今回、「マーケティングの重要性を語る」ということでコラムをスタートしましたが、そもそも、このコラムをご覧になっているような方であれば「マーケティングは大事だ」という原則自体に異論がある方は、あまりいらっしゃらないのではないかと思います。
一方で、私たちはどれぐらいマーケティングを、本当に意味のあるものにしてこられたのでしょうか。
昨年の2012年、「ad:tech Tokyo」の基調講演で、アドビシステムズ社のマーケティングディレクターであるスコット・ハリス氏から「マーケティングの本場アメリカでも、残念ながら「マーケティング」および「マーケター」は、多くの経営陣から信用されていない現状がある」という問題提起がありました。
実際、「マーケティングは重要」と思われながらも「企業の根幹となりきれるほどの存在感を発揮できていない」という状況がまだあるのかもしれません。まして日本は「ガラパゴス化」という言葉に代表されるように、生活者に向き合ってマーケティングする力が不足しているという指摘が、日本の内外からされていることは、皆さんもご存じかと思います。
ここ10~20年で生活者の情報環境・行動は大きく変わりました。特に「ソーシャルメディア」と「スマートフォン」は、後述しますが、私たちがしてきたマーケティングを根本的に考え直さねばならないほどの影響力を持っていると私は考えています。
では、この情報量が爆発的に増え、複雑化した時代のマーケティングを成功させるには、一体何が必要なのでしょうか?
それは特定のツールでもなく、ベテランのスーパーマーケターの存在でもなく、極めて当たり前の2つのこと、つまり、以下のことではないかと思うのです。
このコラムでは全6回にわたり、この2つのポイントを中心にお話したいと思います。
まず1.については、前述の「ソーシャルメディア」と「スマートフォン」の登場がその傾向に拍車をかけていると思います。なぜ私がそう思うのかの理由について、時代を遡りながらひも解いていくことから始めたいと思います。2.については、コラム第3回~第6回でお話しさせていただく予定です。
そもそも「高度経済成長」~「バブル時代」~「バブル崩壊」を通じて、日本で行われてきた「マーケティング」、つまり「自社の商品・サービスを生活者に認知させ、関心・理解につなげ、購買につなげる活動」の主流は、「研究・開発主導でのモノづくり」をして、「マスメディア」の「広告枠」を使って生活者に知らせ、売るというスタイルでした。そしてこの【マスメディア・広告型マーケティング】で発信していたメッセージは、企業発想での自社商品の優位性・差別性・新規性(=私たちの商品は、競合の商品よりここが良い・ここが違う・ここが新しい)などだったのだと思います。
このスタイルが長らく続いた理由は、2つあると考えています。
1つは、以前は生活者の消費意欲が今より旺盛で、「競合商品より良い・違う・新しい」などというメッセージが生活者に届けば、買ってみたいと思わせることができたからということ。
そしてもう1つは、多くの生活者が集まり、効率的にメッセージを到達させられる場所が「マスメディア」の「広告枠」だけだったという理由です。
ソーシャルメディア以前からウェブは台頭していましたが、使われ方としてはテレビCMの「検索窓(“続きはウェブで”)」に代表されるように、あくまで【マスメディア・広告型マーケティング】の補完でした。「企業(研究・開発)が作りたいもの」をつくり、自社発想の商品訴求ポイントを「伝えたい情報」として「広告」で到達させるというマーケティングのスタイル自体は、根本的には変わらなかったのだと思います。
その時代から世の中の状況は変化しました。長引く不況をきっかけに、生活者の消費意欲は減退してきたと言われています。例えば、昨今は「若者の自動車離れ」が叫ばれていますが、それが正しいとしたら、仮に「競合の車種Aより良い」ということが伝わったとしても、そもそも若者たちの多くが「車を所有することに興味がない」のだからなかなか車を購入してもらえません。
こうした状況下で出てきたのが、ソーシャルメディアでした。「ソーシャルメディア」は「“生活者同士”の情報を“交換”する場所」であり、企業が一方的に発信した情報がそのまま広がることはほぼありません。企業・商品のことが話題になるにしても、一度、企業以外の第三者が介在した情報がほとんどです。つまり、メディアによる番組や記事、それらを見た生活者の口コミなどの情報というわけです。第三者により「選ばれた情報」という付加価値がなければ、ソーシャルメディアでは広がりません。このソーシャルメディアに参加する人々の数と過ごす時間が増えることで、人が24時間のうちで、マスメディアの広告枠に使う時間が相対的に減少する傾向にあります。
そして2つ目の重要な動きが、スマートフォンの台頭です。従来からモバイルメディアは注目されていたものの、スマートフォンで生活者が「リアルタイム」に「移動しながら」検索するようになったことは、大きなマーケティングの転換につながります。
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