顧客の心に火をつけるデータ活用

日本にいながら世界進出--ANAが実践、「選ばれる理由」を作るマーケティング - (page 3)

データ分析で見えた勝ち筋、そして課題

 「ユーザー層によって、大きく異なります。4つの軸でご説明します。まず、世帯年収別ですが、BLUE WINGのコンテンツに対する定性・定量的な分析を行なったところ、特に好意的な反応を示してくださる方は大きく2グループ現れました。『700万円以上』と『299万円以下』です。

 興味深いのは300~699万円の中間層。このプログラムのことがよくわからないと答える方が約4割も存在しましたし、共感したと答える方も少数でした。プログラムの訴求方法をもっと変えなければならないと感じました。

世帯年収別の共感度
世帯年収別の共感度

 次は、職業別です。先ほどの年収別と関連しますが、主要なターゲットの一つである会社員からの共感度が芳しくないという厳しい結果が出ました。会社員層は、主旨やコンセプトともに具体的にそれが何につながるのか、仕組みはどうなっているか、本当に結果がでるのかなどの情報がないと共感が得られないことが分かりました。よって、会社員層に対しては、より具体的なプランの説明や、実績数値が一目でわかるコンテンツ作りが重要だと考えています。

職業別の共感度
職業別の共感度

 3つ目は世代別です。例えば、米国においては25~34歳が全世代の中で最も反応してくれました。実は、英国においても全く同じ結果でした。一方、両国ともに最も反応が乏しかったのは55~64歳です。この世代は重役を担うビジネスパーソンが多いイメージですが、ターゲティングしても期待以上の効果を上げるのは難しいかもしれません。

 最後4つ目は志向別です。実は、CSVやCSRはMBAでも重要なテーマとして注目されていますが、MBA関心層よりもアート・デザイン関心層の方がBLUE WINGに対して好意的な反応を示してくれました」(同氏)。

 続いて、今までの成果を踏まえて実施した広告キャンペーンの成果について伺いました。

 「最新の取り組みとしては、A/Bテストではなく実際の広告キャンペーンの訴求内容の1つにBLUE WINGを入れてみました。販促訴求、ブランド訴求、そして社会貢献のBLUE WING訴求の3種での展開です。

 まずは海外でテストして、うまくいけば国内でも試すという算段ですが、これは購入への貢献が明確になるため、私たちにとって大一番の勝負でした。

 結果は、例えばカナダではBLUE WINGのバナーが他の2種と比べ、渡航履歴層において6倍、社会貢献関心層で3倍のCTRとなりました。BLUE WINGのバナーが圧倒的に良い成果を出せることもわかってきました。

 ただ、全てBLUE WINGのバナーが良かったわけでもなく、ターゲティング・クリエイティブ・ページコンテンツの組み合わせによってブランドおよびセールスバナーが上回っているものもあります。今後、さらに最適化をして、それぞれが適切なターゲットに届けられるように改良していく予定です」(同氏)。

情熱的に語る深堀氏
情熱的に語る深堀氏

活動を通して見えてきた“ビジネス金脈”は? 今後の展開は?

 「今まさに掘削中ですが、振り下ろそうとしている“つる”は、ビジネスクラスやエコノミーとは異なる新しいクラスです。従来のファーストクラス、ビジネスクラス、エコノミークラスは自分のためのものでした。自分がより良いサービスを受けたいから利用するクラスとも言えます。

 一方、BLUE WINGが提供するのは、自分のためではなくより良い社会のためのクラスです。BLUE WINGサイト経由でANAの航空券を購入くださる方へのサービス総体をイメージしています。このようなサービスはまだ他の航空会社は着手していませんし、広く交通・運輸業でも存在していません。そのクラスを選ぶことで社会がより良くなる、そんなブランドを築いていきたいです」(同氏)。

ANAのアニュアルレポート
ANAのアニュアルレポート

 「また、今後はデジタルとリアルをつなぎたいですね。本プログラムはデジタルだけで終わるものではないと考えています。例えば、BLUE WINGをサービスとしてご利用いただけたら、フライトアテンダントに自動で共有され、彼ら彼女らによる「応援ありがとうございます」の手書きメッセージを届けるといったものです。スタイルをリアルに感じてもらうことが必要と私は感じています。デジタルをリアルにつなげ、サービスにしたいです」(同氏)。

 ユーザーを中心に据えるとマーケティングはサービス化すると私は考えており、そのような取り組みを目指しているBLUE WINGの今後が楽しみです。

 その一方、現在社会を大きく変えつつあるシェアリングエコノミー・サービスとBLUE WINGに私は共通点を感じます。部屋や車が空きリソースであるのと同様に、マイルも空きリソースではないかと。おおきく違うのは、前者は金銭的なインセンティブまでもが明確にあり、後者はないという点。

 金銭的なインセンティブの良いところは、幅広い生活者へのインパクトが大きい点と、定量的に分析できる点です。金銭的なインセンティブの必要性について伺いました。

 「まさに仰る通り、私たちのプログラムの大きい課題はまだそれが実現できていないことです。立ち上げ当初、『Social conscious customer deserves more(世の中を良くしようとしているお客様は、より良いサービスを受けられる)』という言葉を掲げました。そういう企業でありたいと思っています」(同氏)。

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