アップルのスマートホーム事業は成功するのか--2022年は運命の分かれ目 - (page 2)

David Priest (CNET News) 翻訳校正: 川村インターナショナル2022年03月10日 07時30分

 Appleは、いつものように、ユーザーエクスペリエンスの水準と一貫性に万全を期したいと考え、「HomeKit Accessory Protocol」による統合のみに絞った。当初は、SiriおよびHomeKitと連動するデバイスには専用チップを搭載するよう、開発各社に求めたほどだ。これが障壁となって、有望だったパートナーの多くが統合を阻まれ、デバイスの早期モデルを既にリリースしていた企業の参入に関しても事態を複雑にしてしまった。

 Appleのスマートホームに関するビジョンは、いわば「ウォールドガーデン」だった。デバイスは1つのシステムに囲われ、動作の予測と信頼性はその中で成り立つものだった。しかも、そのシステムの中はごく狭く、スマートホーム向けデバイスの主要カテゴリーごとにせいぜい1つか2つの製品しか存在できなかった。それでも、その性能が優れていたことは間違いない。筆者は2016年、米CNETのテスト施設「CNET Smart Home」で、Lutronのスマートシェードを何窓かに設置したのを覚えている。同じシェードは、今でもSiriで立派に動く。Nestの昔のアカウントと、今や混沌としているAlexaのアカウントを使って組み込んだ照明やその他のアクセサリーが、同じように動くことはまずないだろう。

 だが、それほどHomeKitの強みがあるにもかかわらず、Appleは自社製のハードウェアを採用するようユーザーに訴求してこなかった。最初の「HomePod」は、発表にも熱意が感じられず、ほとんど売れなかった。本当にお手頃な価格のスマートスピーカー「HomePod Mini」を99ドル(1万800円)で売り出したのはようやく2020年になってからで、Amazonが初代Echoスピーカーを発売してから、丸6年も後れてのことだった。

 Amazonの「Echo Show」やGoogleの「Nest Hub」に当たるスマートディスプレイもAppleは一向に発売していない。さらに意欲的な製品、例えば競合各社の「Eero」や「Ring」「Blink」「Nest Com」と競う防犯カメラやルーターなどは、影も形も見えない。

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Appleは特定の製品群に固執しているが、GoogleやAmazonのAlexaは新しいカテゴリーに着実に進出している。ルーターや温度計、防犯カメラなどだ。
提供:Molly Price/CNET

 しかも、そうしたデバイスを発表する最高の好機も、終わりが近づいている。HomeKitが特別だったのは、通信プロトコルやセキュリティ標準が混沌としていたからこそだ。Connectivity Standards Allianceは、スマートホーム開拓時代としては優れた通信プロトコルの1つであるZigBeeを開発・サポートしている標準化団体だ。そのConnectivity Standards Allianceから、主要なスマートホーム開発企業が採用を予定している通信標準Matterが、間もなく展開される。

 簡単にいえば、MatterはHomeKitの機能のほとんどを実現し、しかも誰でも使えるようにする。Appleは、こともあろうに、そのMatterの策定を支援しており、その安全性と効率を称賛さえしている。Matterが順調に実現すれば、業界全体にとって恩恵となるが、それは同時に、弱肉強食の業界でAppleが持つ最大の強みを消し飛ばすものになる。

AmazonとGoogleとApple、3社が並ぶ日は来るのか

 Appleの背後を脅かしている刻限は、迫りつつあるMatterの利用開始だけではない。ウォールドガーデンの中での統合は、長らくAppleの強力な手札だったが、競合他社も同じようなカスタマーエクスペリエンスに向けて、さらに意欲的な取り組みを進めている。例えば、Amazonのセキュリティシステム「Ring Alarm Pro」は、DIYのホームセキュリティシステムにEeroのWi-Fi 6ルーターを内蔵したうえに、停電やブロードバンド通信途絶に備えたセルラー対応のインターネットバックアップ、ローカルストレージ、Ringの動画対応ドアベル機器とのエンドツーエンド暗号化、堅牢なAlexa統合まで実現している。このシステムにMatterを加えれば、セキュリティ、インターネット、音声操作が一体となった本格的にスマートな音声対応ホームが遠からず完成する。

 Appleユーザーは、テクノロジー業界全体を見ても、とりわけ忠誠心の高い層だ。だが、顧客がAppleのエコシステムから離れ難くなっているのは、Apple自体に一因がある。「MacBook」が使えなくなって、iPhoneとiPadだけになったとき、「Chromebook」を検討するのは難しいが、それは単純に、簡単だったあらゆる統合がたちまち何倍も複雑になるからだ。

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