福岡市にある六本松 蔦屋書店で年間3500本を販売した人気調味料がある。地元の老舗醤油店であるタケシゲ醤油が製造する「ニワカそうす」だ。これ1本で和洋中のさまざまな料理の味が整うという万能調味料で、超時短料理も可能。六本松 蔦屋書店でのヒットを受け、九州TSUTAYAとCCCマーケティングは、ニワカそうす購入者のTカードから得られるビッグデータを活用してレシピ本「ニワカそうす」の愛情ごはん』(税別価格:1300円)を制作。TSUTAYAと蔦屋書店の50店舗で販売を開始した。
タケシゲ醤油は、1752年に創業した博多に拠点を構える醤油店。かつては業務用として流通しており、ニワカそうすも店舗向けのみに販売していた。しかし取引先から「家庭でも使いたい」という要望があり、タケシゲ醤油まで直に買いにきたことがきっかけで、2011年に一般販売を開始したという。
九州TSUTAYAは、2017年の六本松 蔦屋書店のオープン当初からニワカそうすを取り扱っている。地元のいいものをお客様に紹介したいという思いから、地域の特産品を取り扱っており、ニワカそうすもその1つだった。店頭ではオープン時に来店記念として配布したほか、試食会なども実施。店頭での人気商品になっていったという。
九州TSUTAYA 九州営業DBMK リーダーの戸田貴之氏は「1年間に3500本というヒット商品になり、これはすごいなと。調べてみると25%のお客様はリピート購入もしている。九州に限らず、もっと広いお客様にニワカそうすを知っていただければファンになっていただけると確信した。そのサポートとして企画したのがレシピ本」とレシピ本制作の経緯を話す。
九州TSUTAYAでは、レシピ本の制作にあたり、Tカードを活用しニワカそうす購入者のデータを分析。すると、明確なペルソナが見えてきたという。「購入者の半分以上が35〜59歳の女性で、最も多かったが44歳。福岡市内でも比較的所得が高い人が暮らすエリアに住んでいることがわかった」(戸田氏)と個人属性が浮かび上がる。
この個人属性に購入している雑誌のデータをかけ合わせた。すると「anan」「天然生活」などの女性誌がよく購入されており、さらにひもといていくと「料理特集」の号の人気が高いことがわかった。「実際に購入された雑誌の特集を見てみると『おまかせ料理』『○○だけでできる』『楽にできる』などのキーワードが使われていた。お客様は手軽に素早く、かつおいしい料理を作りたいと望んでいる」とニーズが明確になった。
加えて教育関係の本の購入にも注目。「算数、国語の小学生向けドリルなどを購入されており、小学生のお子様がいる家庭が多い。教育にも熱心で、お子様の学力を高めるためにいいものを提供したい。手間をかけたいと感じていらっしゃる」と家族構成も見えてきた。
「分析して見えてきたペルソナは、仕事を持つ40代のお母さんで、忙しく家事に割ける時間が短い。しかし外食よりも家庭料理をお子様に食べさせたいと思っている、というもの。このペルソナに向けたレシピ本を制作すれば、より多くの人にリーチできると思った」(戸田氏)と話す。
レシピ本の制作にあたっては、タケシゲ醤油が持つ200以上のレシピの中から、時短、簡単、楽といったキーワードを軸に抜粋。そのままで使って作る、煮魚、すき焼き、炊き込みご飯から、ほかの調味料とミックスして調理するエビチリソース、大学芋のタレなど、簡単かつ、バラエティに富むレシピが並ぶ。「子どもが好きな料理」を選んでいることも特徴だ。
「ニワカそうすは、醤油、みりん、砂糖などをベースに作られており、ポイントは出汁を使っていないこと。そのため、和食にも洋食に使える。マヨネーズを加えるとテリヤキソースに、ケチャップを足せばハンバーグソースになる。お客様の中には、1週間ニワカそうすを使って調理しているが、家族は全然気づいていないという人もいるほど」(戸田氏)と、その実力は折り紙付きだ。
レシピ本の制作にかかる費用はクラウドファンディングを使って調達。「地域のメーカーは資金が潤沢ではないため、レシピ本のような新しい試みはチャレンジしにくい。クラウドファンディングを使うことで、そのハードルが下がる。TSUTAYAではグループ内にクラウドファンディングサービスを手掛けるGREEN FUNDINGがあり、そちらで実施することで、資金面でのサポートもできた」(戸田氏)と幅広く支援する。
クラウドファンディングでは、開始2日で目標金額の半分を達成し、終了時点では150%の支援を集めた。早期支援者には巻末のSPECIAL THANKSに名前を掲載する特典も用意し、現在ニワカそうすを取り扱っている店舗の方から支援を得られるケースもあったという。
戸田氏は「蔦屋書店は書店だが、料理の本を買いに来る人が求めているのは、料理の情報全般。そのため、本のほかに調味料や調理器具なども一緒に取り扱っている。ニワカそうすもそうした取り組みの一環としてやっていること。私たちが地域社会のためにすべきことは、地域の良いものを世の中にひろく知ってもらうことのお手伝い。その商品を使うことで、生活をより豊かにしていきたい。今回のように、商品の価値や好まれる人はどういう人かというデータを分析した上で、きちんとリーチできるコンテンツを作っていきたい」と今後の展開を話す。
今後は、TSUTAYA、蔦屋書店の店頭で販売するほか、土日を中心に各地の店舗でイベント実施。広くお客様にニワカそうすの良さを伝える活動を続ける。書店と老舗醤油店という異文化のコラボレーションが、新たなビジネスを生み出し、地域の元気につなげる。
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