顧客の心に火をつけるデータ活用

日本にいながら世界進出--ANAが実践、「選ばれる理由」を作るマーケティング - (page 2)

社会貢献の文脈が市場開拓の突破口

 「実は私、大学まで航空工学を学び、ANAには総合職技術職採用で入社し、パイロットの操作手順作成やパイロットの訓練スキームの企画・設計などを行っていました。その一方、学生時からアショカジャパン創設者・渡邊奈々さんの書籍『チェンジメーカー』を読んだり、社会人になってからもウェブデザインやプログラミングを学んだりしていました。

 転機になったのは、新卒2年目の時に社外で行われていたグローバルアジェンダセミナーへの参加や、世界経済フォーラムへの特別参加、また勉強のために参加した5万円もするチャリティディナーへの自腹での参加などです。それらの活動を通して、多くの社会起業家と出会いました。

 最初にお会いしたのは、ジョン・ウッド氏で、教育問題解決に奮闘している「Room to Read」という米国に本部をおくNGOの創設者でした。彼はもともとマイクロソフトのアジアの幹部で、バリバリのビジネスエリートでした。彼にお会いした際、すぐに彼の持つストーリーのユニークさに強く惹かれファンになったのですが、その場で彼のTwitterフォロワーになろうとして、彼のアカウントをみたところ、なんと私と同じように彼に関心を持つ人が世界に約33万人いることにも驚きました。

 そして、私が今までの人生でお会いしたこともないような世界で活躍する著名な人々が、すごい熱量で社会貢献事業に取り組んでいるのを目の当たりにしました。同時に、ANAのグローバルマーケティングにとって、世界を飛び回って仕事する彼らのようなクリエイティブクラスはとても重要な存在です。ここに一つのマーケットの可能性を見出すことができました。

 そのような経験を経て、セレブ、ジェットセッターそしてクリエイティブクラスへアプローチするフックとして、社会をより良くしようとする方法は共感を得られるのではないかと感じました。

 言い換えると、世の中を変えていこうとするイノベーターたちへアプローチする新しいマーケティングとしてBLUE WINGは位置付けられると確信しました。ですから、本プログラムは従来のCSRと同じではなく、これからの時代のマーケティング方法論だと私は考えます。実は、マーケティングの神様・コトラー氏もBLUE WINGを応援してくれています」(同氏)。

 ただビジョンはあるものの、現実的にはまだまだ影響力がない、という深堀氏。目を転じて海外について伺いました。

 「世界に目を向けてみると、ユニリーバをはじめ欧州系企業が社会性の高い取り組みを始めていて、確実に新しい時代が始まろうとしているのを感じます。

 よって、ANAはこのプログラムを通じて、社会起業家を取り巻くコミュニティへ最適にアプローチし、トライ&エラーを繰り返す中で“これは良かった”“これは筋が良くない”といった学びを1つずつ重ねていくことを真の狙いとしています」(同氏)。

 データを未来の礎にし、中長期に渡る事業資産を積み重ねていこうとする姿勢に共感します。2014年からの活動の中で積み重ねてきた知見についてうかがいしました。(ちなみに、深堀氏の本プログラムの立ち上げ秘話はネット各所で記事化されており、その多くが非常に読み応えのある内容です。ここでは紹介しないものの、マーケターとしてイントレプレナーを目指す方は是非!)

なぜ止めないのか? 商圏は見えたのか?

 ほかでは類を見ない稀なBLUE WINGが2014年から今まで止むことなく続いているという事実にも関心があります。どのような判断のもと、今も継続的に取り組んでいるのでしょうか?

 「継続実施に至った理由は、データ分析により既存のブランド訴求バナー広告よりもBLUE WINGバナーの方が高いCTRを計測し、本プログラムが海外認知度向上に対して貢献する可能性があると分かったからです。これは2014年7月に実施した主要14カ国における、ブランド訴求とセールス訴求、BLUE WING訴求の3種のバナーのA/Bテストの結果に拠るものでした」(同氏)。

 当初、どのような結果を想定していたのでしょうか。

 「社会貢献訴求もニーズがあるはずだと確認していましたが、従来のブランディング、セールス訴求と比較して、どのくらい受け入れられるかは未知数でした。ただ、結果はCTRが3.3倍も高く、協力してくださったネット広告代理店が“信じられないほどの数値!”とこぼすほど良い成果につながりました」(同氏)。

 海外認知度向上という大きなミッションに立ち向かう時、“通常のバナーより3.3倍のCTR”という実績数値は社内の共通言語になり、何より自信になります。データドリブンな活動の良いところはこのようにチームを1つにする数値をつくれることだと思います。

 次に、チームをまとめる数値以外に、今までの活動の中で知り得た重要なことについて伺いました。

 「必要なデータが今まで結構蓄積しているため、勝ち筋の良し悪しを国別に探るのは可能です。まず、米国と欧州では大きく異なります。

 米国は訴求内容、認知チャネル、世代、年収問わず好反応です。社会貢献に企業が積極的になるのは当然と考えている土壌があるからだと考えます。具体的には、欧州の代表国・英国と米国のANA関心層に、BLUE WING訴求のバナーを見せるとCTRは米国が英国の3、4倍高くなりました。ですから、米国はBLUE WING訴求のマーケティングにとって重要な場となるでしょう。

 欧州でも明らかに国ごとの特性は異なっています。フランスとドイツでも全然違います。ですが、CSRを重要視するという文化が醸成されているのは欧州各国の共通点です。

 その文化性についてはANA欧州チームからも言われます。事実、欧州のANAセールスチームはBLUE WINGを活用して営業活動を行なっています。ちなみに、欧州ではそのような文化背景もあり、本プログラムは「BUSINESS TRAVEL AWARD」の社会貢献部門にノミネートされました。シャングリ・ラ・ホテルズ&リゾーツと同じ並びに、BLUE WINGがあるのは感慨深いですね」(同氏)。

 ここで私が、「では文化的背景から欧州市場では優位に進められそうですか」と聞くと、深堀氏は「いえ、欧州ではBLUE WINGのような取り組みが多いため、ある意味競争は激しく差別化戦略が鍵とも想定しています。その詳細については、今まさにリサーチをしています」と教えてくれました。

 デジタルは世界とつながっているとは言え、言語や文化が異なれば制作コストが、エリアに応じて異なるプラットフォームを活用すれば対応コストが膨らみます。よって、マーケティングを強化すべきエリアの優先順位をつけることは初期において重要であるため、データドリブンなBLUE WINGは海外認知度向上への勝ち筋を確実に描きつつあるように感じます。

 次に、どのようなターゲティングが有効かを伺いました。

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