中小企業によるCSR活動への取り組み「スマイル日光プロジェクト」

長浜洋二(NPOマーケティング研究所)2015年03月12日 07時40分

 栃木県日光市で、地元企業によるCSRプロジェクトが実施されている。「スマイル日光プロジェクト」がそれだ。

 このプロジェクトは、日光市内で事業を行う地元企業が「寄付つき商品」の販売を通して地域社会に貢献するというものだ。プロジェクトの推進は、日光市、日光市社会福祉協議会、日光商工会議所の3者からなる日光CSR推進連絡会が担い、2014年9月から2015年2月までテストマーケティングを兼ねて実施された。

 日光のCSRの定義として、

  1. 企業のファンを増やすこと
  2. 地域において企業が存在する(在る)ことが大切
  3. 地域の一員として地域とのつながりがあること
  4. 企業の役割として地域課題の解決に目を向けること
  5. コストではなく戦略的な投資であること
  6. を定めている。

 つまり、CSRに積極的に取り組むことにより、企業の価値が上がり、人(従業員)が育つ。同時に、地域の一員である企業が発展することで、日光市(地域)全体が良くなるという循環を構築することが狙いだ。

 プロジェクトに参加した企業は15社。印刷会社、弁当屋、酒店、呉服店、タクシー会社、農園など多岐にわたっている。

 各企業ごとに特定の商品を選定し、その売上に応じた寄付金が、日光市社会福祉協議会が推進する日光市内の高校生ボランティアネットワーク「縁人(えんびーと)プロジェクト」に寄付されるという仕組みだ。具体的には、注文を受けた名刺の売上の5%、日本酒1本につき100円、洗顔ミトン1個につき10円などが寄付される。

 筆者も、本プロジェクトのアドバイザーとして約1年にわたり関わっている。

 約半年間のプロジェクト準備フェーズでは、CSRやコーズマーケティングとは何かを理解する勉強会を行い、そのうえで、寄付つき商品の企画、目標・指標の設定、店頭での接客手法やパッケージ開発、商品の陳列方法などを含む、売上拡大に向けた販売・プロモーション戦略の構築、そしてプロジェクト全体として広報戦略の検討などを行った。

 さらに9月以降の実践フェーズでは、設定した目標・指標に対する振り返りと、成功・失敗事例の共有、目標達成に向けたリカバリー策の検討などを行った。

 プロジェクトの結果としては、2月末日段階で、当初目標10万円に対し、14万円強を獲得。2月11日に日光市今市で開催された「花市」でのブース出展をプロジェクト全体の盛り上げ企画として設定し、追い込みを図ったことも奏功した。

 このプロジェクトの特徴の1つ目は、大企業が日本全国を対象に大規模な広告展開をしながら仕掛けるものではなく、あくまでも“地域密着”である点だ。

 参加企業にとっては、事業を行っている地元に愛されなければ意味がない。つまり、商品を購入していただくお客様として、また、将来、社員になってくれる候補者に向けて、地元の課題に取り組み、地域に愛される存在になることは不可欠なのである。

 2つ目として、1社だけで実施するのではなく、複数の企業が協業している点だ。特に地方や中小企業においては、社会的なインパクトを創出するためにも、複数の企業で取り組むほうが効果は高い。

 本プロジェクトに参加した企業は共通デザインの幟やポスター、チラシを使用したり、共同でイベントに出展したりするなど、プロジェクト露出を効果的に行ってきた。結果として、下野新聞やCRT栃木放送などの地域メディアにも何度か取り上げられることとなった。

 さらに複数社で取り組むことで、売上の拡大に向け、参加企業同士の競争心を育んだり、ノウハウを学び合うなどのメリットをもたらしている。プロジェクト全体の目標金額と各社ごとの目標金額の2つを設定し、小まめに進捗状況を共有し合うことで、参加企業全員の状況がガラス張りとなり、目標必達の意識が芽生え、販売面での工夫にも繋がった。

 CSRというと、一部の大企業では実践されているものの、中小企業では取り組みが進んでいないことが指摘されている。本プロジェクトでは、CSRに馴染みの無い企業にとっての入り口として、参加企業の本業の売上にも直結する寄付つき商品の展開という要素を取り入れた。

 参加企業には、プロジェクトを実施する中で、あらためて、普段はあまり意識しなかったような地域社会との繋がりを感じていただいたことだろう。

 CSRは継続しなければ意味がない。そのためにも、地域コミュニティと企業との間に無理のない関係性を維持し、お互いが支え合うような仕組みの構築が不可欠だ。

◇ライタープロフィール
長浜 洋二(ながはま ようじ)
NPOマーケティング研究所 代表。富士通勤務の傍ら、NPOマーケティングで社会を変える!『草莽塾』の主宰をはじめ、コンサルティングや講演活動を行う。米国にて公共経営学修士号を取得後、非営利シンクタンクでロビーイングやファンドレイジングなどに従事した経験を持つ。

この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。

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