CSR推進におけるNPOとの“異文化コミュニケーション”

長浜洋二(NPOマーケティング研究所)2014年11月14日 15時40分

 企業でCSRを推進していくにあたり、NPOとの協働は不可欠だ。

 昨今では、企業が直接、社会貢献活動を行うケースも出てきているが、社会課題の解決においては、「餅は餅屋」ということで専門性の高いNPOに任せるか、NPOとの協働事業として実施する方が結果として社会に創出できるインパクトも大きい。

 となると、企業にとって次に考えるべきは、パートナーとなるNPOが持つ独自性と共通性を理解し、何を考え、どのように動いているのかという行動原理や原則に対する理解を深めることだ。

 10月1日に刊行した拙著「NPOのためのマーケティング講座」(学芸出版社)では、こうしたNPOの行動原理や原則について、マーケティングという視点から解説している。

 まず、企業とNPOではそもそもの存在意義が異なる。NPOは、自団体だけでなく、社会全体に利益をもたらすことを前提としているため、自社の利潤追求を目的とする企業とは一線を画している。

 究極のゴールはNPOの存在が不要になることであり、企業のように存続することを前提として存在していない。

 企業と違い、利益を生み出さない事業は実施しないということはないため、慢性的な経営リソース不足に悩まされながらも、取り組む社会課題がゼロになるまで活動を続ける使命を負っている。

 一方で、企業もNPOも組織としての目的を持ち、達成すべき目標を抱えながら活動しているため、双方で協業できる部分も多い。

 実際に、企業の売上などの一部をNPOに寄付するというコーズ・マーケティングが企業セクターに浸透していることは、まさにこの点を物語っていると言えよう。

 次に、NPOが取り組む社会課題は、1つの分野に留まらず複数の分野にまたがるものが多いため、自ずとステークホルダーが多いという特徴がある。

 このため市民、行政、企業、研究者、メディア、政治家、他のNPOなど、個々のステークホルダーが持つ利害関係を調整する力が必要とされる。

 さらに、NPOの活動は特定の地域や活動分野に特化したケースが多いため、対象となる人や地域以外にとっては当事者意識を持ちづらい。

 また、そもそも活動内容が目に見えない無形のサービスであることが大半であるため、その成果や価値を伝えるのが難しい。

 経営リソースについても、市場調査、ITインフラの整備、広告の活用など、企業においては当たり前ともいえる業務に投下する資金が慢性的に不足している点が挙げられよう。

 人材面においても、企業のように充実かつ安定した給与・福利厚生が提供できず、雇用後も充分な人材育成の機会を提供することができないため、優秀な人材が集まりにくく、常に人材流出の危険性を抱えている。

 そして何より、未だにNPOを無償のボランティア団体だと認識している人が多いのが実態である。

 ボランティアの特徴である「無報酬」と、NPOの特徴である「非営利」が混同され、ボランティア団体だからお金を稼いだり収益をあげるのはおかしいと認識している人が存在しているのだ。

 NPOは法人格を持った組織であり、社会の利益を最大化するための活動を行うために、スタッフの雇用維持も含め、組織の運営に資金が必要なのは当然である。

 こうしたNPOの存在や活動の背景にあるものをきちんと読み解くことで、NPOが何を目的に、どのような目標を追い求めながら日々活動しているのかが理解できるようになる。

 結果として、協働もスムーズに進み、社会的なインパクトも最大化される。

 企業に身を置きながらNPOセクターでも活動している筆者からすると、企業とNPOはまだまだお互いのことを理解しようとせず、お互いを交わることのない相手、もしくは信用できない相手とみなしているように感じる。

 企業とNPOの関係は、さながら“異文化コミュニケーション”のようなものかもしれない。

 コミュニケーションであるからには、双方向であり、理解し合えるものであり、楽しいものであるはずだ。

◇ライタープロフィール
長浜 洋二(ながはま ようじ)
NPOマーケティング研究所 代表。富士通勤務の傍ら、NPOマーケティングで社会を変える!『草莽塾』の主宰をはじめ、コンサルティングや講演活動を行う。米国にて公共経営学修士号を取得後、非営利シンクタンクでロビーイングやファンドレイジングなどに従事した経験を持つ。

この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。

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