メーカーの生産した商品が消費者に届くまでの流通市場で、デジタルデータを活用しないことはないだろう。メーカーや卸売り、小売りは市場分析をはじめ、POSデータなどによる消費者のニーズ分析や購買動向など、緻密なデジタルデータの分析で商品の生産、在庫、仕入れをコントロールしている。
この一方で、消費者はオフライン(店舗など)とオンライン(ECなど)を問わずに欲しい商品を見つけて、その情報を検討して購入している。商品の情報入手はメーカーのウェブサイトやメディア、ブログ、比較サービス、レビュー、口コミ、掲示板、ソーシャルネットワークでの評判、レコメンドなど、オンラインが主流となってきている。最終的に商品を購入するのは店舗の場合もオンラインの場合もあるが、こうした一連の消費(顧客)体験の流れでオンラインは欠かせなくなってきている。
こうした中、商品流通に関わるメーカー、卸売り、小売りは、商品の売り上げ動向のデータだけを分析しておけばいいという時代は完全に終わった。そして、極端な言い方かもしれないが、これまでメーカーは「いい商品を作る」、卸売りは「売れる商品を見つけてそろえる」、小売りは「いかにして買ってもらうか」に、それぞれが注力してさえいればよかったし、それが使命であったように思う。
もちろん、これらはいまでもすべて当たり前で重要なことだ。しかし、消費者の消費体験においてますますオンラインが欠かせなくなっている上、ソーシャルメディアなどによって消費者と直接コミュニケーションできるいま、商品の販売動向データの分析のみでは勝てまい。特にこれまでメーカーは、直接消費者とコミュニケーションをとるのは難しかったので、この変化は大きいだろう。
さらに、「消費者(顧客)志向」を重視すれば、流通市場はもっと変わる必要があるのではないか。単純に、メーカーが「画期的でいい商品、サービスだ」と考えて上市するだけでは消費者は買ってくれない。消費者の要望や欲求を的確に捉えた商品を提供するのは当然、一連の消費体験の中でいかに消費者を心地よく満足させられるかという付加価値も、今後さらに重視されていくと予想する。
果たして、メーカーや卸売り、小売りの関係はどうなるべきで、流通市場はどのように変わっていくべきか。顧客志向をもっとも重視した戦略を立てる際に、デジタルデータやオンラインをいかに活用していけばいいのか。こうしたことについて、今回3者に集まっていただき議論した。
集まっていただいたのは、キリン 経営企画部 新市場創造室 主査の浅野高弘氏、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC) エンタテインメント事業本部 販促企画Unit Leaderの中西健次氏、アドビ システムズ マーケティング本部 マーケティングインテリジェンス部 デジタルマーケティングスペシャリストの井上慎也氏だ。司会は、CNET Japan編集長の別井貴志が務めた。この議論を、数回にわたりレポートする(以下、敬称略)。
井上(アドビ):「Adobe Creative Cloud」や「Adobe Marketing Cloud」といった製品・サービスを、デジタルを軸にどう宣伝して、売り上げていくのかという全体のサポートを社内コンサルティング的に取り組んでいます。旧来の販売方法から、いかにデジタルやオンラインを使って変えていけるのかを社内で実践などをしている立場にいます。
浅野(キリン):キリン株式会社は2013年1月にできまして、ウェブサイトには、キリンビール、キリンビバレッジ、メルシャンといったような会社の事業管理みたいに書かれているのですが(笑)、そういう会社です。キリンはデジタルマーケティングの取り組みについてはまだまだ道半ばで、今日は勉強のために参加しました。
中西(CCC):カルチュア・コンビニエンス・クラブにはTポイントとTSUTAYAと大きく2つの事業ブランドがありますが、私はそのTSUTAYAの事業の販促を見ております。過去にTポイントなどの事業も経験してきましたので、だいたいCCCのことはわかっていますが、今日は小売りのTSUTAYAの立場として参加させていただきます。
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