2021年に入って突然、音声のみでコミュニケーションするアプリ「Clubhouse」が注目された。利用するには既存ユーザーからの招待が必要なほか、アプリも当初はiOS版しか用意されていないなど、こうした条件が希少価値を高めてユーザー数の急増につながった。
Clubhouseでは、ユーザーが「リスナー」として「ルーム」に入り、特定のテーマについて語られる音声番組を聴取する。番組内で発言権のある「スピーカー」は複数人のこともあり、ラジオの討論番組を聴くようなイメージだろうか。さらに、司会者的な役回りの「モデレーター」から指名されると、リスナーがスピーカーとなって発言できる。古いたとえだが、ラジオの討論番組に電話で出演する感覚に近い。もちろん、自分で作ったルームから討論番組を配信することも可能だ。
音声によるコミュニケーションサービスは、以前からさまざまなものが存在しており珍しくはない。Clubhouse自体も、2020年から米国で提供をスタートしていた。それがこのタイミングで注目されたのには、いくつかの理由がある。
まず、Clubhouseの人気を高めた要因の1つが希少性であることは確かだ。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックでステイホームを強いられ、他者とのコミュニケーションに飢えている人が多かった状況も、Clubhouse人気を後押ししたと考えられる。
Clubhouseの提示した、音声版SNS的な目新しいコミュニケーション手段が注目されたことも間違いない。新たな市場が生まれたとみるや、いくつものオンラインサービス企業がClubhouse類似サービスをリリースしてきた。
今後どうやって収益化するかなど見えないところは多いが、何らかの形でこうした音声サービスは生き残るだろう。そこで、主な音声SNSサービスを整理してみた。
Clubhouseは、Alpha Explorationが2020年春にリリースしたサービス。当初、iOS用のアプリしか提供されなかったが、Android版も2021年5月に米国や日本で配信され始めた。既存ユーザーから誘われないと利用できなかった招待制は7月に終了し、現在はアプリをインストールすれば誰でもすぐに使える。
音声コミュニケーションにとどまらず、いまではテキストチャット機能「Backchannel」も利用できる。番組運営時の相談や、リスナーとの意見交換などに活用できるだろう。さらに、番組を開設してくれるクリエイター向けのマネタイズ手段として、いわゆる“投げ銭”機能である「Clubhouse Payments」も追加された。
Spacesは「Twitter版Clubhouse」などと呼ばれていた、Clubhouseと同様の機能を提供するサービス。2020年12月より一部ユーザー限定の試験運営を開始し、2021年5月に正式提供を始めた。試験運営の開始当初はTwitterのiOS版アプリでしか対応していなかったが、3月にはAndroid版アプリでも利用可能となった。
Twitterは、“チップ”を受け渡しできる機能「Tip Jar」を、iOS版とAndroid版の両アプリに追加。また、Android版アプリの場合は、Spaces経由でもチップを送れるそうだ。さらに、有料ライブ配信を可能にする新機能「Ticketed Spaces(チケット制スペース)」も、アプリに加えようとしている。
Greenroomは、音楽ストリーミングサービスを手がけるSpotifyが2021年6月にリリースしたClubhouse対抗アプリ。同社は、音声チャットアプリ「Locker Room」の開発元を3月に買収しており、このアプリを改称したものだ。音声サービスに軸足を置くSpotifyは、音楽と音声チャットだけでなく、ポッドキャストやオーディオブックの配信にも取り組む。
ポッドキャスト事業は好調で、2021年中にリスナー数がAppleを上回る見込みだ。ポッドキャスト用自動文字起こし機能の追加、クリエイター育成プログラム「Sound Up」の開始、配信者向け有料サブスクリプションプラットフォームの提供など、攻勢を強めている。オーディオブック配信サービスは、2021年中に開始する予定。
Facebookも、Clubhouse対抗サービス「Live Audio Rooms」を6月に提供開始した。ただし、まだ利用できる地域やユーザーが限られていて、大きな動きはない。
なお、Facebookはメタバースや仮想現実(VR)に注力している。将来、メタバースでコミュニケーションするソーシャルVRサービス「Horizon」とLive Audio Roomsの連携、といった展開もあるだろうか。
ここで紹介した以外にも、Telegramの「Voice chat 2.0」、Discordの「Stage Channels」、Redditの「Reddit Talk」など、Clubhouseの類似サービスは多い。うわさレベルや関係者の言及程度で登場が予想される音声サービスとして、多くの既存ユーザーを抱えるLinkedInやSlackの名前も挙がっている。
音声SNSに限らなければ、音声で情報を伝えるサービスは「Spoon」「Voicy」「VOOX」「Radiotalk」「Wavve」「Riffr」など数え切れない。広い意味では、「radiko」「らじる★らじる」といったラジオ配信サービスも、Clubhouseと競合する。ポッドキャストやオーディオブックも強敵だろう。
音声メディアは、映像を見ることや操作を要求するほかのサービスと違って“ながら利用”に適している。自動車の運転中や家事の最中などでも参加できるため、ユーザーを獲得しやすく、市場のパイは大きい。ただし、Clubhouseのようにリアルタイム性を要求するサービスは、聞き逃すと情報を入手し損なうことが魅力を高める一方、参加可能なユーザーを制限している。消費者の可処分時間は限られるので、他サービスとの奪い合いは激しい。
サービス運営企業のマネタイズ、クリエイターへの利益分配も課題だ。さらに、詐欺や陰謀論、フェイクニュースといった不適切なコンテンツの規制は難しく、オフレコのはずなのに録音が流出する心配もある。ユーザーが増えれば増えるほど、こうした問題にうまく対応していかなければならない。
類似サービスがあふれるなか、Clubhouseは生き残れるだろうか。大手プレイヤーが参入したとなると、既存サービスとの連携機能や、豊富な資金力など競うことになる。写真SNSのInstagramは、Facebook傘下に入って好調だ。SnapChatやPinterestは、独自に運営を続けている。今後Clubhouseは、どんな道を選ぶのだろう。
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