり、MAがブームになると(2)が最終後工程になり、マーケティングROIが必要になると(3)が最終後工程になり、(3)と(4)を繋ごうとすると「顧客とは何か」ということが問題になり、CMOになると(5)を最終後工程と考え全体最適を構築するという感じだろうか。

 参考までに、拙著「勝ち続けるための-デジタルマーケティング経営」で示した全工程を後工程から順に示す。

「人(顧客)と物(商品)が一致」(仕組みが必要)
  ↓
 (SFA)
  ↓
「リードレベル」からホットまでのナーチャリング(MAツールが必要)
  ↓
「メールアドレスレベル」から「リードレベル」(MAツールが必要)
  ↓
「クッキーレベル」から「メールアドレスレベル」
  ↓
 接客工程(改善が必要)
  ↓
「クッキーレベルまで」
  ↓
 接客工程(改善が必要)
  ↓
「リードジェネレーション」

今回のゴール

 「デジタルマーケティング(1)(2)」と「デジタルマーケティング経営(3)(5)」の違いは最終後工程をどこにおくかによる改善範囲の違いだ。まずは自社のデジタルマーケティング経営の全工程を把握する必要がある。

田中猪夫
◇ライタープロフィール
田中猪夫(一般財団法人 日本総合研究所 特命研究員)
1959年11月19日、岐阜県生まれ。
日本版システム工学を専門とする。
20代に、当時発売したばかりのPCでのVARビジネスを創業
30代に、イスラエルITテクノロジーの日本への展開に尽力
40代に、外資系ITベンダーの日本法人のマネジメント
現在は、一般財団法人日本総合研究所 特命研究員。
デジタルマーケティング経営研究会」を主催・運営。
主な著書
勝ち続けるための- デジタルマーケティング経営(原著)」PDF版
あたらしい死海のほとり」(Kindle版)
New shores of the Dead Sea」(Kindle版)

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