「GoogleはいかにしてAndy Rubin氏(Android の生みの親)を守ったか」。直訳するとこのようになる見出しの記事がThe New York Times(以下、NYT)に掲載され、ちょっとした騒ぎになっていた。日本時間10月26日朝のことで、この記事についてはCNETでもさっそく取り上げていた。今回はこの「Googleセクハラスキャンダル」をめぐる報道について、いろいろと勝手に詮索してみる。
このNYT記事全体に目を通して受ける印象は、これがRubin氏個人にフォーカスしたニュースではないということ。この記事が問題にしているのは、Google上層部にみられる倫理的な問題、そして「身内」への甘さといったことである。そうして、この記事を準備したNYTのいちばんの狙いは何かと言えば、おそらくGoogleをはじめとする「シリコンバレー」=米テクノロジ業界全体にいわゆる「#MeToo運動」を持ち込むことではないか。そう思える理由を以下に記していく。
まず、これがNYTが結構な人手と時間をかけて準備したと思える調査報道であり、社会に対する問題提起であることはほぼ明らかだ。Rubin氏の社内不倫やGoogleからの手切れ金(やめさせるため渡すことにした9000万ドル)、あるいは子供の親権や慰謝料をめぐって係争中だという元妻(2018年に入って離婚)との事柄については、たしかにこれまで表沙汰になっていなかった「ニュース」といえる。だが「なぜこのタイミングでこの話を表に出すのか?」という理由については、分割払いにされたRubin氏への手切れ金の最終回がまもなく支払われる、ということくらいしか思いつかない。また目分量でいってもRubin氏個人の話は全体のざっと半分程度かそれ以下にすぎない。
Rubin氏が購入した真鶴半島(神奈川)にある1400万ドルの邸宅の写真付き物件情報(約4ヶ月前に売りに出されている)へのリンクをわざわざ貼っていたりーーGoogleが在職中のルービンにこの邸宅の購入資金を超低利(1%以下)で融資していたことを読者に強調するためかーー、Android責任者の時代に4人の相手と社内不倫しており、なかには相手の女性を所有物扱いしているケースもあったとか、あるいは職場のコンピュータにSM動画を隠しているのがばれてその年のボーナスをフイにした(動画が見つかるまでGoogle経営陣はRubin氏にほぼ好き放題にさせていた)とか、Rubin氏個人に関する興味深いティップス、同時に読者のRubin氏に対する心証を悪くしそうな情報もいろいろ散りばめられている。
ただ、そんな要素を含むRubin氏の話も、実はもっと大きな事柄に読者(と世間)の注意を引き付けるための撒き餌にすぎない。Rubin氏がとっくの昔にGoogleを離れている「私人」である点を考えると、なおさらそう思えてくる。
別の言い方をすれば、おそらく次のようになる。Rubin氏個人の女性関係や金に関することだけであれば、それがどんなにゴージャスな話であっても所詮は「ゴシップネタ」にすぎない。たとえばVanity Fairあたりのメディアであればそれで十分だろうが、それだけではNYTという「金看板」が手間をかけて取材し報道するネタにはならない。NYTがこの記事で世間の注意を喚起しようしている(問題を糾弾したいと考えている)のは、あきらかにGoogle上層部にみられる「体質」のほうだ。「GoogleはいかにしてAndy Rubin氏(Android の生みの親)を守ったか」という記事タイトルの主語がGoogleである点にも、そうした意図がはっきり表れている。
NYTはこの記事の(中盤)約3分の1を費やして、これまでにあったGoogle上級幹部の女性スキャンダル、およびそれらに対するGoogleの対応ぶりを総括している。たとえば「独身時代のSergey Brin氏とMarissa Mayer氏が職場恋愛していた」といった昔のたわいもない話、それからひと頃世間を賑わせていた会長時代のEric Schmidt氏の不倫(愛人をコンサルタントとして契約)やBrin氏の部下との不倫、それからセクハラでなかば辞めさせられたことが後になって世間にばれたAmit Singhal氏(元検索事業トップ)の話も蒸し返されている。
ちなみに、Schmidt氏の女性関係がお盛んだったのはよく知られたところで、なかにはRupert Murdoch氏の元妻Wendi Dengさん(NYC社交界のセレブ、Ivanka Trumpさんと夫のJared Kushner氏の仲を取り持ったことなどでも知られる)に「Schmidtはほんとうに醜い体で、魅力がなく、しかも太っていた(だから別れてもちっとも悲しくない)」などと言われていた(それをVanity Fairで書かれた)こともあった。それはさておき。
いっぽうで、現在も同社に残る2人の上級幹部をめぐる話も詳しく描かれている。ひとりはDavid Drummond氏(現Alphabet法務担当責任者、投資部門CapitalG会長)で、もうひとりがRichard DeVaul氏(研究部門Google X責任者)だ。
Drummond氏の場合は、社内不倫の相手と子供までもうけながら、彼女(との関係)が出世に妨げになるとみると関係を清算ーーそしてここからがとくに問題だと思うが、当時(2007年)、子供ができたことをDrummond氏がGoogleに知らせると、人事部門の責任者をしていた女性幹部が、不倫相手(子供の母親)であるJennifer Blakelyさんという女性に「当社では、管理職と部下との交際は認めていない」といい、この女性を別部署に異動。そして彼女が約1年後に退社した際には、それが「自主退社」である旨の念書を入れさせた、などとある。
DeVaul氏の場合は、面接に来た若い女性応募者を「バーニングマン」(毎年8月にネバダ州の砂漠で開催されるイベント)に誘い、テントのなかで性的サービスを暗に要求。この要求を断った(ただし場の雰囲気に飲まれる形で首のマッサージはした)女性は結果的に採用を見送られた、とある。
これらの事例を通じて浮き彫りにされているのは、男性経営幹部(「身内の人間」)に極めて甘いGoogle上層部の体質で、いずれのスキャンダルでも男性のほうには大したおとがめもなく、うやむやな形で処理されている。そして一応は責任をとらされた格好のRubin氏にしても世間の常識からすれば目をむくような額の手切れ金を懐にしている。Rubin氏の事例は、このGoogle上層部の体質をいちばん端的かつ劇的に示したものといえよう。
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