Target 2020

不動産業界の発展に貢献する--リブセンス「IESHIL」が考える不動産テックの姿

 2015年の下半期から、テクノロジによって不動産取引にイノベーションを起こそうという「リアルエステートテック(不動産テック)」の動きが活発になっている。リアルエステートテックは不動産取引のどのような課題を解決し、どこを目指しているのか。不動産流通プラットフォーム「IESHIL(イエシル)」を2015年8月にオープンした、リブセンス 新規事業本部 プロジェクトリーダーの芳賀一生氏に聞いた。

 芳賀氏は、2月18日に開催される「CNET Japan Live:Target 2020~テクノロジーがもたらすパラダイムシフト~」において、『「RealEstateTech」ビッグデータ活用による国内不動産の未来』と題した講演を、IESHILに機械学習ライブラリ「Hivemall」で技術協力しているトレジャーデータのマーケティング担当ディレクターである堀内健后氏と共同で実施する予定だ。

リブセンス 新規事業本部 プロジェクトリーダーの芳賀一生氏
リブセンス 新規事業本部 プロジェクトリーダーの芳賀一生氏

不動産市場にある課題に立ち向かい、2020年の市場規模倍増を目指す

--まず、IESHILが生まれた背景として、現状の不動産取引における課題について教えてください。

芳賀氏:もともと、リブセンスが不動産売買領域へと参入したのは、代表の村上(太一氏)の熱意が強かったことが理由としてあります。その背景には、数千万円もする家を買うことが人生において大きなイベントであるにも関わらず、あまりにも知識や情報が少ないために透明度が低く、売買価格にも不公正感があるという課題を感じていて、もっと提供できる情報を増やして透明性を高めれば、家を買うことに対する安心感が高まり、市場が活性化するのではないかと思ったのです。

 リブセンスは「あたりまえを、発明しよう。」を会社のビジョンにしていますが、不動産取引における“あたりまえ”はまだできていないのではないかと。それをインターネットで提供しようというのが、IESHILが生まれたきっかけです。

 加えて、視野を広げると不動産市場にはさまざまな課題があることがわかってきました。日本の住宅流通における中古住宅の割合は14.7%(2013年)と欧米諸国に比べて6分の1程度であり、日本の不動産市場は依然として新築住宅が牽引している傾向があります。しかし、東京都内における住戸の空室率は13%を超えていて、人口が減っているのに新たな住宅を作り過ぎてしまい、中古物件に人が住まないという状況が生まれてきています。新築住宅に依存する不動産市場に無理が来ているのではないかと思うのです。

日本の中古住宅流通割合は欧米に比べて低水準
日本の中古住宅流通割合は欧米に比べて低水準

 こうした状況に対しては国(国土交通省)も動き出していて、現在10兆円規模と言われている中古住宅・リフォーム市場を2020年までに20兆円に倍増させるという目標を掲げ、不動産業界で運用されている物件データベース「REINS」をより透明性の高いものへアップデートしていく計画や、不動産取引に必要な重要事項説明をIT化する計画、中古住宅に対するインスペクション(物件にある瑕疵の調査・査定による安全性の担保)の強化といった、これまで浮彫になっていなかった問題を解決していこうとする動きがあります。こうした動きに呼応するように、IT業界でも我々をはじめさまざまなプレイヤーが動き出している状況です。

不動産情報とオープンデータで透明性の高い情報を提供する

--IESHILの現状と今後の見通しについて教えてください。

芳賀氏:IESHILでは、大きく3つの価値をご提供していきます。現在は「リアルタイム査定」という機能を提供しており、都内のマンション物件の売買・賃貸に係る推定市場価格をサイト上で閲覧いただけます。2016年の早いタイミングで、物件の利便性や治安・地盤情報など8項目に関する中立なレイティング機能や、実際の売買に役立つ新サービスをオープンすべく、準備を進めているところです。2月18日の「CNET Japan Live 2016」の講演では、この新サービスについて、お話しできる見込みです。

