第2回:企業が抱える2つのウェブ課題--近視眼の罠 - (page 2)

三宅隆之(インテグレート)2013年04月03日 12時26分

 つまり、多様で大量のデータに対して、何の軸も持たずに分析することはほぼ不可能というのが、彼らの共通見解です。そして一流のリサーチャーは、必ずといっていいほど「マーケティング課題に対する仮説(何が課題だと思っているのか)」を持ち、次いで「調査に対する仮説(それをどうやったら検証できるか)」という二重の仮説を立ててリサーチをしています。

 ここでもさきほどのトイレタリーメーカーの事例を紹介します。このメーカーではコミュニケーションの方向性を定めるため、自社の優良顧客の特性を明確にするリサーチを調査会社に依頼していました。しかし、アンケート調査の結果「カテゴリー興味関心度、情報収集意欲、使用金額」で競合ユーザーとの差は見られず、特に違いはないというのがその結論でした。

 しかし、前述の優良顧客へのカスタマージャーニー調査を通じて「彼らはトイレタリーに対する知識や自己関与度が低く、その中で何となく『親しみ』を感じるこの会社を選択しているのでは?」という仮説を当社は持ちました。

 その仮説を裏付ける事実はないかと調査データを見直すと、調査における質問の中に「各トイレタリーブランドにおける商品理解度」という項目があるのが目に留まりました。普通、この項目では「自社ブランドは他社ブランドよりどれぐらい理解されているか」ということにしか着目しませんが、私たちは「ひょっとしたら、他社ブランドのユーザーとこのメーカーのユーザーでは、理解しているブランドの数が違うかもしれない」という仮説を立てたわけです。

 実際に確認すると、競合ユーザーはカテゴリー内の5~6個の商品を理解しているが、そのメーカーのブランドのユーザーは1~2個ぐらいしかないということが分かりました。これにより、このメーカーのユーザーは、トイレタリー関連商品への知識や関与度が低く、あまり他社商品と比較検討することはなく、「親しみ」によって買う傾向にあることが推測できたわけです。この観点から考えても、前述のウェブサイトでの「技術開発力のアピール向上」というのは、マーケティング全体から考えれば「しなくてもよいこと」と判断できます。

 以上を踏まえて、「マーケティングの全体像を見る」ことの重要性の一端をご理解いただけたら幸いです。今回はウェブのことにフォーカスしましたが、次回以降は「消費者の心を動かしている潜在的な欲求を理解し、消費を喚起すること」とはどういうことか? 「マーケティング全体」をうまくいかせるためのポイントについて、事例を踏まえながらより具体的に説明していきたいと思います。

◇筆者紹介
三宅隆之(みやけ たかゆき)
三宅隆之(みやけ たかゆき):消費者心理アナリスト/プランニングディレクター
大手広告会社に17年間勤務後、2008年、株式会社インテグレート入社。 食品、衣料品、化粧品、自動車など多くの商材に関する消費者行動分析~統合マーケティング戦略立案・実施を行い、クライアントが抱える様々な課題の解決を行う。
株式会社インテグレート
インテグレート
IMC(Integrated Marketing Communication)プランニングを実践する、マーケティングエージェンシー。PR会社を傘下に持ち、従来の戦略コンサルティング会社、広告代理店、PR会社ともまったく違った新しい業態。販売や集客、商品企画などマーケティング領域に特化し、調査分析に基づいた事業シナリオ設計や、PR・AD・SP・WEBの統合プランニング~実践をワンストップで提供。

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