前回、インドネシアでのUber体験について書いたが、世界4位の人口2億5000万人を抱えるインドネシアは、東南アジア最大の市場であり、配車アプリサービスを巡り熾烈な戦いが繰り広げられている。
同国にはもともと、東南アジアではお馴染みのバイクタクシーがあり、2010年設立のGO-JEKが早くからバイクタクシーの配車を行っていた。そこにUberとGrabが加わり、主にバイクタクシー配車市場での激戦となっている。
車の配車に関しては2016年、インドネシア政府がレンタカー会社など乗客輸送サービス許可取得済みの公共輸送企業の利用を義務付けたため、各社、地元の会社との提携を進めている。個々の運転手はレンタカー会社を通じて車両を登録し、車検に合格する必要があるのだ。
また、Grabでは当初から業界2位のタクシー会社と組み、タクシーの配車を行っていたが、GO-JEKもインドネシア最大手のタクシー会社と提携し、アプリからタクシーの配車が可能となっている。
UberではGrabが提携したタクシー会社と提携し、タクシーとしてではなくUberXとしての配車の試験運転を行っている。また、バリ島では地元企業との提携により、観光客向けに数時間貸し切り可能なUberTripを開始した。
Uberは米国内で元政府関係者を雇いロビー活動によって政府に法整備を働きかけたが、Grabも今年に入り、元インドネシア警察庁長官を理事長(取締役会長)として迎え入れ、政府とのパイプ作りに取り組んでいる。
2016年、日本でもフードデリバリUberEATSが始まったが、GO-JEKでは2015年よりバイクによる飲食店料理や食料品、処方薬、イベントチケットなどの宅配、ハウスクリーニングやマッサージ師などの派遣サービスも提供している。インドネシアで人気の通販サイト、Tokopediaの配送も行っている。
インドネシアではクレジットカードが普及していないため、GO-JEKでは現金払いのほか、電子決済Go-Payを導入している。Go-PayのアカウントにはATMやオンラインを通じ銀行口座から入金ができるが、インドネシアでは成人人口の6割が銀行口座を持っていないため、乗客が乗車料金以上を現金で払って運転手に余剰分をGo-Payのアカウントに入金してもらうことも可能にしている。今ではGO-JEKの支払の半分がGo-Payによるものだという。
GO-JEKは2016年、楽天などから計5億5000ドルを調達し、インドネシアでは数少ないユニコーン(評価額10億ドル以上の未上場企業)となった。同社は2016年にインドのシリコンバレー、バンガロールに開発拠点を設けている。
2011年にマレーシア人によってシンガポールで設立されたGrabは、現在、シンガポールのほか、マレーシア、インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナムの6カ国で展開している。Uberもこれら6か国に進出しているが、都市数ではGrabに後れをとっている。
Grabはインドネシアでは2015年にバイクタクシー配車サービスを開始したが、バイク通勤者が走行ルートと時間を公開し、後部に乗りたい人を募ることができるライドシェアのGrabHitchも展開している。2016年、フードデリバリーや宅急便サービスも開始し、通販サイトの配送も担っている。
2016年、ソフトバンクなどから7億5000万ドル(評価額30億ドル)を調達し、2017年に入り今後4年でインドネシアに7億ドルを投じると発表している。
インドネシアでは、オンラインバンキングや電子マネーの浸透がこれからであり、GrabではデジタルウォレットのGrabPayに資金を投入する。現在はGrabの支払いにのみ利用されているが(銀行やコンビニでチャージ可)、ゆくゆくはあらゆる支払いに使える電子マネーを目指している。同社は2月、銀行口座を持たない消費者向けオンライン決済ソリューション開発のスタートアップ、KudoPayを買収した。
また、Grabではジャカルタに研究開発拠点を設け、現地市場に合った製品サービスの開発を進める予定だ。12月には東京センチュリーやホンダからも資金調達を受け、Grab運転手への車やバイクのリースやレンタル、販売にも着手すると見られている。
遅れてやってきたUberはインドネシアでのシェアは3位だが、海外からの観光客の間ではそのブランドが浸透している。Uberは2016年夏、中国配車アプリ市場の8割を牛耳る「滴滴出行」(Didi Chuxing)への身売りを決め、事実上、中国市場から撤退した。中国では年に10億ドルを投入していたが、これでインドネシア市場にリソースを再配分し、巻き返しを図れるのかが注目される。
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