Google DeepMindの最高経営責任者(CEO)であるDemis Hassabis氏は、タンパク質構造を予測できるAIモデル「AlphaFold 2」の研究でノーベル賞を受賞したが、同氏が本当に解決したい問題の答えはまだ見つかっていない。
その問題は、化学分野でのHassabis氏の研究よりはるかに理解しやすく、多くの人にとって身近だ。「私が本当に欲しくてわれわれが取り組んでいるのは、次世代の電子メールだ」と、Hassabis氏は英国で開催中のSXSW Londonで現地時間6月2日に語った。「自分の電子メールをなくしたい」(同氏)
聴衆の反応からすると、その思いは会場の人々にも共通していたようだ。同日には元英国首相のTony Blair氏が、10年間の在任中に電子メールを1通しか送らなかったと明かしていた。
Hassabis氏の探求には皮肉がともなう。同氏は世界でも屈指の複雑で高度なAIモデルを開発し、いまだ手の届かない病気の治療法の解明に役立てようとしている。一方で電子メール(おそらくGmailを想定?)という、人間が生み出した煩わしさをなくすという使命は、それに比べれば取るに足らないもののように感じられる。
しかしこれは、Hassabis氏がGoogleで負っている二重の責任も浮き彫りにする。同氏は一貫して人類の利益のためにAIを追求してきた。「私の個人的な情熱はAIを科学と医学の最前線に応用することだ」と同氏は語る。一方で、2014年にDeepMindを買収したGoogleの利益の恩恵も受けている。
Hassabis氏は当初、AIの開発を、スイスの欧州原子核研究機構(CERN)に相当するようなコンピューターサイエンス研究機関が主導する「科学主導の取り組み」だと想像していた。しかしAI技術は予想よりはるかに早く商業化し、そこから「資本主義のエンジンがその真価を発揮した」と同氏は述べる。
Hassabis氏は自分がその「資本主義のエンジン」と切り離されているかのように語るが、実際には深く組み込まれている。DeepMindがGoogle傘下にある以上、病気を治すという崇高な目標と並行して、「Gemini」や「Veo」および5月のGoogle I/Oで発表されたGoogleのAI製品が競争の激しい市場で通用するよう注力しなければならない。
競争は「熾烈」であり、同氏のスケジュールは過密だ。睡眠時間は非常に短く、同氏は「AGIに到達するまで」その状態が続くとみている。DeepMindの中核AIモデルを開発し、それを科学に応用する傍ら、同氏は人間の知的能力に匹敵またはそれを超えるAGIの開発に取り組んでいる。「あと5年から10年かかると感じている」(同氏)
同氏のAGIに対するビジョンは、「多くの病気、あるいはすべての病気を治療」でき、「無限の再生可能エネルギー」が手に入る世界への扉を開くというものだ。ある意味、Googleの製品はそこに至るまでの通過点といえる。
DeepMindが最新の動画生成ソフトウェア「Veo 3」を作った理由の1つは、AGIが周囲の世界を物理的に理解する必要があるからだとHassabis氏は説明する。Veo 3のために構築された世界モデルはその理解の鍵だ。また、「数年以内」に訪れるとHassabis氏がみるロボット工学のブレイクスルーにも不可欠だ。
DeepMindの崇高な使命とGoogleの商業的な優先事項の境界はときどき曖昧になるが、Hassabis氏は自分のため、そしてAGIのブレイクスルーに向けた自身の長期的な探求のために、両立の道を見いだしている。
同氏は、このブレイクスルーが劇的な変化をもたらすと予想しているものの、AIをめぐる短期的な熱狂には懐疑的だ。同氏は「いや、これ以上は盛り上がりようがないくらいだ」と述べ、「したがって、少し騒がれすぎているといえる」と続けた。
Google DeepMindこの記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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