ネット接続は速さだけじゃない--新興の診断アプリ「Orb」がスゴい理由

Cierra Noffke (CNET News) 翻訳校正: 石橋啓一郎2025年06月04日 07時30分

 筆者は、自宅のインターネット通信が遅くなったという人には(こういうことは誰にでも起こる)、インターネット回線のスピードテストを実行してみるように勧めている。実際、筆者はこれまでに何十種類ものスピードテストを試してきたし、使ってきた。正直に言えば、この市場はすでに飽和している。理想のスピードテストを考えるとすれば、帯域の問題をできるだけ簡単に診断できて、広告がなく、意味のない余分な機能もなく、それを使うことでかえってWi-Fiを遅くなるようなことが起こらないもの、ということになるだろうか。

 一般家庭のネットワーク向けのスピードテストは以前からあったが、筆者は「Orb」のようなものをこれまで使ったことがなかった。

  1. Orbとの出会い
  2. Orbは何を計測しているのか
  3. Orbの仕組み
  4. 実際にOrbを使ってみる
  5. 最後に

Orbとの出会い

 4月の末頃に、この分野でよく使われているスピードテスト「Ookla」のクリエイターが、新たにOrbを公開した(情報開示:Ooklaと米CNETは、どちらもZiff Davisが保有している)。筆者は最初、Orbがスピードテスト市場に何か新しい価値をもたらすとは思っていなかったのだが、数週間前に自分の「iPhone」とPCにこのアプリをダウンロードしてみて、その印象は変わった。

 Orbは無料で利用できる洗練されたスピードテストアプリだ。ダウンロードとアップロードの速度を調べられるだけでなく、複数の指標を使って継続的にテストを行うことによって、自宅のネットワークの全体的なコンディションを総合的に判定してくれる。

 Orbの共同創業者で最高経営責任者(CEO)のDoug Suttles氏は、これは本当はスピードテストではないと語る。

 「Orbはスピードテストではないが、それが説明として最も分かりやすいのでそう呼んでいる」とSuttles氏は筆者に説明した。「Orbはスピードテストの機能も持っているが、それよりもずっと応答の速さを重視している」

Orbは何を計測しているのか

 Orbがインターネット接続の評価に使用している主な指標は応答性(これにはラグ、遅延、ジッター、パケットロスなどの計測値が含まれる)だ。それに加えて、信頼性(応答性の時系列での変化)と通信速度を考慮に入れている。

 「私たちはブロードバンドの通信速度以外の側面を重視している」とSuttles氏は言う。「以前の会社で作ったものは、それが作られた時代にはあれでよかった。あの頃はブロードバンドがまだ生まれたばかりの時期で、スループットを測ることが何よりも重要だったからだ」

 データの使用量が爆発的に増加し、接続速度も上がっている最近では、私たちの生活はネットワークに大きく依存したものになっている。通信速度だけでは、インターネット回線の良し悪しを判断できない時代になっているのだ。

 これは、筆者が一般家庭向けのインターネット接続サービスプランをレビューするたびに思っていることでもある。サービスを選んでいる人の多くは通信速度と値段ばかりを気にしてしまいがちだが、接続が信頼できるか、安定しているかを判断するためは、広告でうたわれている最高速度以外にも多くの要因を考慮する必要がある。

 Orbのプレジデントで共同創業者のJamie Steven氏は、田舎にある同氏の自宅で使うインターネット接続は、速いだけでなく、信頼性が高くなければならないと述べている。

 「私の回線は、しょっちゅう接続が切れてしまっていた」とSteven氏は語った。「通信速度が問題ではないこともあったし、むしろ多くの場合、問題は通信速度ではなかった。問題だったのは、信頼性と応答性だった」

 Suttles氏とSteven氏は、よくあるスピードテストでやっていることは、自動車の最高速度を測るのに似ていると述べた。Orbは、通信速度だけを見るのではなく、インターネットが止まらないか、どれだけ早く通信速度が上がるかを重視している。

 またSteven氏は、普段車に乗るときには、最高速度で走ることはないとも指摘した。

 Steven氏は、インターネットの理論上の最高通信速度についても、「日常で使うことはない」と話す。「私たちにとっては、インターネットの利用体験を継続的に計測することの方が重要だった」

