いまさら聞けない「サードパーティCookie排除」の問題点--グーグルとアップルの違いも解説 - (page 2)

中村研太(プリンシプル 常務取締役)2020年07月17日 09時00分

デジタル広告業界とマーケティングの世界で起こること

 今回の移行において、気を付けておきたいのは移行のスピード感だ。

 インターネットの世界は、HTML5への移行、モバイル対応・レスポンシブへの移行、Flashの終了、IEベースの終了など、過去いくつもの変革を経験してきている。しかし、これらは基本的に「旧来型の仕様」の存在も許容した段階的な移行であり、完全な移行には数年をかけて実現してきた。旧仕様に対しても、新しい仕様に対応できていないサイトがあったとしても、ブラウザ側の配慮やユーザー側の代替手段により、ちょっとした不便で済んできた。

 これは、強制力が働かず自由度の高い「インターネットの自治」の中、各関係者が配慮しながら実現してきた移行だ。

 一方、今回の問題は「法規制への対応」のため、「2年」という明確な期限を切った進め方をしていると思われる。もちろん、事前に新しい仕様のテストと一定の移行期間は持たれるだろうが、期限後はサードパーティCookieの取り扱いをすべてのブラウザが停止する可能性は高いため、各ベンダーや各企業側において、スピード感を持った代替施策への移行が求められる可能性が高い。

 今回の動きの中で一番強く影響を受けるのは「メディア」と「広告主」の中間に位置し、自らは顧客(=ユーザーのデータ)基盤を持たない、アドテク業界だ。サードパーティCookieを用いた高精度ターゲティングの代名詞ともいえるCriteoは、Google ChromeのサードパーティCookie排除の発表の翌日、16%も株価を落とした。SafariのITP以降、各プレイヤーは、サードパーティCookieに頼らずに広告の配信精度を高める手法を模索してきているが、明確な答えは出ていない。

 Privacy Sandboxにより、新しいターゲティングの仕様は何らかの形で維持はされるだろうが、それがサードパーティベンダーが取り入れることができるものになる保証は、今のところない。配信面と商材のコンテクストを用いたターゲティングが今のところ約束されている1つの答えなので、今後もこの領域の技術開発は進むだろう。

 メディアサイドに対しても、一連の動きは多少の影響を与えると思われるが、「メディアの広告モデル」はインターネットのエコシステムの生命線といえるため、この形態は維持されると考えられる。一方、その効率性については、ターゲティングとトラッキングの精度が一定の割合で下がることを考えると、企業の広告投資に対して多少の影響は出るだろう。

 GAFAといった圧倒的なファーストパーティデータを持つプラットフォーマーは、このままだと今後より力を持つこととなりそうだ。また逆説的に彼らにとっては、力を持ちすぎることで独占禁止法の指摘を受けることのないよう、競争市場の中の一企業の立ち位置とプラットフォーマーとしての公共性をどう維持していくのかが議論の的となりそうだ。

 現在、日本の内閣で話し合われている「デジタル市場競争会議」においても、(1)公平性の確保、(2)透明性の確保、(3)それにより⼀般消費者を含めた各市場関係者の「選択の可能性」を確保することが、基本方針として挙げられており、欧州がGAFAのようなプラットフォーマーに対して求めるように、日本も足並みを揃えこういった対応を求めることとなる可能性はあるだろう。

 広告主側のマーケターにおいても、広告のターゲティング精度が下がると、キャンペーンの投資対効果が下がってしまうのは悩みの種だ。短期的には、自社メディア上の行動をベースにターゲティング精度を維持できるGoogleやFacebookへの投資割合がさらに高まることが予想される。また、ここ数年プライベートDMPやCDPといった、個人のデータを元にマーケティング投資を最適化する動きが取り入れられてきたが、これらについても、データ活用の承認を取り、限られたデータの中でマーケティング設計をする必要があり、戦略の再設計が必要となるケースも多いだろう。

 短期的なCookieによる個人行動データの紐づけの範囲が狭まったことで、今後は「顧客の購買履歴(CRMやLTV)」といった、顧客のデータ活用についても同意を得た上での「より骨太でより深い」一連の顧客行動に対するマーケティング投資の最適化の比重がより高まるケースも出てくるだろう。

 また、すべての個人データ活用に「顧客の同意」が必須となることで、逆にこれまで「同意を得た上でデータ提供」される市場として発達してきたアンケート・モニタ型のサービスや市場との連携も、今後より高まると考えられる。実際すでに、Braveのような、プライバシーを管理し、データ提供や広告に対して報酬を得る形のブラウザが誕生しており、この領域は今後活性化する可能性がありそうだ。

 インターネットにおいて重要とされてきた「セキュリティ」という概念に、過去は「プライバシー」は含まれていなかったが、現在のトレンドでは“ プライバシーも含めて守る”インターネットの世界に変容していこうとしている。各事業者の立ち位置から、この大きな動きに対して対応していかなければならない今回の動きは、継続的にウォッチしていく必要があるだろう。

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