コロナが再定義した「テレビ」の価値--日本では再放送ドラマが人気に、米中では?

郡谷康士(TVISION INSIGHTS代表取締役社長)、石川香苗子(執筆協力)2020年07月23日 09時00分

 東京都で3月末に「外出自粛要請」が出されてから約2カ月間、多くの人々がステイホームを守った。これにより、リビングルームで過ごす時間が増えた結果、テレビの見られ方に大きな変化があった。広告主、メディア、視聴者にそれぞれどのような動きがあったのか。

 テレビCM・番組の効果測定分析サービスを展開するTVISION INSIGHTSが、人体認識技術によってテレビの“視聴質”を計測する立場から、コロナ禍および“ウィズコロナ”のテレビマーケティングについて考察していきたい。

キャプション

事業戦略レベルからマーケティングを再考する広告主も

 コロナ禍による経済活動がもっとも止まっていた4〜5月においては、広告主のマーケティング活動は「凍結」とも呼べる状態で、テレビマーケティングも多分に漏れず止まっている状態が続いた。しかし、6月に緊急事態宣言が解除され、徐々に経済活動が再開するにあたり、面白い傾向がいろいろと見えてきた。

 まず、業界によって動きが大きく異なること。コロナの影響は業界に対して画一的ではなく、旅行など大きな影響を受けた業界もあれば、いわゆる“リモートワーク銘柄”でなくとも、消費財や外食などむしろコロナを商機と捉え業績を伸ばした業界・企業も多い。そうした企業は、むしろ今まで以上にテレビマーケティングに前向きに取り組んでいる。

 また、マーケティングの視点から見て面白いのは、コロナの影響でビジネスモデルの転換を迫られ、その影響でテレビマーケティングへのアプローチを変えてきた企業が現れたことである。一例として、保険業界はいままで対面営業が顧客接点の中心であり、一部のネット保険を除けば企業広告がテレビCMの中心であった。

 しかし、コロナの影響で対面営業ができない状態が続き、事業戦略的にも、マーケティングで顧客接点を新たに作ることが要求され、その一環としてテレビマーケティングをどう活用できるかということに、今までになく真剣に立ち向かっている。

 とはいえ、市場全体において、業界による差はあるものの、広告主はこれまで以上にコストの効率化を求めるようになっている。コロナ前もテレビマーケティングの最適化は叫ばれていたが、より一層シビアにデータを使った最適化が求められるようになっている。

「野ブタ。」など良質なアーカイブ放送が人気

 ステイホームを余儀なくされた視聴者の動きにも興味深い動きが見られた。

 外出自粛によって地上波のテレビ番組の視聴率が軒並み上昇しているのは、さまざまな報道にある通りだが、それ以上に視聴者はそこに居ただけではなく、テレビのコンテンツに注視していた。当社のデータでは3月最終週以降、視聴者のテレビへの注視度は1月20日週と比べておよそ30%増で推移しており、同期間の視聴率の10〜20%増より大きい数字だ。

アテンション推移
アテンション推移

 中でも視聴者の注視度をひきつけたのは、4月初旬から各局一斉に行った名作ドラマの再放送だった。特に印象深いデータだったのが、日本テレビで放映された「野ブタ。をプロデュース」(以下「野ブタ。」)だ。

MF1の視聴質データ
MF1の視聴質データ

 日テレの「野ブタ。」の特徴は、MF1層(20歳から34歳までの男女)の注視度がとにかく高かったことだ。なんと4月のMF1層視聴質ランキングに4週連続で「野ブタ。」が首位となっていた。MF1は特に視聴の好みが分かれることで知られ、当社のデータでも続けて同じ番組が数週連続でトップを占めることは多くなかった。

 もちろん要因としては、2005年の本放送時に主演の亀梨和也さん、山下智久さんのファンだった中高生が、15年経って20代後半〜30代前半になっていたことがあるだろう。他にもTBSの「JIN−仁−レジェンド」「愛していると言ってくれ」や「逃げるは恥だが役に立つ」の再放送にも多くの注視があったことは興味深い。

 ステイホームだから、テレビ(正確に言えば地上波放送)を見るという必然性は実はない。米国の状況をみると、同じステイホームの間、見られたのは日本の地上波にあたるLinear TVではなく、「Netflix」や「Disney+」などのOTT(インターネットを通した動画コンテンツサービスの総称)であった。従来、米国のLinear TVはキラーコンテンツとして、ライブ性の高いフットボール、野球、バスケットボールをはじめとしたスポーツのライブコンテンツに依存してきたが、その肝心のスポーツ自体が延期などを余技なくされたことも痛かった。

 そういう意味では、日本のテレビ局はまだ強力なコンテンツを持っていたからこそ、ステイホーム時間をテレビ視聴につなげられたのだ。こうした過去作の再放送は、これまでSNSやOTTに時間を使い、それほどテレビを見ていなかった“ライトビューワー”に刺さったのだ。

 もちろん、再放送は現在のテレビのビジネスモデル上どのようにマネタイズすべきかなど課題は多々あるが、テレビから離れかかったライトビューワーを取り込むためにも、こうした良質なアーカイブの有効活用がこれから注目すべき点となる。

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