「CNET Japan」を運営する朝日インタラクティブは11月10日、「ビジネスの未来を決めるカスタマーエクスペリエンスセミナー」と題したセミナーイベントを開催した。
昨今、企業において顧客との接点はマスメディア、ウェブ、アプリ、ソーシャルメディア、店舗などオンライン、オフラインを問わずどんどん増加し、複雑化の一途をたどっている。その中で顧客を理解し、その体験をどのようにして向上していけばいいのだろうか。
ルグランの代表取締役 共同CEOである泉浩人氏と、SCSKプレッシェンド プロジェクト推進部の部長である高橋徹氏による特別対談をレポートする。
対談のテーマは「DMPからEMPへ」というものだ。ここでいうDMPとは「データマネジメントプラットフォーム」であり、EMPとは「エクスペリエンスマネジメントプラットフォーム」のことである。
データからエクスペリエンスへ――それは一体、どういうことなのか。
泉氏によると、オーバーチュアが2002年に日本でビジネスを始めた際、広告の成果が可視化され、「どのキーワードから何が売れたのか」がわかるようになった。それにより、ネットの広告の透明性の高さが広まったが、同時に弊害も生まれたという。
「何百万円を預けるから、何件コンバージョンを取ってね、とおっしゃるクライアントとはお付き合いが難しい。なぜなら、広告予算を渡して求める売り上げが必ず実現することは現実にはありえない。商品や販売ルートなどさまざまな要素も含めて成果というのは上がるもの。それをわかっていたはずなのに、リスティング広告で売り上げが伸びた会社がたくさん出てきたせいで、売り上げに結びつかない広告が無駄だと思われるようになった」(泉氏)。
泉氏はこうしたデジタルマーケターを「第一世代デジタルマーケター」と命名し、「コンバージョンモンスター」だと指摘する。すなわち、データを見てはいるものの、それは売り上げを刈り取るためであり、コンバージョンばかりを重視してしまうマーケターである。
こうした第一世代デジタルマーケターから「第二世代デジタルマーケター」に進化するために必要なのがEMPなのだという。
「ターゲティングやコンバージョンに収れんするのではなく、よいエクスペリエンスを提供するためにデータを使うべき」(泉氏)。
現場に目を向けてみよう。そこには、DMPにおけるありがちな誤ちがあるという。泉氏によれば、「主観的な仮説を立て、それを補強する。小さな事実だけに目を向ける。そして『データは無くともわかる』と結論づけてしまう」のだ。
たとえば、「妻は夫の洋服もついでに買うことが多い」という仮説を考えたとしよう。
これは、実際にアパレル企業の担当者が考えがちな仮説だという。しかし、実はこの仮説には裏付けとなるデータはない。担当者が何件かの注文データを見ただけで、そう思い込んだのだ。
そこで、SCSKプレッシェンド高橋氏が実際にデータを集計してみたところ、自分の洋服を買うついでに夫の洋服も買う妻は全体の8.5%にすぎないことがわかった。つまり、仮説は担当者の思い込みだったわけだ。高橋氏は「なぜ担当者がそう思ったのかはわからないが」としながらも、「店舗で接客をしたら、そういうお客さんがいて、印象に残っていたということではないか」と予想する。
続いての仮説は「複数のブランドがあるのだから、色々買い回っている人も多いはず」だ。
ECサイトには、さまざまなブランドがラインアップされている。そのため、顧客は色々なブランドを買い回っているはずだ――という仮説だが、実際に調査をしたところ、顧客の89%が単一ブランドのみを購入していたという。よって、これも担当者の願望に近い思い込みだと高橋氏は指摘する。
この思い込みが「戦略的な分かれ目になる」と泉氏。なぜなら、「複数のブランドを買い回っているという前提でサイトをリニューアルしてしまうと、レイアウトもまったく違ってくる」(泉氏)からだ。
こういった思い込みはなぜ起きるのか。データはそこにあるのに、うまく活用されないのはなぜか。
高橋氏によると、「忙しさにかまけてなかなかデータを見られないという言い訳をしている人が多い」ことに加えて、「自分の希望するデータが出ないと嫌だという人が多い」のが原因だという。
主観的な思い込みによる仮説で失敗しないためには、「ビジネスを理解し、同時に数字を見られる人が必要」と泉氏。また、高橋氏は「日本にはまだ少ないが、データを扱えるアナリストを採用することも必要」と説明した。
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