1~2月にかけて、携帯キャリア大手3社の第3四半期決算が出揃った。各社ともに好調な決算となったが、その決算内容からは総務省の施策で市場環境が大きく変化したことを受け、今後の成長に備え戦略を大きく変えようとしている様子を見て取ることができる。各社の決算内容とそこから見える今後の施策を確認してみよう。
NTTドコモが発表した2017年3月期第3四半期決算は、売上高が前年同期比2.5%増の3兆4696億円、営業利益が22.9%増の8423億円。最近の傾向を維持し、好調な決算内容となっている。好調の要因は、主力の通信事業、そして成長領域に位置付ける、コンテンツやサービスなどの「スマートライフ領域」がともに伸びていることが大きい。
通信事業のけん引役となっているのは、新料金プラン「カケホーダイ&パケあえる」と、光ブロードバンドサービスの「ドコモ光」だ。これらはいずれもドコモが不調だった2014年から2015年初頭にかけて導入されたもので、当初こそ苦戦が続いたものの、サービスの浸透と理解が進んだことで現在では通信事業の業績の伸びを支える立役者となっている。
そしてもう1つは、やはり総務省の影響だ。2016年に総務省が打ち出した「スマートフォンの端末購入補助の適正化に関するガイドライン」によって、スマートフォンの“実質0円販売”が事実上禁止されたが、その影響を受けて端末の割引額が減少し、結果として販売関連費用が大幅に減少。これが販売関連収支をマイナス592億円からマイナス280億円に半減させる要因へとつながり、利益向上に大きく貢献した。
一方、スマートライフ領域のけん引役となっているのが、「あんしんネットセキュリティ」「ケータイ補償サービス」などをまとめて提供する「あんしんパック」。この伸びが、スマートライフ領域の利益向上に「5割くらい貢献している」(NTTドコモ代表取締役社長の吉澤和弘氏)とのことで、「dマーケット」を主体としたコンテンツサービスや、「dカード」をはじめとした決済事業以上に、業績の伸びへとつながっているようだ。
そしてもう1つ、ドコモの最近の業績向上に大きく貢献しているのが、コスト効率化である。今回の決算では、第3四半期までの累計で820億円のコスト効率化を実現したとのことで、通期目標の1000億円の達成が確実となったことから、通期での目標を100億円追加し、1100億円にすることが明らかにされている。
もっとも足元の市場環境を見ると、先のガイドラインによる実質0円販売の事実上禁止によって、大手キャリアからMVNOやワイモバイルへの顧客流出が急速に進んでいる。吉澤氏も「ワイモバイルの影響が昨年1~2月以降大きくなっているのは確か」と話しており、低価格サービスへの流出が進んでいることを認めている。
ドコモの中で低価格を求めるユーザーは、特に他キャリアやそのサブブランドから恰好のターゲットとされていることから、いかに顧客を守るかが同社の大きな課題となっている。そこで吉澤氏は、通年で1100億円としていた顧客還元を、1500億円規模に拡大することで、顧客流出防止につなげようとしているが、さらにいくつかの施策も打ち出している。その1つが、自社のフィーチャーフォンユーザーに向けた「はじめてスマホ割」キャンペーンで、スマートフォンに乗り換えたいフィーチャーフォンユーザーが、他社の低価格サービスに移るのを防ぐのに一定の成果があったという。
そしてもう1つは、5分間の通話が定額になる「カケホーダイライト」を、データ定額サービスの中で最も安価な「データSパック」でも利用できるようにしたことだ。これは今回の決算に合わせて発表された。データSパックといえば、現在のカケホーダイ&パケあえるを導入した際、移行したユーザーの7割近くがこのプランを選んだことで、ドコモの業績を大きく落とした“元凶”でもある。それだけに、このプランに対してサービス強化を図るというのは、ドコモが低価格のユーザー流出を防ぐのに必死であることの現れでもある訳だ。
同社は他社のようにサブブランドを持たない分、低価格ユーザーの獲得はMVNOに任せてプロモーションコストがかからない強みがある一方、MVNOと同調した戦略をとれない弱みもある。それだけに、今後は特に手厚いサポートと安価な料金を同時に求める人など、MVNOとキャリア、双方の戦略から抜け落ちているユーザーを、いかに取りこぼさず自社サービス内に留め続けられるかが、課題になりそうだ。
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