電子書籍ビジネスの真相

面白すぎるKDP自己出版本の世界--とあるKindleの禁書目録 - 20/20

林 智彦(朝日新聞社デジタル本部)2013年07月31日 10時30分
 次にPODについてだが、バウカー社の統計からは、POD本が「非伝統的出版物」として除かれている。これをいわゆる従来の書籍である「伝統的出版物」と対比させてみたのが、この図である。

 非伝統的出版物の刊行点数は、2010年に380万点と、同年の伝統的出版物の点数(32万8000点)の、実に10倍以上の数にのぼっている。その後急落しているが、それでも4倍近い数が出ている。

 なお、日本の書籍の刊行点数は、2012年に約7万8000点(『2013年版出版指標年報』=出版科学研究所)。これと比べると、米国における自己出版やPODの刊行点数が、いかに巨大なスケールであるかがわかるだろう。

 ちなみにわが国においては、電子書籍だけがクローズアップされることが多いが、最終的な形が異なるだけで、この2つは同じメディアと考えることもできる。著者はデジタルデータを用意し、指定されたサーバにアップロードする。購入する時に電子データが送られてくるか、紙の本が送られてくるか、という点が違うだけだ。

 実際、2つの書籍の急成長を支える自己出版専門出版社の多くは、電子書籍とPODの両方での出版をサポートしていることが多い。

 従来型の「自費出版」との一番大きな違いは、自費出版では刊行のための費用負担が発生するが、電子書籍やPODの自己出版は、刊行のための費用負担がなく、売り上げを分け合う(レベニューシェア)方式が主流、という点だ。

 この点が出版のためのハードルを下げた。さらに、従来考えられなかったような著者が、従来型出版では想像しにくかった内容やジャンルの本を膨大に、世に送り出す結果となっている。

 2012年に全世界で6000万部を売り上げた小説「フィフティー・シェイズ・オブ・グレイ」は、はじめオーストラリアのオンライン出版社から電子書籍とPODとして刊行された作品だった。
 稚拙な表現やライトSMという内容から、従来型出版物に慣れたプロの評論家などからは酷評されたが、売り上げは、そうした評価に影響されなかった。

 日本ではあまり報道されないが、「フィフティー」以外にも自己出版発のベストセラーが、毎月のように生まれているのが米国の現状だ。

 いったい、何が起きているのか? こうした動きからは、次の2つのことが読み取れる。電子書籍やPODによる自己出版が、従来型の出版の「外」に、独自の領域を築きつつある
 その独自の領域から、従来型の出版でも成功する著者が生まれ、「出版」の概念(何が「本」なのか、「本」として出版すべき内容とは何なのか、「本」と「本」でないものの違いは何か、など)が揺らいできている。

 そもそも、「自己を表現したい」「自分をわかってほしい」という思いは、文化的存在としての人間が持つ、根本的欲求の一つだろう。

 従来、そうした欲求を「本」という形にするには、多大なコストがかかった。

 そうした障害が、デジタル・ネットワーク技術の発達で取っ払われた結果、「表現したい人々」の思いが、ギュウギュウに詰まった瓶のフタが取れたかのように、溢れ出てきている。

 これこそが、アメリカで電子書籍が引き起こしている事態であり、日本でも、いよいよ現れつつある世界なのだろう。
 本稿で紹介した自己出版本は、未来から振り返ってみれば、そんな出版の未来への「転機」を指し示した作品として回顧されるのではないか――そういう気もするのである。
(文中敬称略)

 次にPODについてだが、バウカー社の統計からは、POD本が「非伝統的出版物」として除かれている。これをいわゆる従来の書籍である「伝統的出版物」と対比させてみたのが、この図である。

 非伝統的出版物の刊行点数は、2010年に380万点と、同年の伝統的出版物の点数(32万8000点)の、実に10倍以上の数にのぼっている。その後急落しているが、それでも4倍近い数が出ている。

 なお、日本の書籍の刊行点数は、2012年に約7万8000点(『2013年版出版指標年報』=出版科学研究所)。これと比べると、米国における自己出版やPODの刊行点数が、いかに巨大なスケールであるかがわかるだろう。

 ちなみにわが国においては、電子書籍だけがクローズアップされることが多いが、最終的な形が異なるだけで、この2つは同じメディアと考えることもできる。著者はデジタルデータを用意し、指定されたサーバにアップロードする。購入する時に電子データが送られてくるか、紙の本が送られてくるか、という点が違うだけだ。

 実際、2つの書籍の急成長を支える自己出版専門出版社の多くは、電子書籍とPODの両方での出版をサポートしていることが多い。

 従来型の「自費出版」との一番大きな違いは、自費出版では刊行のための費用負担が発生するが、電子書籍やPODの自己出版は、刊行のための費用負担がなく、売り上げを分け合う(レベニューシェア)方式が主流、という点だ。

 この点が出版のためのハードルを下げた。さらに、従来考えられなかったような著者が、従来型出版では想像しにくかった内容やジャンルの本を膨大に、世に送り出す結果となっている。

 2012年に全世界で6000万部を売り上げた小説「フィフティー・シェイズ・オブ・グレイ」は、はじめオーストラリアのオンライン出版社から電子書籍とPODとして刊行された作品だった。
 稚拙な表現やライトSMという内容から、従来型出版物に慣れたプロの評論家などからは酷評されたが、売り上げは、そうした評価に影響されなかった。

 日本ではあまり報道されないが、「フィフティー」以外にも自己出版発のベストセラーが、毎月のように生まれているのが米国の現状だ。

 いったい、何が起きているのか? こうした動きからは、次の2つのことが読み取れる。電子書籍やPODによる自己出版が、従来型の出版の「外」に、独自の領域を築きつつある
 その独自の領域から、従来型の出版でも成功する著者が生まれ、「出版」の概念(何が「本」なのか、「本」として出版すべき内容とは何なのか、「本」と「本」でないものの違いは何か、など)が揺らいできている。

 そもそも、「自己を表現したい」「自分をわかってほしい」という思いは、文化的存在としての人間が持つ、根本的欲求の一つだろう。

 従来、そうした欲求を「本」という形にするには、多大なコストがかかった。

 そうした障害が、デジタル・ネットワーク技術の発達で取っ払われた結果、「表現したい人々」の思いが、ギュウギュウに詰まった瓶のフタが取れたかのように、溢れ出てきている。

 これこそが、アメリカで電子書籍が引き起こしている事態であり、日本でも、いよいよ現れつつある世界なのだろう。
 本稿で紹介した自己出版本は、未来から振り返ってみれば、そんな出版の未来への「転機」を指し示した作品として回顧されるのではないか――そういう気もするのである。
(文中敬称略)

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