新疆ウイグル自治区は中国の西端に位置している。中国の人口分布はかなり偏っていて、14億人近いとされる国民の殆どが、(地図上の)向かって右側のエリアに暮らしている。具体的には内陸部の四川省あたりから北京を通って東北部(旧満州)へと斜め上に伸びる仮想の線の右側に当たる部分である。そして、この線を意識しながらみると、チベットと新疆という2つのエリアがどれほど中央部と隔たった場所であるかに改めて気づかされる。
そんな「遠隔の地」「異境の地」に暮らすウイグル族の人口は約1100万人。そしてその中には、中国からの独立を求める人々もいる。なかには過激派になって中国国内や海外で強硬手段に打って出る者もいる。中央政府=共産党中央部としては治安維持のためにもウイグル人の管理をもっと強化しなくてはいけない――。3、4年前に一時ウイグル人過激派の動きが注目を集めていたが(タイのバンコク中央部にあるエラワン廟の爆弾騒ぎのことなどを思い出す)、その際にそんな説明を目にした覚えがある。
一部のウイグル人が独立を望む理由としては、経済的な要因(漢民族との利益分配に関する不公平)のほか、文化的な要因(自分たちの言葉が話せない、独自の宗教や文化が抹殺される、など)があるとされる。
そんなウイグル族に対して、中国政府が人権を無視した監視や「再教育」(洗脳)を、しかも大規模に行うようになったのは約3年ほど前のこと。具体的には、陳全国(Chen Quanguo)氏という共産党幹部ーーチベットの統治で能力を発揮し、その手腕を見込まれた漢人(漢民族の中国人)の役人が、新疆ウイグル自治区の責任者に配置換えになってからだ。共産党中央部によるこの人事が(後述する)習近平氏の「一帯一路」構想発表を受けて行われた可能性も感じられる。
新疆の中心地ウルムチで行われている「監視社会」実験の現状は先掲の動画に出ている通り。都市部では、街角ごとに派出所や検問所がつくられ、装甲車が街中を往き来し、武装した兵士が人の出入りをチェックしている。スマホのロックを解除させて中まで調べることも当たり前で、1日に何度もそんな目にあっていると漢人でさえ自然と外出するのが億劫になってくる。
またウイグル人のスマホには、政府の作ったスパイウェアが強制的にインストールされている。さらに、リアルな手段を使ったプライバシーの剥奪も行われている。
9月半ばに、Radio Free Asia所属のウイグル人女性ジャーナリストであるGulchehra Hoja氏がVoxのポッドキャストに出演していた。
ウイグル人への弾圧の実情を外の世界に伝えてなんとかしたいというのがこのジャーナリストの立場であり、番組への出演動機だ。彼女の語った監視の例のなかに、漢人によるウイグル人世帯への「家庭訪問」がある。ウイグル人と漢人との「相互理解促進」という名目で行われているこの施策では、政府に協力する漢人が担当のウイグル人世帯を訪れ、その家庭で見聞きしたことを当局に報告する。また客間があるほど豊かでない家では、漢人が住民と同じ部屋に寝泊まりしていくこともめずらしくないという。
米国在住のこのジャーナリストは、もともと新疆のテレビ局でプロデューサーをしていた(ウイグル語の子供番組を初めて作ったという)が、政府のプロパガンダの片棒を担ぐのがイヤで国外に移住。その後、ウイグル人の置かれた窮状を国外に知らせる活動を始めたところ、本国で暮らしていた家族や親戚が一斉に行方不明になり、23人もの人間がほぼ同時に姿を消したという。姿を消した家族の行方について、中国政府が作った強制収容所に送られた可能性が高いと、彼女は説明していた。
この強制収容所は、ナチスのアウシュビッツのような「民族の根絶」を狙ったものではない。ただ、「再教育」もしくは「職業訓練」のためと称して行われているのはある種の洗脳だ。ウイグル人に宗教(イスラム教への信仰)を捨てさせたり、自らの文化(言葉など)を忘れさせたりするためのもので、共産党や習国家主席を賛美する歌を何時間も歌い続けさせるといった比較的軽いものから、冒頭で挙げた朝日記事に出ている拷問に近いものまで、いろんなことが行われているらしい。
そして、そんな施設に年間推定100万人のウイグル人が送り込まれているといった話も西側のメディアで繰り返し報じられている。平均的な収容期間の長さなどはよくわからないが、このペースでいけば10年以内に新疆にいるウイグル人全員がこの施設を通過するといった計算も成り立つ。
それだけの数をこなせる理由のひとつは、この仕組みがかなり恣意的に運用されている、つまり曖昧な基準によって収容所送りにできるようになっているからで、極端にいうとウイグル人もしくはイスラム教信者というだけで誰でもここに送り込まれる可能性がある。
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