Orbの仕組み

 Orbの凄いところは、遅延や切断が発生しているときにスピードテストを実行できるだけでなく、普段から継続的に性能を計測しているという点だ。筆者が最初に考えたのは、このようなアプローチを取ると、普段の通信速度に悪影響が出るのではないかということだった。しかしSuttles氏によれば、Orbは他の多くのスピードテストと比べて、非常に小さなペイロード(約10MB)しか使用していないため、その心配はないという。そして、Steven氏が住んでいるような田舎のインターネットユーザーにとっては、その小さなペイロードが、接続の安定性を維持する上で大きな意味を持つ。

 インターネット接続のストレステストを行いたい場合のために、ピーク速度を計測する機能も用意されているが、これは回線容量をテストするためのもので、継続的に行われているテストではない。

 インターネットに接続されている機器はすべて、回線をテストするための「オーブ」(センサー)として利用できる。また、24時間365日ネットワークを監視するための専用のデバイスを設定することもできる。

 Orbには、他のスピードテストよりも劣っている点が1つある。それは、ブラウザーでテストを実行できないことだ。テストを行うには、デバイス(予備のスマートフォンや「Raspberry Pi」など何でもよい)にOrbをダウンロードする必要がある。一度アカウントを作成してしまえば、永続的なストレージを持っているあらゆるデバイスにOrbをダウンロードできる。それを使って、部屋ごとにインターネット接続の問題を診断することも簡単にできる。

実際にOrbを使ってみる

Orbのメイン画面 提供:Screenshot by Cierra Nofke/CNET
※クリックすると拡大画像が見られます

 Orbは完全に無料であり、使いやすい。筆者は、数週間前にスマートフォンと自分のPCにOrbをインストールして、自宅の光回線のテストに使ってみた。Orbは、インターネット接続の品質を0から100までの数字で評価する。赤(0~49)はパフォーマンスが低いことを意味し、緑(90~100)はインターネットのパフォーマンスが優れていることを意味する。筆者のインターネット接続は、大抵の時間帯でなかなかのスコアである90点を超えていた。AT&Tの最も安いプランを使っているにしては悪くない結果だ。

 「私たちは、一般の消費者にOrbを使ってほしいと思っている。なぜなら、創業チーム全員が自宅のネットワークに同じような問題を抱えているからだ」とSteven氏は言う。「私たちは、Orbをずっと無料で提供したいと思っている」

 またSuttles氏は、「収益化を試みるよりもブランドを確立することの方が価値がある。正直なところ、これには非常に情熱的に取り組んでいるので、とにかく無料で配りたい」と語った。

 筆者はOrbを使って、オフィスのインターネット接続と、テレビを置いてあるリビングルームの速度をテストしてみた。どちらのテストも、Ooklaを使った場合と似たような結果だった。

 Orbはまだ始まったばかりであり、自分のインターネット接続の良し悪しを理解するのに効果的なツールだが、今後さらに、ユーザーの使い勝手を向上させる機能がアプリに追加されるという。例えば、時系列のデータにアクセスできる機能が追加される予定だ(Ooklaにも同様の機能がある)。

 「Orbはまず、すべてのデータをローカルに記録する」とSteven氏は述べている。「UIには明記していないが、私たちはそのことに非常にこだわっている。これは、過去のデータを見るためにクラウド接続が必要な作りにしたくなかったからだ」

 おそらく最も重要なことは、Orbに今後、「Microsoft Teams」や「Slack」などの、特定のアプリケーションやサービスの接続品質を計測するためのレシピがリリースされる予定であることかもしれない。

 「ウェブサービスによって、使われているプロトコルは異なる」Steven氏は言う。「Zoomに特別なRTSPプロトコルが使われていた場合、自分の環境でそのポートをオープンにすることができるのか、アクセスできるのか、実際の応答性はどうなのかが問題になる」

 Suttles氏とSteven氏は、ゆくゆくは、ユーザーコミュニティーにOrbを使ってさまざまな「レシピ」(到達性を計測するための手段)を作ってもらえるようにしたいと考えている。

 「Orbの核になっているのは、レシピエンジンだ」とSuttles氏は語った。「私たちは、まず新しいレシピをリリースして共有し、その後、コミュニティーにもレシピを作ってもらえるようにするというビジョンを思い描いている」

最後に

 最近ではインターネット回線の値段は下がっていない。もっと高速な接続プランを買いたくなるのも分かるが、まずは接続を診断して性能を上げるために、まずはシンプルな手段を試してみるべきだ。Orb(とインターネット)は今後も進化を続けるだろうが、ネットワーク接続の品質について、速度以外のことも含めて総合的に評価できる手段を持っておくのは、きっといいことだろう。

Orb

この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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