コロナ禍でも本質は「何も変わっていない」--西口一希氏に聞くマーケティングにいま必要なこと - (page 2)

藤井涼 (編集部) 藤川理絵2020年10月26日 08時00分
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コロナ禍ですべきことは「誰に、何を」の再定義

——コロナ禍やニューノーマル時代において、従来のマーケティングの手法や考え方は通用するのでしょうか?

 マーケティングという観点でいくと、ここ10〜20年の間に大きな変化がありました。モバイルというメディアが台頭して、新しいリーチの方法や効率化が叫ばれ、そこにいろんなテクノロジーが紐づいてきて、「効率的に、広く、素早く」という手法の話ばかりが、ものすごく進化した。

 その結果、CMOクラスであっても経験していない人はGoogle Analyticsを見ることもできず、マーケティングの定義がバラバラになったと同時に、分断が起こってしまって、「誰に、何を」という部分の議論がずいぶん後回しになってしまいました。

 そうした前段があって、いまはニューノーマルと言われていますけど、コロナ禍においても、本質的にはマーケティングは何も変わっていないと思います。もちろん、感染リスクが常に頭のどこかにあるので、これまでとは違う行動様式が求められることは確かですが、やはり人は密を求めるし、人との接触がないとさびしいし、ご飯も常に家だけで食べるのでは飽きてしまう。本質的に人間が欲する欲求は、何も変わっていないからです。

 じゃあいま、何がマーケティングに求められているのかというと、「誰に、何を便益として売って、収益を得ていくのか」を問い直して、「誰に、何を」という部分を再定義することです。これは、コロナがあろうがなかろうが、(業績が)落ちているマーケットでは、本来やらなきゃいけなかったこと。伸びている業界でも、10年後も伸び続ける保証はないので同様です。「ニューノーマルが訪れたというよりも、起こっていた変化が急激に拡大しただけだ」というのが、僕の見方です。

 実際、コロナ禍にうまく対応できたのは、スターバックスにしてもマクドナルドにしても、いろいろな変化の中で、顧客に対して自社がどのような価値を提供することでお金をいただけるかを、常に試行し検証し続けてきた企業でした。それこそトランスフォームですよね。コロナで「誰に、何を」を組み換えたところはうまくいって、組み替えができなかったところは厳しくなった。

 要は、「どのような顧客に、自社の何を提供して、利益を得るのかを、顧客の心理や行動を見て考え直し続けることが重要である」ということが、コロナ禍で浮き彫りになったといえます。

——コロナ禍やトランスフォームなども含めて、西口さんが特に注目されている領域などはありますか?

 全業種において、より多くの人に便益を与えられるポテンシャルを広げたいと思っているので、特にこれという注力領域はありませんが、「デジタル化がどこまでどのスピードで進むのか?」はすごく興味がありますね。

 人間が求める最終的なデジタルトランスフォーメーションというのは、世の中の摩擦という摩擦が全部なくなって、ムリ・ムダ・ムラをすべてデジタルで解決できる世界であって、生命を維持するために必要な本能の部分がデジタルでかなり満たされちゃう可能性がある。もちろん、身体的な不自由を抱えている方がデジタルやハードデバイスを使ってその機能を手にするというのは、本当に素晴らしいことです。でも突き詰めていくと、動く必要がなくなっていく世界だということです。怖すぎて関わりたくないなとも思う一方で、そこが一番興味ありますね。

——全然想像していなかった方向に話が進んで、とても面白いです(笑)。

 もっとビジネス寄りだと思いましたか?(笑)。たとえば、イーロンマスクさんとか世の中には天才がたくさんいますから、彼らが火星への移住など頭に描いている最終形を、お願いだから教えてくれ、聞かせてくれって思いますけど、明示されていないじゃないですか。断片的でいまいち分からない。

 温暖化や環境破壊の問題にしても、結局のところ人間は、ムリ・ムダ・ムラ、いろんなフリクションをゼロにするようにデジタルを駆使していくはずで、人間の老いや生死について考えてみても、人生100年とかライフシフトとか言われていますが、筋肉増強剤や細胞移植などで若い状態を保ち続けるという方向か、肉体を捨てて意識だけが生き続けるという方向かの2択くらいしか思いつかないわけです。

 僕自身が、視力をはじめとして、肉体的にどうしても維持できない部分があることを感じ始めているからこそ、デジタルトランスフォーメーションの行き着く先というのを具体的に考えたくなるのだと思います。…すみません、もう取り付く島がなくなってきましたので、次の質問をお願いします(笑)。

日本の大企業は「学びの宝庫」

——では、話題を変えましょう(笑)。西口さんはスタートアップ企業のコンサルティングも手がけられていますが、数々のスタートアップと接してきて、感じる共通点や課題などはありますか。

 スタートアップには、事業や会社の存続が危ぶまれる修羅場を経験しているからこそ、自分がやっている仕事を「自分ごと化」して、すごくよく働く人が多いですよね。そこは僕がすごく大好きなところです。

 一方で、上場して企業価値が大きくなるにつれて、福利厚生を拡充して安定志向の人を集めてしまう傾向もあります。自社の強みと、その後何が起こるかを、しっかり理解された方がよいかもしれません。

 そこで大切なのは、日本の大成功したベンチャーに、もっと学ぶことです。ソニーをはじめ、京セラ、ファナック、キーエンス、ニトリ、ユニクロなども、ベンチャーだった時代があって、いろいろなことを乗り越えて大成功された企業です。これこそ、一番学び多きところですが、スタートアップの皆さんは日本の大企業に対する興味関心が驚くほど少ないです。

 まず、テック系やデジタル系のスタートアップ業界と、上場して老舗企業といわれるような大企業の間には、全く見えない壁があって、ほぼ交わらない。唯一、楽天の三木谷さんが、両者の間を行き来されている印象ですが、これは日本特有のことで、両者にとってよろしくない状況です。

 また、シリコンバレーや中国のケース、日本でIPOした企業については、そこを目指している投資家からの影響が非常に強いのか、ものすごく勉強されていますが、ややもすれば、起業した意味や、ミッション、ビジョンを語りながらも、バリュエーションに気を取られがちです。

 海外の二次情報や、内輪の手近なところで成功事例を探そうとするのではなく、日本発で世界的にも大成功しているベンチャーの歴史を、しっかりと勉強されることをお勧めしたいですね。

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