一度聞いた気もするのですが「分割出願」って何ですか?--スタートアップのための「特許なんでも相談室」

大谷 寛(弁理士)2020年09月29日 09時00分

 同連載「特許なんでも相談室」では、スタートアップの方々からいただいた特許にまつわる質問や疑問に、大谷寛弁理士が分かりやすく回答していきます。第5回でご紹介するご質問はこちら。

Q.一度聞いた気もするのですが分割出願って何ですか?

A.分割出願とは、ひとつの出願から多面的に特許権を成立させるための出願方式です。出願日遡及が最大の特性です。

キャプション

【解説】

 特許の出願書類は大きく「特許請求の範囲」という部分と「発明の詳細な説明」という部分に分かれます。説明の簡略化のため「図面」については割愛します。前者に特許を受けようとする発明を記述し、後者でその詳細を説明します。前者はさらに「請求項」という単位に分けて記載されます。請求項の記載に基づいて発明の範囲は定められ、請求項記載の各用語の意義を解釈するために発明の詳細な説明の記載が考慮されます。請求項の記載は、出願時に発明の詳細な説明に記載した事項の範囲内で、一定の時期的要件を充たす範囲で書き換えることができます。

 以下の説明では、発明の詳細な説明にA+B+C+Dを特徴とするサーバが記述され、特徴Cによって従来にない技術となっているとします。そして、DはCの特徴を一層顕著なものとし、Cの具体例としてC1およびC2、Dの具体例としてD1およびD2が記述されているとします。

 分割出願は特許出願の一形式で、この形式を採用することで、(1)分割元の出願(以下「親出願」)の出願日に出願したものとみなされます。これを出願日が遡及すると言います。特許庁における審査では出願日を基準に新しさが問われますので、大きな意味をもちます。分割出願の発明の詳細な説明には、親出願の発明の詳細な説明に記載されていない事項を書き足すことはできません。書き足した場合には分割出願の要件を満たさず、出願日の遡及効が得られません。

 特許出願の制約として、同日の二以上の出願が同一の請求項を含む場合には、いずれかの出願のみが特許を受けることができるため、(2)分割出願を行う出願人は、親出願とは異なる請求項で分割出願を行う必要があります。

 また、(3)分割出願は親出願からも子出願からも所定の時期的要件を満たす限り、何度でも行うことができます。

 これらの特性を生かすことで、分割出願は価値ある特許を成立させる上での定石となっています。

 (2)の特性は制約である一方、狭い特許を成立させた後に広い特許を成立させることは妨げていません。たとえば、若干具体的な以下の請求項で親出願で特許が成立したとします(請求項の詳細については第4回「特許の読み方が分かりません、どうやって読むのですか?」ご参照)。

 【請求項1】A+B+C+Dを特徴とするサーバ

 こうした請求項で先に特許を成立させて、より広い次のような範囲の請求項で分割出願で、時間をかけて権利化を試みることが選択肢になります。これにより、特徴Dをともなわないサーバもカバーされることになります。

 【請求項1】A+B+Cを特徴とするサーバ

 また、特徴Cは抽象度が高すぎて新しさを十分に打ち出すことができず、また、特徴C2も審査が難航することが見込まれて、以下の請求項で親出願で特許が成立したとします。

 【請求項】A+B+C1+Dを特徴とするサーバ

 このような場合に、分割出願を繰り返して出願を維持しておき、競合企業が特徴C2およびD1をともなうサーバを用いていることが判明したことを受けて、分割出願の請求項を次のように書き換えることも選択肢となります。

 【請求項】A+B+C2+D1を特徴とするサーバ

 特徴C2は親出願においては審査が難航するとして請求項に入れなかったものですが、特徴D1との組み合わせで特徴C2の独自性を打ち出して権利化を目指します。

 他にも上記特性に照らして、分割出願を活用できる場面があります。国際出願を視野に入れた場合、分割出願には不利益もあります(詳細は割愛)。

 このように分割出願の特性を理解して、適切な時期に適切な請求項で活用することで、ひとつの出願の価値を大きく高めることができます。

CNET Japanでは、スタートアップの皆様からの特許に関する疑問を受け付けています。ご質問がある方は、大谷弁理士のTwitter(@kan_otani)までご連絡ください。

大谷 寛(おおたに かん)

六本木通り特許事務所

弁理士

2003年 慶應義塾大学理工学部卒業。2005年 ハーバード大学大学院博士課程中退(応用物理学修士)。2006-2011年 谷・阿部特許事務所 。2011-2012年 アンダーソン・毛利・友常法律事務所。2012-2016年大野総合法律事務所。2017年 六本木通り特許事務所設立。

2016年12月-2019年12月 株式会社オークファン社外取締役。

2017年4月-2019年3月 日本弁理士会関東支部中小企業ベンチャー支援委員会ベンチャー部会長。

2019年4月 ベンチャー知財研究会主宰。

2014年以降、主要業界誌にて日本を代表する特許の専門家として選ばれる。

事業を左右する特許商標などの知財形成をスタートアップの限られたリソースの中で実現することに注力する。

Twitter @kan_otani

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画広告

企画広告一覧

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]