物件リアルタイム査定「IESHIL」、参入から1年で感じた不動産業界の変化

 2016年のテクノロジ業界を振り返ると、テクノロジによって不動産ビジネスに変革を生み出そうとする「リアルエステートテック」は、注目度が急上昇したキーワードの1つといえるだろう。今年だけでも数多くのサービスが立ち上がり、空き家問題や不動産流通市場の活性化など、不動産ビジネスが抱えるさまざまな課題を解決しようと邁進している。

 そのうちの1つで、中古マンションのリアルタイム査定をしてくれるサービス「IESHIL(イエシル)」を運営するリブセンスの不動産ユニット ユニットリーダーである芳賀一生氏と、リブセンスにデータ基盤技術を提供するトレジャーデータのマーケティングディレクターである堀内健后氏に、サービス開始からこれまでの手ごたえを振り返ってもらった。

トレジャーデータ
(左から)トレジャーデータの堀内健后氏とリブセンスの芳賀一生氏

従来の不動産情報サービスとは一線を画すプラットフォームを目指す

――「IESHIL」は2016年8月でサービス開始から1年を迎えました。まずは最近の動向について教えてください。

芳賀氏:大きなところでは、8月18日に「AIアドバイザー」をリリースし徐々に効果が生まれています。翌9月のデータでは、利用者は1日あたり3~5名が、AIアドバイザーを経由して不動産会社へと送客できている状況です。また、IESHILの会員数は約5万人まで増加しました。

――不動産会社への送客では、インターネットからの「一括査定」があると思いますが、それとの違いは。

芳賀氏:不動産情報サイトのマネタイズで最も一般的なのは、いわゆる「(売却の)一括査定」による送客ビジネスです。売主は1回の情報入力で複数の不動産会社へ査定依頼が出せるので、とても気軽ですし便利なサービスだと思います。また、不動産会社側も売主獲得の集客導線として重要な役割となっています。

 しかし、「一括査定」のビジネスモデルは10社前後の不動産会社へ一斉に査定依頼が送られるため、不動産会社は多数のコンペとなるため、相見積もりの競争に巻き込まれ、来店してほしいがために高い見積もりを出しがちになる傾向があるそうです。一方で、10社前後の見積もりを受け取る売主は、高い査定をする不動産会社を選んで商談を始めるものの、その見積り額は市場の相場価格と大きく離れてしまっている場合もあります。そのため、実際に商談してみると、いろいろな理由によって評価額が下げられてしまい、期待値との乖離が生まれてしまいます。

 加えて、買い手は少しでも安く買いたいので、強気な値付けでは買い手がつかず、要望を受けてさらに価格を下げることもありうる。売主にとっては、自分の物件の適正な価格はいくらなのかがわからない状況で物件の売却をしなければならないのです。

IESHILで不動産売却希望者向けに開始した「AIアドバイザー」
IESHILで不動産売却希望者向けに開始した「AIアドバイザー」

 IESHILでは、公平性や中立性を重視したサービス作りをしたいという観点から、こうした従来の査定見積とは違うアプローチがしたいと思っていて、顧客ニーズと不動産会社の特徴をAIでマッチングして、3社までに限定してお勧めの不動産会社を紹介するというスタンスを取っています。

 本来であれば顧客に対して最高に相性の良い営業担当者をマッチングすることがベストなのですが、現状はテストマーケティング要素も強くAIはまだそこまで至っていないので、その道筋として不動産会社とのマッチングを提供しながらAIの精度を高めていき、IESHILが不動産売買の良いパートナーと出会えるサービスになればと思っています。

――そのように伺うと、成約に結び付く可能性の高い“相性の良い顧客”を1日3件~5件送客できているというのは、決して少ない数字ではないようですね。

芳賀氏:そうですね。加えて、今ユーザーから不動産会社のレビューを集めている状況で、実際に商談してみてどうだった、適当な査定・見積りをされた、真摯な対応で親身に相談に乗ってくれた、といった声を集めることで、AIではカバーできないチューニングをしていこうとしています。また、参画していただく不動産会社には参考としてそのレビュー結果をまとめ、直接ご報告もしています。

 IESHILとしては、ユーザーと不動産会社を繋ぐプラットフォーマーとして、従来の不動産情報サイトとは異なるビジネスモデルを作っていきたいと思っています。まだ(この1年で)構想しているアイデアの10%程度しか実現していないので、来年には更に大きな取り組みを予定しています。

“リアルエステートテック”の誕生から1年で感じた、不動産業界の変化

――“不動産業界を変えたい”という思いでIESHILをリリースしてから、この1年で実現したこともあれば課題に直面した部分もあったと思います。

芳賀氏:このビジネスを立ち上げたときは、「IT業界ならばこうする」という、これまでの業界が作ってきた“成功の方程式”を横展開してサービスのことを考えていたのですが、実はあまり上手くいかない部分もありました。それは、これまでネットサービスで成功を収めてきたグルメやECのビジネスと違い、不動産売買自体がユーザーにとって頻度の高いものではないということが背景にあったかもしれません。

 ただ一方で、当初は日本の不動産業界に馴染むような先進的サービスモデルがどうあるべきか不安が多かったのですが、いざ始めてみると、業界の中でも実直にさまざまな試行錯誤を重ねて不動産ビジネスを展開している中堅企業の方々が、私たちと一緒にテクノロジを活用したビジネスをしたいと声を掛けてくれたのです。特にここ半年は、そのような声を本当にたくさんいただき驚きましたね。

 なぜ、このようになっているのかを考えてみると、国の方針が大きいのではないかと思います。たとえば、2018年からは中古住宅に品質調査(インスペクション)の有無を開示することが義務化されるほか、売主への情報開示の一環としてREINS(不動産取引情報)を一部開放し始めている。

 こうした消費者を保護する規制や情報開示の強化を受けて、業界全体で「不動産ビジネスを新しくしていこう」という意志が強くなり、それが「テクノロジをさらに活用すれば、新しいことができるのでは」というポジティブな動機に変わり始めているのかもしれません。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画広告

企画広告一覧

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]