完成度で梅原に並ぶのが、八幡謙介『未来撃剣浪漫譚 ADAUCHI 』。ページをめくるたびに、血の匂いが濃厚に漂ってきそうなダークファンタジーである。
2027年の「第二次関東大震災」が東京を壊滅させ、首都が京都に移転した2045年頃の日本。そこでは暴力と無法がはびこり、「仇討ち法」により、警察に申請すれば、決闘や闇討ちで、合法的に殺人ができる。プロの辻斬りに姉の命を奪われた二階堂凛は、自らの手で復讐を遂げようと決心し、仇討ち指南を手がける古武道の道場の門をくぐる。道場主、芹沢無二とともに、旧東京を隔離する「ウオール」を超えて、無法の地=ラスパラ(Last Paradise)で武器を調達した凛は、訓練を経て、いよいよ京都に潜伏する辻斬りと対峙する。勝つのは辻斬りか凛か。
著者サイトによると、本職はギター講師のようだ。ARを実現する「ゴーグル」、人格を隠す「エフェクト・マスク」、見えない武器「インビジブルナイフ」、ネット上で行方をくらます「迷彩」など、SF的な設定の間に、武道・武術に関する薀蓄や精緻な設定、重厚な人間描写が入り混じり、濃厚な読み味。「ディストピアもの」「武道もの」のファンは特に楽しめるだろう。