前回の大統領選ではオバマ、ロムニー両候補ともソーシャルメディアを駆使したが、自らツイッターを使って有権者に発信した大統領候補は、トランプ次期大統領が初めてだ。
記者会見をしたりプレスリリースを発行したりすることなく、無料のツイッターで次々に物議を醸す発言をし、メディアに取り上げてもらう。「同氏はツイッターの使い方がうまく、当選したのはツイッターのおかげ」──などと言うツイッターの取締役もいるが、データ科学者の分析によるとトランプ氏は闇雲にツイートしていたわけでなく、トランプ氏以外にも同氏のアカウントからツイートしていた陣営スタッフがおり、すべてトランプ陣営のデジタルメディア戦略によるものだという。
トランプ陣営が駆使したのはツイッターだけではない。大統領選の最終時期、クリントン陣営がテレビ広告に2億ドル費やす一方、トランプ陣営が費やしたのは、その半分以下で、それよりもデジタル広告に力を入れていた。
Facebookでは、どのようなコンテンツにユーザーが「いいね」をクリックするかのテストを繰り返し、ユーザーとのエンゲージメント(絆作り)を最適化し、資金集めにも利用した。
クリントン陣営・支持者は「Facebookでの嘘のニュースがトランプ氏勝利につながった」というが、Facebookのフィードでは、個々のユーザーの嗜好に合わせたコンテンツが表示されるようになっている。プロフィールでの政治的志向や過去の「いいね」「共有」の履歴を基に、そのユーザーが気に入るであろうコンテンツがパーソナライズされる。つまり、右派ユーザのフィードには右派のニュース、左派には左派のニュースが流れるのだ。
これはウォールストリート紙の実験でも証明されており、「D・トランプ」「H・クリントン」といったトピックに関して流れるコンテンツは、右派(赤)フィードと左派(青)フィードで驚くほど違っている。そのニュースのソースも非常に偏った新興メディアやオピニオンサイトが多く、両派とも「見たいものだけを見ている」のであり、嘘のニュースによって左派(クリントン支持者)が右派(トランプ支持者)に寝返ったわけではないのである。
Facebookの友達も、政治的志向が似通った人たちが集まるため、共有されるニュースも「やっぱりね」と自分たちの信じていることをさらに強固するものになりがちだ。自分の信条に反するコンテンツを共有すると友達登録を削除(unfriend)されるという事態は、選挙戦中、私の周りでもいくらでも起こっていた。「〇〇の支持者は私を今すぐ削除して」「△△に反対の人はフォローしてくれなくて結構」などという投稿をする人たちも珍しくなかった。
これはソーシャルメディアに限らず、主流メディアに関しても同じで、右派は主に右派メディア、左派は左派メディアから情報を入手するという政治的志向による消費コンテンツの分断、それによる社会的現実の分断(右派の現実、左派の現実)は、米国ではもう何年も前から続いている。大半が左派である米主流メディアがクリントン勝利を予測していたのも、左派の現実(と左派の願望)を映し出していたからだ。
今秋、米ギャラップ世論調査では「メディアを少なくともある程度、信じている人」は32%と過去最低の数字を記録した。右派(共和党支持者)で(大半が左派である)メディアを信じている人は、わずか14%である。
こうした既存メディアへの不信感も、有権者らが情報入手手段としてオンラインメディアに移行する傾向に拍車をかけている。アメリカ人の6割近くが今も「ニュースはテレビで見る」というが、「ニュースはオンラインで」という人も4割に達しており、とくに18~29歳の若者の間では5割に達している。
オンライン、特にソーシャルメディアが主な情報収集ツールとなるにつれ、「見たいものだけを見る」という傾向は、今後さらに強まるだろう。そして、候補者はソーシャルメディアを駆使できるかが勝敗を左右する大きな鍵となるのだ。
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