企業関係者であれば、ROI(Return on Investment)について聞いたことがないという人は殆どいないだろう。
一般的には“投資収益率”、もっとシンプルに“投資対効果”と呼ばれるが、投資した資本に対して得られる利益の割合のことを指す。
企業では新規・既存の別を問わず、常に事業への投資を行っているわけだが、投資に見合った利益を生んでいるかどうかを判断するために、ROIは日々の活動において重要な指標となっている。
実は、公的セクターにも似たような指標がある。SROI(Social Return on Investment)がそれだ。ROIの前に“Social”という単語がついているわけだが、企業など、特定のステークホルダーに対する経済的なリターンではなく、社会全体に対するリターンを意味している。一般的には、社会的投資収益率と呼ばれている。
SROIは、米国の非営利シンクタンクREDFが開発し、イギリスの非営利シンクタンクNEFなどが実用化した社会的価値の評価手法で、日本でも少しずつ導入実績が増えつつあるようだ。
このコラムでは、日本マイクロソフトと東日本大震災による地元NPOが協働して実施する「東北UPプロジェクト」の第三者評価事例(ビズデザイン社が実施)を紹介しよう。
「東北UPプロジェクト」は、復興支援の中でも雇用の課題解決のためICT(Information and Communication Technology)スキル講習と就労支援プログラムを実施し、被災者の雇用を支援するものだ。
また、被災者に対して直接的にICTスキル講習を提供するだけでなく、被災地で復興支援に携わる地元NPOを講師として養成するという面もあわせ持つ。
2012年4月以降、約1年間で17名の講師を養成し、東北三県など7カ所で300回のICT講習を実施。延べ851名の被災者の方が講座を修了したという。このうち426名が求職し、30%の目標就労率に対し目標を上回る193名(45%)が就職を獲得した(ビズデザイン社報告書より抜粋)。
また、SROIにより評価を実施した結果、プロジェクトの投資額に対する1年間の付加価値は75,555千円となり、SROIとして4.46倍の効果をもたらしたと算出された。
内訳は、受講者全体で73,918千円(一般受講者45,234千円/臨時雇用者28,683千円)、実施団体(地元NPO)で1,637千円となっている。1人当たりの効果額は、講座受講者の合計が392人であることから、192千円の効果となる。
貨幣換算化の代替指標としては、社会的改善カウンセリング費用、通常マイクロソフトの提供するIT講習費用、キャリアカウンセリング費用、就職セミナー受講費用、コーチング費用、生産性の向上によって削減できた時間の貨幣価値、OJT費用、営業支援・集客プロモーション費用などが考慮されている。
企業実務に携わっている以上、微額であれ投資には何らかのリターンが必要だ。
つまり、社会貢献分野も成果を度外視した聖域ではなく、本業と同じように投資に対するリターンが必要だということだ。1つ違うのが、対象が当該企業のみならず、社会全体にもリターン(インパクト)がもたらされるという点だ。
そもそも社会貢献分野に投資するという行為が、株主をはじめとするステークホルダーに受け入れられるかどうかという問題はあるが、少なくとも、投資したプロジェクトが社会的な価値を生み出しているのかどうかを貨幣価値に換算して提示できるのであれば、ステークホルダーの納得度も高まるだろう。
NPOから寄付や協賛をせがまれて漫然と、ときには渋々お金を出すケースが散見されるが、投資に対するリターン(成果)が明確でない事業/プロジェクトには、本当に投資する価値があるのかどうか改めて見直す必要があろう。
そうすることで、社会的課題を解決するNPOも、常に自分たちの活動の先にある成果は何なのかということを意識するようになり、企業とNPOの協業もこれまでより一段高いところへ進むことができる。
この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。
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