IESHILのサービス概念図
IESHILのサービス概念図

 このリアルタイム査定という機能は、ビッグデータ解析と機械学習によって、マンションの部屋別の物件価格やその推移、売買の履歴、賃料の推定価格などを提供するものです。具体的には、シンガポール国立大学不動産研究センター教授の清水千弘氏の指導のもと、ヘドニック法という金融工学の考え方と機械学習による価格査定エンジンを開発し、ウェブサイトをクローリングしたり、独自の調査を実施したりなどして収集したビッグデータをマンションごとの物件情報に加工し、部屋別の価格査定をしたり、過去に遡った価格の推移などを閲覧できるようにしたりしています。

 対象のマンションは東京都23区の4万2000棟にのぼり、利用する会員数もまもなく1万人を突破するなど順調に推移しています。広告などは特に出していないのですが、SEOによるトラフィックの増加が好調で、オーガニックな流入を獲得しています。今後はこのリアルタイム査定に加え、国や地方自治体が発表しているオープンデータを活用して、地域の治安に関する情報や地盤の安全性、立地の利便性の評価なども提供していこうと考えています。

欧米に比べて、日本ではオープンデータの活用が非常に遅れていて、自治体によっても公開の程度に大きな差があります。これに総務省や内閣府は課題意識を持っているのですが、例えば米国のMLS(Multiple Listing Service:米国の不動産物件情報サービス)などでは、オープンデータを使いやすいように加工し、リアルタイムな更新性を持たせることで、そこからさまざまな不動産情報サービスが生まれるような環境を作っています。米国では現在の物件価値だけでなく、地域の安全性評価や未来の資産価値予測までをも確認できるようになっています。とても透明性が高く先進的なサービスが生まれていると思います。IESHILも不動産情報にさまざまなオープンデータを組み合わせることで、ユーザーにより透明性が高い情報提供ができればと考えています。

不動産業界とIT業界は同じ目標に向けて共に進んでいく

--リアルエステートテックを巡る動きは、既存の不動産業界の一部からは「破壊的イノベーション」とも捉えられています。実際、IT業界の動きに反発する動きもあります。こうした中で、IT業界と不動産業界は今後どのような関係性を作っていかなければならないのでしょうか。

芳賀氏:IT業界が考えるリアルエステートテックと従来の不動産業界、どちらが良いか悪いかの比較ではなく、消費者にとって良い不動産売買の形を生みだし、中古物件の流通量を増やすことで市場拡大を実現することが最大の目的なのではないかと思うのです。その中で、歴史のある不動産業界が持つ知見や経験は、私たちにとっては学ばなければならない大切なものであると考えていますし、そこに私たちのテクノロジの知見を組み合わせることで、発展的な共存・共栄を実現することができるのではないかと思います。

 IT業界と不動産業界が力を合わせてさまざまな課題を解決し、消費者にとって良い不動産売買の在り方を生み出したい。このような考えにもとづき、まもなく発表を予定している新たなサービスのリリースに向けて準備していきたいと考えています。


--最後に、IESHILの今後に向けた抱負を教えてください。

芳賀氏:2020年に向けて、リアルエステートテックによる新たな市場創出を国産サービスの力で実現していくことが重要だと考えています。これまでの様々な業界の動きを見ても、ある分野で規制緩和の動きがあると、技術的な強みを持つ海外のテクノロジ企業がどんどんイノベーションを生み出して市場優位性を創り出していたりする。そこに負けたくはないという思いを強く持って、サービス拡充を進めていきたいですね。

2月18日に開催するイベント「CNET Japan Live:Target 2020~テクノロジーがもたらすパラダイムシフト~」において、リブセンスはトレジャーデータとともに「「RealEstateTech」ビッグデータ活用による国内不動産の未来」と題して、両社の具体的な取り組みについて講演するとともに、展示ブースで新サービスを紹介します。

講演にはリブセンス 新規事業本部 プロジェクトリーダーの芳賀一生氏と、IESHILに機械学習ライブラリ「Hivemall」で技術協力しているトレジャーデータのマーケティング担当ディレクターである堀内健后氏が登壇します。展示ブースでは、IESHILの新サービスとなる「イエシルアドバイザーサービス」を紹介。IESHILを操作し、自身の部屋の参考売買価格や参考賃料価格を確認することも可能です。

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