米国ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・E・ポーター教授が提唱したCSV(Creating Shared Value)。日本では「共通価値」や「共有価値」と訳されているが、従来のCSRにおける本業を通じた社会貢献活動である“攻めのCSR”を、社会課題の解決と企業利益及び競争力の向上という視点で戦略的に位置づけ直したものだ。
米国では、ポーター教授が2011年にCSVを提唱したのを受け、翌2012年には、コンサルティング会社FSGが主導するかたちでCSVを普及促進するための「Shared Value Initiative」(以下、SVI)が立ち上げられている。
SVIは、企業、財団、NPO・NGOなどからなる世界的なコミュニティであり、現在、35組織が参画。CSVに関する情報共有、調査研究、アドボカシー、コンサルティングなどを行っている。このたびSVIでは、CSVの更なる普及促進に向け、米主要経済誌「フォーチュン」と連携してCSV活動の企業ランキング・トップ50「Change the World」を公開した。
これら企業の選択基準は、
ランキングトップは、2007年にケニアの貧困層向けにスマートフォンを活用したオンライン・バンキング・サービス「M-PESA」を開発した英国ボーダフォンと ケニアのサファリコム。現在では、東アフリカ、インド、ルーマニア、アルバニアなどで1700万人が利用しており、開発途上国における金融システムに大きな革命をもたらした。現在ケニアでは、GDPの42%がM-PESAを介して取り引きされている。
第2位は、米国のグーグルだ。学術用途での検索を主対象とした「Google Scholar」、無料オンライン翻訳サービス「Google翻訳」、書籍の全文検索サービス「Googleブックス」など、従来の検索サービスをさらに深化・多様化して世界中の知の共有を促進している。
また2009年には、国連気候変動会議(COP15)が開催されるのに伴い、気候変動の潜在的影響をシミュレーションできる「Google Earth」の提供を行うなど、より直接的な社会課題の解決に向けたサービス提供を加速させている。
そして第3位が、日本企業のトヨタである。1997年に世界初の量産ハイブリッド車「プリウス」の製造・発売を開始し、2014年には量産型として世界初の燃料電池自動車「ミライ」を発売。自動車業界全体を牽引するかたちで先進的な取り組みを行っている。
これらグローバルで活動する大手企業に加え、クラウドファンディング・プラットフォームのキックスターターや、バングラデシュで貧困層に対するマイクロファイナンス事業を行うグラミン銀行などもトップ50に名を連ねている。後者については、創設者でノーベル平和賞受賞者でもあるムハマド・ユヌス氏は過去に来日もしており、読者の中にもご存じの方がいらっしゃるだろう。
トヨタが第3位に入っているのは日本人としても喜ばしいことだが、残念ながら、このトップ50にランクインしている日本企業は同社だけだ。日本でも企業のCSRに関するフォーラムや研究会などの情報共有・交換の場は存在しているが、参加メンバーが企業に偏っていたり、個々の企業の事例紹介にとどまっていたりと、それ以上の広がりがあるとは言えない状況だ。
今後は、経済界のみならず、広く国や行政、NPO・NGO、研究機関などとも連携しながら、社会課題の解決を前提としたコミュニティづくりを行っていく必要があろう。
この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。
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