コロナが再定義した「テレビ」の価値--日本では再放送ドラマが人気に、米中では? - (page 2)

郡谷康士(TVISION INSIGHTS代表取締役社長)、石川香苗子(執筆協力)2020年07月23日 09時00分

中国では自粛解除後も視聴率をキープ

 いまは視聴率・質が向上しても、事態が落ち着けばまたライトビューワーは離れてしまうのでは?という疑問もあるだろう。もちろん、これからの放送内容がどう変わっていくかにもよるのだが、いま捉えたライトビューワーを定着させていくヒントはさまざまあると思う。ここで中国の例を参考に取り上げてみたい。

 いち早く各地でロックダウンが行われた中国では、接触通知アプリや体温検知技術をすばやく導入し、迅速に日常に復帰していった。リモートワークをもっと、という日本の議論が霞むほど、中国の大都市圏においては通常通りのオフィス勤務に戻っており、今までとさほど変わらない“新しい日常”を過ごしている。とはいえ、都市部では夜の外食を控える人はまだ多く、帰宅して家族と食事を取る人が増えた結果、夜以降のリビングルームにいる時間はコロナ禍と比べてもそれほど減少していない。

 そんななか中国では、“家族の絆”を盛り込んだ番組がヒットコンテンツとして目立つようになった。リモートで、地方との行き来も制限されていた中、たとえば遠方にいる両親とリモートでつながって共同作業をするなど、家族を基点とした番組などがそれにあたる。

 家族との時間が増えたり、遠くに居る家族を心配したりーー。中国の急激な経済成長の中、見落としがちだった家族のあり方を、コロナ禍で見つめ直すことが増えた視聴者の動きを鋭く捉えたこれらの番組は軒並み話題となった。視聴者の心理変容を巧みに捉え、すばやいスピードでコンテンツの制作を実現するといえば月並みになるが、それをしっかりとやりきったことで、コロナが落ち着いたあとでも、家族全員がテレビの前で見る番組を生み出していたのだ。

 もちろん、日中の視聴者がみんな同じ気分ではないし、コロナの推移によってどんどん社会心理は変わってくる。とはいえ、こうした大きな時代の変化をうまく捉えたコンテンツをしっかり作ることができるかどうかに、ライトビューワーを捉えるヒントはある。

視聴者の心をとらえた「宇宙人ジョーンズ」のアーカイブCM

 上記で出てきた“アーカイブス”にしろ“視聴者変化を捉える”にしろ、何もテレビ番組だけのものではない。広告主としても、視聴者に寄り添う広告コンテンツを出せるかどうかで、テレビマーケティングの優劣を大きく左右する。

 当社のデータから見て、優れた結果を残したCMも出始めた。その1つが、5月下旬に放映されたサントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ・宇宙人からのアドバイス」篇(90秒)」である。過去14年間に放送した「宇宙人ジョーンズ」シリーズの90作を超えるCMアーカイブを再編集し、「とにかく、全力で手を洗おう」「常に笑いを忘れずに」と、外出自粛下の人々の気持ちに寄り添うメッセージを発信していた。日本が誇る過去の良質なアーカイブを生かし、それを視聴者の心理変容に寄り添うコンテンツに編集し直す。これはあくまでも一例だが、こうした取り組みが増えてもいい。

 テレビに対する興味関心が高まる今、視聴者の心理・態度変容はテレビデータにも現れやすくなっている。ビジネスを生み出すマーケターにとって、今はまさに絶好のチャンスである。コロナを後ろ向きに捉えず、その変化を生かすべきだろう。

データ活用で視聴者の“気分”を知る

 主要マスメディアの中でも、テレビはデジタルに次ぐ大きなマーケットを持つにもかかわらず、データ活用はそれほど進んでいない。コロナにより時代の不確定さが加速する中、テレビマーケティングにおけるデータ活用の重要性は高まる一方だ。

 こうした背景から当社が今秋にリリースを予定しているのがテレビデータ統合ダッシュボード「Telescope(テレスコープ)」だ。テレビの出稿状況とその成果がひと目でわかるダッシュボードで、これまで提供していた局別・時間帯別ヒートマップや属性別の視聴質分析といったデータを、ブランドマネージャー向けに新しく整理・統合し直したものである。

 サービスを開発するにあたり、主要広告主と議論しながらブラッシュアップを繰り返しており、文字どおり日本を代表する広告主たちとの協業のアウトプットをそのままに、多くの広告主へ提供される予定だ。

 今後、これまで提供してきたVI値(滞在度)・AI値(注視度)とは別に、よりニーズに合った新指標の導入も視野に入れ、データ統合プラットフォームとの連携も進める予定だ。

 これから先、視聴者の心理変容をとらえる上で必要なデータは視聴率だけに留まらない。デジタルやその他のマーケティング施策同様、テレビ番組やCMを誰が・どのように見ているのか、すなわち「質」の部分まできめ細かく見る必要があるだろう。

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