「ウェブの急激な進化に乗り遅れてはいけない」ということで、意識の高いビジネスマンであるほど、その動向を把握しようと多くの時間を費やしている傾向があります。ただ、あなたがウェブ動向をウォッチしているそもそもの動機である「自社のウェブが抱えている課題」を明確にしないと、多種多様で膨大であるウェブのトピックスに飲み込まれ、いたずらに時間を費すことになってしまう危険性があります。
私は、マーケティングという観点で見た時に「企業の抱えるウェブの課題」は、大きく2つに分かれるのではないか思います。
まず1つ目として、広告、PR、店頭など「ウェブ以外の情報接点と連携しながら、マーケティングコミュニケーション全体の効果効率をいかに高められるか」という課題です。従来から行われていた「広告情報の補完(「続きはWEBで」)」という役割から、スマートフォンの浸透に対応した「購買行動へのダイレクトなサポート(ex:OSO)」まで、どのようにウェブを関与させ、各接点の連携を強めて購買に近づけられるか、という課題です。
2つ目は「ウェブ上での生活者の動き(行動履歴)を把握することで、マーケティングのプランニング精度をいかにアップできるか」という課題です。今まではアンケート調査で生活者の意識はわかっても、生活者のリアルな行動を知る手段は非常に限定的でした。それがテクノロジーの進化により、今までは分からなかった生活者のウェブ上での膨大な行動履歴データが手に入り、分析できるようになってきました。いわゆる昨今話題の「ビッグデータ」です。
例えば、顧客が自社サイトに入ってくる直前の流入元はもちろん、それ以前にどんな情報と接触していたかが分かることで、何が購入に影響したかが正確にわかるようになってきました。こうした行動データの分析能力をアップさせ、いかに購買につながるプランニングができるかという課題です。
みなさんが解決したい課題はどちらでしょうか? それとも両方?。
まずあなたが取り組んでいる「自社のウェブの課題」を明確にすることは、出発点に立つという意味で、とても重要だと思います。
ただそれだけでは、十分ではありません。最終的に「自社のウェブの課題」に対する適切な解決策に至るためには、いずれの課題解決であっても「マーケティングの全体像と照らし合わせているか」という視点が不可欠だと思います。
1つ目の課題である「ウェブ以外の情報接点と連携して、マーケティング全体の効果や効率をいかに高めるか」に関しては、マーケティングの「商品を認知、理解、購買してくれるプロセス」のどの部分の役割をウェブが果たすのか、を考えることが重要となります。
前回も少し触れた「カスタマージャーニー(顧客の行動履歴)」を行ってみると、生活者は買うまでに多様な接点(マスメディア、ソーシャルメディア)で、多様な情報(広告、PR、口コミ、店員のトーク)と触れており、それらが生活者の頭の中でつみかさなって、1つの文脈・ストーリーが形成され、購入を決定しています。
これを前提に「購買までに、ウェブではどんなタイミングで生活者と接触し、どんな体験をさせることが必要か」という仮説がないと、ウェブの部分最適はできても、マーケティングの全体最適にはなりにくいと思うのです。
例として、ECサイトを購買接点とするトイレタリーメーカーのケースを紹介します。このメーカーのマーケティング戦略策定に際して、私はその企業の各部署にヒアリングをしていたのですが、その際にウェブ担当部署が自社サイトのリニューアルに苦しんでいる状況に出会いました。
ウェブ担当部署では、独自に自社サイトに対する生活者調査を実施したところ、その調査で評価が低かったのは「自社の技術開発力」でした。そこで、開発力の高さをより伝えられるよう、サイトをリニューアルしたそうです。しかし、結果的には開発力を伝えるためにリニューアルしたそのサイトへの来訪者は増えずに、売り上げへの影響も見られなかったという状況でした。
そこで当社がマーケティングの全体像を見るために「カスタマージャーニー」を実施し、優良顧客になった人のプロセスを見てみると、優良顧客の多くが購入に至る鍵としていたのは、そのブランドの「親しみ」だったのです。
実はそのトイレタリーメーカーの広報宣伝部署では、ずっとブランドの「親しみ」を訴求し続けてきました。その一方で、ウェブ担当者は開発力を強く訴求しており、まさに「マーケティングの全体像とかけ離れた、ウェブの個別最適」という事態になっていたのです。
これは極端な例としても、「ウェブの課題把握→解決」が個別最適になっていないかを疑うことは、とても重要であると思います。
そして2つ目の課題、「生活者の行動履歴を把握することで、マーケティングのプランニング精度をいかにアップさせるか」についてです。ビッグデータ分析の専門家に聞くと、全員が口をそろえて言うのは、「ビッグデータのインフラを整えたからといって、何でも分かるわけではない」「何をどう調べるかの仮説が必要」ということです。
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