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コロナ禍でも本質は「何も変わっていない」--西口一希氏に聞くマーケティングにいま必要なこと - (page 3)

藤井涼 (編集部) 藤川理絵2020年10月26日 08時00分
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——そういう橋渡しのような役割を、西口さんが果たしていかれるのでしょうか?

 はい、それは意識してやっています。マーケティングや経営のコンサルティングを行うときには、視野を広げていただくために、できるだけ具体的な事例を挙げながら、自分が経験や勉強してきた内容を、いまの時代にそれができるかどうかも含めてお話するようにしています。

——もし、スタートアップはいまこそこれを読むべき、という本があったら教えてください。

 創業者が若かりしころ、その当時に書いた自伝というのは、あまり虚飾されていなくてよいですよ。たとえば古書になりますが、「学歴無用論(朝日新聞社)」や「新実力主義(文藝春秋)」、1990年に出版された「MADE IN JAPAN(朝日文庫)」など、ソニーの盛田昭夫さんが書かれた本は、熱心に読みましたね。

 ベンチャーが大きくなって上場した後、本当に世界に出ていける存在になるには、ソニーがなぜアップルにならなかったのかを理解していないと、多分だめと思うんですよね。

「経験豊富」の善し悪しを知る

——西口さんご自身は、今後どのようなビジネスパーソンでありたいですか?

 僕個人としては、「老害を起こしたくない」と真剣に思っておりまして、自分のもとで若いメンバーを育てて組織を率いるというより、いまのようなコンサルティングや投資を通じて成果への対価をいただいて、日本のものづくりやサービスに貢献していきたいと考えています。

 ビジネスは経験を積んで修羅場を経験するほど、その後の打ち手や企画は当たる確率が上がりますが、年齢によるモチベーションの壁というものも自然と発生します。それによって起こるよいことと悪いことを、ちゃんと見極めて生きていきたいなと思っています。

——人生の教訓のようなお話です。

 僕は、50歳でスマートニュースに転職して、デジタルの世界に当事者として身を置くことができましたが、正直なところ心理的な抵抗はありましたし、いまも新しく出てきたSNSを自分では使っていなかったりして、「こうやって、僕のような年配者というのは、世の中を推進しない方向に動いて行っちゃうんだな」と感じています。

 いま、世の中で意思決定に関わるところにいる方々が、デジタルの世界を全く経験していない、理解できていないために、悪気なく焦燥感もないということは、デジタルトランスフォーメーションの壁となっていますが、かといってデジタルをわかる人が経営的な視点でやれるかというと、そうではない場合も多いというのが実情です。

 「人間は年齢を重ねるに従って、自分が知っている延長線上以外のことが認められなくなっていく」ということを理解した上で、自分がすべきことと他者に任せるべきことを、判断していくことが必要なのだと思っています。

トップが自ら走る企業が成功する

——最後に、スタートアップ経営者や起業家へのアドバイスをお願いします。

 成功するパターンは明確にあります。社長や事業責任者が、全PLを背負って自ら走るところが勝つ。トップが「自分ごと化」してすぐに走れて、これは自分の仕事だとか違うとか区別しないで、「結果を出すことは全部、自分の仕事なのだ」と思って走るところは、めちゃくちゃ強いです。

 僕は業務委託契約でお仕事をいただいている割に、「トップがやらなきゃ絶対にだめ」という指摘もよくするので、「怖かった」「西口さんに怒られまくった」と言われるのですが、実際に動いてくれた企業は必ず伸びていきます。1回ずつ仮説を持って、素早くアクションすることで、一定期間で一気に精度を上げてスケールしていくというパターンに入れるのです。顧客を見ていれば、いくらでもやれることはあるので、極端な例ですが、社長とお客さんのログ解析をやっている時もありますよ。

 トップがログ解析して、1人のロイヤル顧客を追いかける。部下からは嫌がられますけど(笑)。すると、課題や顧客のインサイトが一気に浮かび上がるのです。名前と顔を想像できる顧客が、こんなにいっぱい使ってくれたのだ、という満足感を得られて、部下たちも自分で見るようになる。顧客の顔が想像できない、単なる売上結果や、複数の顧客の平均値でしかない数字をみていても、この楽しさはありませんよ。

 逆に、KPIとかOKRを追いかけるばかりだと、一定の効果は上がっても、お客さんの心の動きやインサイトがまるで理解できなくなって、数字が変動する理由が分からなくなっていきます。KPI、OKRの設計図以外の可能性が目に入らなくなっていたら要注意です。

 でも、ロイヤル顧客を1人獲得しても事業はスケールしないので、その1人になるような人たちのセグメンテーションを1万人単位で見つけていくが大切で、それを見出せれば打ち手は増えていきますね。ここで諦めると「お客さんは全部一緒」という発想のマス思考に陥ってしまい、打ち手も荒いし、誰にも当たらなくなるのです。

 「One to One マーケティングもしくはサービスと、何十万人単位との間をどう作るかということが、経営課題でありマーケティング課題である」ということは、トップの方にはぜひ心に留めていただきたいですね。そのためには、著書にも書いた話ではありますが、数字の上下に関わらず普段から、顧客の心理と行動を掴むという「顧客起点マーケティング」が、いちばん重要なのだと思います。

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