総務省の要請によって、2015年のSIMロック解除義務化に続き、“実質0円”や“2年縛り”といった、従来の携帯電話の商習慣に関する見直しの動きが相次いで起きている。その内容と実効性を確認するとともに、見直し後の競争環境について考察してみたい。
安倍晋三首相の携帯電話料金引き下げ発言を受け、2015年の後半に突如始まった、総務省のICT安心・安全研究会による「携帯電話の料金その他の条件見直しに関するタスクフォース」での料金引き下げ議論が、大きな話題となったのは記憶に新しいところだ。
タスクフォースの議論の結果を受け、総務省は2015年末、大手携帯キャリア3社に対し、端末販売の適正化やライトユーザー向け料金プランの提供などを要請している。それを受けて、各携帯キャリアは2月より実質0円での端末販売の自粛を始めたほか、高速通信容量が1Gバイトで5000円を切る、ライトユーザー向けの料金プランを相次いで打ち出した。
中でも端末の実質0円販売の自粛は、端末価格の上昇によって携帯電話ショップを訪れる人自体の減少へとつながり、販売店やメーカーが大きな打撃を受けるなど、早速影響が表れている。しかし、総務省はその後も、端末の割引に対する厳しい姿勢を改めることはなく、実質0円だけでなく、端末を低価格で販売すること自体にも非常に厳しい姿勢をとっている。
実際2月には、行き過ぎた割引などをしている販売代理店の情報を提供してもらうための窓口を設置したり、全国の販売店の価格調査を実施したりするなどして、店舗の割引を監視する体制を強化。さらに4月には「スマートフォンの端末購入補助の適正化に関するガイドライン」の適用を開始し、端末の適正な割引に関する考え方を示した。
そして4月5日には早速、NTTドコモとソフトバンクに対し、このガイドラインに沿って、端末割引の適正化を図るよう要請。ドコモは、FOMAからの機種変更や複数台の購入によって、1台あたり648円で端末を購入できるケースがあったこと、ソフトバンクは番号ポータビリティ(MNP)での転入者に対して、通信料を最大で3万円以上割引く「のりかえ割パワーアップキャンペーン」を実施したことが、問題視されたと見られている。
さらに4月13日にはKDDIに対しても、販売奨励金によって実質0円で端末が販売されているケースがあったとし、口頭注意をしている。いかに総務省が、低価格での端末販売の撲滅に熱を上げているかが理解できるだろう。
だが、総務省の一連の取り組みを見ると、その熱心さが、かえって携帯キャリアや販売店などに大きな混乱をもたらしている側面も否めない。実はタスクフォースの議論の中では、MNPで乗り換えるユーザーに対する過剰な割引を抑え、機種変更との不平等をなくすことが重視されてきた。また“実質0円を割り込む”額で端末を販売することは問題があるとしたものの、実質0円での端末販売自体は容認する方針も示されている。
それにも関わらず、総務省は実質0円どころか、実質数百円での端末販売も認めない方針を見せているほか、MNPだけでなく機種変更時の大幅な割引も問題があるとして要請を打ち出している。
先のガイドラインに、いくらまでの割引なら認めるかという明確な線引きがあれば、そうした混乱も起きにくかったかもしれない。ただ、総務省は通信の自由化を推し進めてきただけに、民間企業の料金体系に対し明確な介入はしづらく、そうした線引きをすることは難しい。基準が曖昧な状態のまま、取り締まりだけが厳しくなっていることが、短期間で多くの混乱をもたらす結果につながったといえよう。
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