不動産大手のコスモスイニシアは、10月末にリノベーションマンション専門の物件紹介サイト「RENONAVI(リノナビ)」をオープンした。
このサイトは、従来の物件紹介サイトと違い、「リノナビインスペクション」と呼ばれる独自住宅診断調査の結果や、契約時まで知ることができないと言われる重要事項情報をウェブ上で確認できることが特長で、テクノロジを活用して消費者への情報提供を強化しているのだという。
テクノロジによる不動産ビジネスの変革を目指すリアルエステートテックの領域では、消費者への情報開示に関する透明性や、情報の公正中立性の担保などが大きな議題に挙がっている。実際に物件を販売する不動産ビジネスの現場では、どのような課題意識を持ち、テクノロジをどのように活用しようとしているのか。
コスモスイニシアR&D事業部 市場戦略部 新規事業企画課の課長である木下修文氏と、同じく新規事業企画課のチーフである中村陽子氏に話を聞いた。
――まずは、RENONAVIについて教えてください。
中村氏:RENONAVIは、東京都心のリノベーション済み中古マンションを扱う物件紹介サイトで、従来の物件紹介サイトと大きく違う点は、情報開示に関するスタンスと内容です。開示する情報は物件を“良く見せる”のではなく網羅性にこだわり、ネガティブな点も我々のルールに則って紹介するようにしています。また、自社で行っている住宅診断(リノナビインスペクション)の結果や重要事項説明の内容など、本来ならば購入契約の直前まで開示していない情報も掲載しています。
木下氏:たとえば窓の外が壁や階段だったり、景観が悪かったりしても、自社のルールに則って写真をしっかり掲載するわけですね。ある意味、“馬鹿正直”なスタンスで情報開示していくというのがポイントです。
もちろん、このサイトを見てお問合せをいただいたお客様に対しても、同じスタンスで営業活動をします。現地でもネガティブなポイントや設備の不具合などは説明するようにしています。また、不具合が多すぎて紹介に適さない物件は事前に掲載を却下して絞り込みをしています。
――“馬鹿正直”というスタンスを掲げる不動産会社はまだ多くないように感じます。実際の営業でも顧客からはネガティブな点を確認したいという声は多いのではないですか。
木下氏:新築のように瑕疵(故障や不具合)が考えにくいものであれば問題はないのですが、中古の場合にはそうはいきません。どこかに問題があったり将来修繕が必要なネガティブな点があるものです。顧客はそれが怖くて中古物件が買えないのではないでしょうか。そこをしっかりと伝えることで、「このようなリスクがあるけれど、気に入っている点もあるから買おう」という判断ができると思うのです。
中村氏:過去にユーザーインタビューをしたことがあるのですが、新築物件と中古物件を同時に検討している人は、中古物件を2回、3回と内覧検討するたびに「購入できる自信がなくなった」というのです。仲介会社から出てくる情報の乏しさや潜在的なネガティブな点に対する不安がそうさせるのだと思います。結果的に「新築のほうが買いやすいから買う」という結論になってしまうのです。
――つまり、中古物件を検討する人にとっての不安感の払拭というのが第一の狙いということですね。
木下氏:そうですね。中古住宅を安心して買えるようにしたいというのが大きい狙いです。私たち仲介事業者は顧客に情報を提供するのが仕事です。その情報には、一般的に表に出される「物件概要」と、建物の「建築スペックに関する情報」、そして顧客の購入計画に関する「ファイナンスに関する情報」や、物件相場などの「価格情報」といくつかあるのですが、残念ながら今の不動産業界は、とにかく物件概要だけを駆使して、ゴリ押しで営業を行っているのが現実です。
今回の取り組みではそうした従来のスタンスを変えて、建築分野の情報をしっかりと伝えられるようにしたいと考えています。将来的にはファイナンスや周辺相場などに関する情報といった分野も拡充したいと思っていますが、まずは新築住戸を40年余り供給してきたノウハウを生かして、自分たちの専門分野である建築や管理に関する領域の情報からサービスを充実させたいと思っています。
中古住宅は怖くて買えないという方は非常に多いですよね。私も過去に何度か断念したこともあります。それで断念した結果、無理して新築物件を購入して多額のローンを抱えることになると、人生設計が大きく狂ってしまいかねません。無理をせずとも安心して不動産を購入できるようにしたいという思いが、このサービスを作った強い動機ですね。
――営業される顧客側としては、いい話ばかりを並べられるよりも、ちゃんと正直に隠さず言ってもらった方が納得して判断できます。ネガティブなポイントを許容できるかどうかは顧客次第のところもあります。そうした透明性は今後の不動産ビジネスに不可欠だということですね。
中村氏:顧客の情報収集能力は過去に比べたら大きく上がっていて、調べればさまざまなことが理解できる世の中になっていると思います。だからこそ、不動産会社は専門家としてワンランク上の情報を提供できるようにならないといけないと思います。
――サービスを公開して、反響はありましたか。
木下氏:計画通りの反響が生まれており、問合せも増えています。また、「関西圏でも展開してほしい」といった声や、同業他社から「物件情報を載せたい」という声もいただいています。サイトのコンセプトは評価されていると実感していますが、使い勝手は今後改善していきます。また、現在は東京都心の物件を取り扱っていますが、物件エリアは来年度以降に拡大したいと考えています。まずはスモールスタートで成功させて、そこから拡大させていきたいですね。
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