2025年5月から6月にかけて、夏のスマートフォン新商品が相次いで発表されたが、その中でもFCNTが発表した「arrows Alpha」と、モトローラ・モビリティが発表した「motorola edge 60 pro」は、機能・性能などで似通っている部分が多い。
両者はともにレノボ・グループの傘下企業で、国内の販売面では競合である一方、開発面では協力関係にあり、2社で共通した基盤を採用しながら独自のスマートフォンを開発しているようだ。では実際のところ、両機種の共通点と違いはどこにあるのだろうか。そこから見えてくるFCNTとモトローラ・モビリティ、そしてレノボ・グループの狙いとともに確認してみたい。
実際に両機種を確認すると、確かにハード面では共通化が図られている部分が多い。実際、チップセットにメディアテック製の「Dimensity 8350 Extreme」を搭載しており、RAMは12GB。ストレージはarrows Alphaが512GB、motorola edge 60 proが256GBという違いはあるものの、スマートフォンの基礎部分はかなり共通していることが分かる。
もう1つ、共通化が図られているのがカメラだ。FCNTとモトローラ・モビリティとではスペックシートの表記上の基準に違いがあるためか、細かな数値に違いがあるように見えるのだが、motorola edge 60 proのみが搭載している望遠カメラを除けば、性能はほぼ同じといっていい。
実際、両機種ともに広角カメラにはソニー製のイメージセンサー「LYT-700C」を採用しているし、超広角センサーも両機種ともに約5000万画素、F値約2.0、視野角120度と共通。フロントカメラも約5000万画素でF値が2.0、視野角も91~92度とほぼ共通している。
加えて両機種はバッテリー容量が5000mAhでFeliCaにも対応している点、そして本体の耐久性能も共通しており、米国国防総省が定めるMIL-STD-810Hに準拠した耐久性能、そしてIP68及びIP69に対応する防水・防塵性能を備えている。こうした耐久性能はFCNTの特徴の1つでもあっただけに、レノボ・グループ傘下となったことでそれがモトローラ・モビリティの製品にも影響を与えた可能性が考えられる。
そして何より、ハード面で両機種が共通基盤を用いていることを明確に示しているのが、他の機種には存在しない本体左側面にあるキーの存在だ。arrows Alphaでは「アクションキー」、motorola edge 60 proでは「AIキー」と異なる名称となっているが、デフォルトでは長押しすることにより、AI関連の機能を素早く呼び出せる点は共通している。
そのAIに関しても、両機種には共通した要素が見られる。arrows Alphaは「arrows AI」、motorola edge 60 proは「moto AI」と称してAI関連の独自機能を用意しており、カメラ関連の機能強化に加え、arrows Alphaは主として操作面でのサポート、motorola edge 60 proは画像の生成や音声の文字起こしなどにAIを活用している。
だが、arrows AI、moto AIともに、今後のソフトウェアアップデートにより通知を要約する機能を追加する方針を示している。レノボ・グループもここ最近AI技術の開発に力を入れているが、その開発には大きなコストがかかるだけに、AI関連機能の共通化をある程度図ってコストを抑えようとしているのではないだろうか。
一連の内容からは、コストがかかるチップセットやイメージセンサー、そしてAIなどを中心として、グループ内での共通化を図り価格を抑えようとしていることが分かる。実際、SIMフリー版の価格を見ると、motorola edge 60 proは7万9800円、arrows Alphaは8万円台での販売を予定するとしており、このクラスの端末としては比較的安価だ。
一方で、両機種はいくつかの部分で明確な違いを打ち出すことにより、それぞれ異なるスマートフォンへと仕上げている。中でも最も大きな違いとなるのは本体サイズとデザインだ。
arrows Alphaのディスプレイサイズは約6.4インチと、このクラスのスマートフォンとしては比較的小さい。また本体カラーはスタンダードなブラックとホワイトの2色に絞られており、形状も比較的スタンダードであるなど、多くの人が手に取りやすい普遍的なデザインであることを重視しているようだ。
一方でmotorola edge 60 proは、ディスプレイサイズが約6.67インチとより大型で、なおかつ左右だけでなく上下の側面もカーブしたディスプレイを採用。背面にもカーブがかかった「クアッドカーブドデザイン」を採用し、本体カラーもPANTONEから3色を用意するなど、個性を強く打ち出していることが分かる。
また機能面でも、motorola edge 60 proは先にも触れたように望遠カメラを追加した3眼構成としているのに対し、arrows Alphaはその代わりとして「arrows We2 Plus」で初搭載していた自律神経測定用のセンサーを搭載、健康管理に重きを置いている。
他にもarrows AlphaはmicroSDスロットを搭載するが、motorola edge 60 proは搭載していないなどいくつかの違いがあるのだが、一連の違いから見えてくるのは両機種が狙うターゲットの違いだ。
arrows Alphaの場合、FCNTがシニア、サステナビリティ、そしてヘルスケアに力を入れる戦略を打ち出しているだけあって、健康管理に気をつかう中高年層をメインターゲットとしていると推察される。本体デザインを落ち着いたものに抑え、なおかつ国内で多くの人が馴染みのあるディスプレイサイズを採用しているのはそのためだろう。
一方で、motorola edge 60 proが狙うのは10、20代といったより若い世代だ。モトローラ・モビリティはここ数年来、世界的にも若い世代をターゲットとしたスマートフォン開発に力を入れており、日本でも人気アイドルを起用したプロモーションを展開するなど、若い世代の獲得に力を入れている。大画面ディスプレイを採用し、デザイン面で強い個性を打ち出しているのも、そうした若い世代へのニーズに応える狙いが大きいといえよう。
FCNTとモトローラ・モビリティは国内の販売面で競合関係にあるとはいえ、戦略には明確な違いがある。それゆえ同じグループ内で基盤を共通化してコストを抑え価格競争力を高めながらも、2つのメーカーから異なるターゲットを狙った製品を投入し、グループ全体で国内シェアを押し上げていくというのが、レノボ・グループの大きな狙いとなっているのではないだろうか。
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