グーグルの中国向け検索プロジェクトと、監視社会の実験台にされるウイグル人 - (page 3)

デジタル・シルクロード(サイバー空間の「一帯一路」)

 一帯一路構想は、ひと言でいうと、中国の政治的・経済的な影響力を海外に拡大し、強化していこうといったもの。下掲のVox動画にあるように、ユーラシア大陸からアフリカ、オセアニアと、かなり広い地域が対象として想定されている。

 この構想が発表されたのが4年前、2014年11月のこと。ただ、ここまで欧米メディアで専ら取り上げられているのは、たいていが筋の良くない公共工事のような話、たとえばどの程度使われるかもはっきりしないような港湾整備を中国から借りた資金で行った挙句、返済に行き詰まり、結局港自体を差し出すことになったスリランカの例のような話である。

 この動画に出てくる東欧モンテネグロの高速道路にも、スリランカの港のようになりかねない可能性が感じられる。

 なお、こうした土木工事の受け皿がほとんど中国企業で地元の人たちにはあまりお金が落ちてこない(雇用創出の役には立っていない)という点には、ウイグル人女性ジャーナリストが語っていた新疆での開発の話(利益は漢人がほぼ独占)と相通じるものがある。

 ところで、8月半ばにForeign Affairsが「中国がウェブを支配したらどうなるか」という内容の特集記事を掲載していた。

 この記事の後ろのほうに「一帯一路」に触れた箇所がある。少し長いが当該部分を書き出してみる。

 北京(=中国政府)がグローバルなインターネットのガバナンスに与える影響がもっとも大きいのは、通商ならびに投資に関する政策を通じたもの、とくに「一帯一路」構想の一部として行われるものになる可能性が高い。一帯一路とは中国本土とインド洋、ペルシャ湾、欧州をつなぐ社会インフラを建設する大規模な取り組みのこと。500億ドルを超える資金を注ぎ込んで、このルート沿いの地域に、鉄道や道路、パイプライン、港湾、鉱山、電気/ガス/上下水道などを開発・整備することと並んで、政府幹部が強調しているのが中国企業各社によるデジタル・シルクロード建設の必要性である。このデジタル・シルクロードは、具体的には光ファイバーケーブル、携帯通信網、衛星中継ステーション、データセンター、それにスマートシティといったものを指す。

 誕生から間もないデジタル・シルクロード関連の活動の大半は、中国政府ではなく、テクノロジ関連企業各社や業界アライアンスが行っているもの……(中略)通信機器大手のZTEは現在、一帯一路のルート沿いにある64カ国のうち50を超える国に拠点を構えている。光ファイバーケーブルを敷設したり、携帯通信網を構築したりすることに加えて、同社は監視、マッピング、クラウドストレージ、データ分析に関連するサービスを、エチオピア、ナイジェリア、ラオス、スリランカ、スーダン、トルコといった各国の都市で提供している。

 数日前に注目を集めていたパプア・ニューギニアでの通信網敷設の話――中国輸出入銀行の融資と、華為(ファーウェイ)の通信機器やノウハウを使ってネットワークを構築するというのも、やはり一帯一路構想のなかに含まれるのだろう(ついでにいうと、ファーウェイ製の通信機器はリスクを抱えているから使うのを避けるよう米政府が日本やドイツなどの政府に言った、というのは基本的にこういうインフラレベルの話であろう)。

 Foreign Affairs記事に話を戻すと、この記事のなかでは現在中国の政策立案者がサイバースペース関連で最重要視している技術(分野)として、半導体(プロセッサ)、量子コンピューティング、人口知能(AI)の3つが挙げられている。いずれも含みの大きな基礎技術であり、これだけでは具体的なことは殆ど何もわからない。ただ、国民の監視という点でこの3つが不可欠といっていい要素であることは容易に察しがつく。つまり、スマートフォンや至る所に設置された監視カメラ、あるいはこれから増殖するはずのスマート家電類などから集まる膨大なデータを効率的に処理するには、ハードウェアとソフトウェアの両方でいまあるものとは桁違いの仕組みが必要になるだろうということだ。

 さらに、中国政府が2014年に開始し、阿里巴巴(アリババ)や騰訊(テンセント)といったテクノロジ大手が中心となって運営している「社会信用システム」あるいは「個人の信用格付けシステム」と呼ばれるものがある。

 2020年には全国展開予定というこの仕組み、「国民管理のゲーミフィケーション」ともとれるものーー各種支払いや負債の返済をきちんとしている者にはポイント加算、信号のないところで道路を横切ったり電車のなかで喫煙したりした者にはポイント減点等々があり、ブラックリストに載せられた人間は移動の自由を奪われたり、子弟の進学先が制限されるなど、この仕組みがかなり恣意的に運用されていることも次の記事などから読み取れる。

 もしGoogleが実際にDragonflyの検索サービスを投入した場合、同社のサーバに集まるデータがこの格付けシステムに組み込まれそうなことも容易に察しがつく(無論、はじめからそうと分かっていて自分の立場を危うくするような検索をする人間はいないだろうが)。

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