Facebookによる対米政界工作と対外PR工作に関する暴露記事が先週半ばにThe New York Times(NYT)に掲載されて結構な騒ぎとなり、その余波が先週半ばまで続いていた(感謝祭の休日が入ったことでいまは小休止状態との印象)。
NYT記事については「爆弾記事」(bombshell story)との形容句を使って紹介している他媒体の報道も目立つが、そういう爆弾を誰が、どんな思惑から、このタイミングで爆発させることにしたのか……そうしたことをどうしても想像せずにはいられなくなる内容の報道だった。
今回はこのNYT記事に触れながら、2019年早々に動き出す米連邦議会によるFacebookの規制などについて考える。
なお、CNET読者のなかでもこの記事を目にしているみなさんには改めて言う必要もないと思うが、この話はInstagramやWhatsUpといった他のサービスも所有・運営するFacebookという巨大企業の話であり、日本ではいまひとつパッとしないまま普及・定着している感のあるSNSに限った話ではない点に留意いただきたい。
11月初めにあった中間選挙で米民主党が下院の過半数を抑えた結果、連邦議会がいわゆる「ねじれ状態」になったのはすでに周知のことと思う。オバマ政権の時のこと(2010年の中間選挙で共和党に下院の過半数奪われて、やはりねじれ状態になっていた)を思うと、党派によって立場の異なる(=意見の別れる)重要な議案はほぼ硬直状態になり、トランプ政権は大した成果を残せそうにないとの可能性が思い浮かぶ。ただ、そうしたなか、共和・民主両党の思惑が比較的簡単に一致しそうな課題もあり、その筆頭に来るのがFacebookに対する規制(監視強化)だろう。
かつてオバマ政権と蜜月の関係を謳歌していたシリコンバレーのなかでも、とくにFacebookはBarack Obama氏の再選に大きく寄与したことが喧伝されていたような間柄で、共和党側からは同社が政治的に(リベラル側に)偏向しているのではといった不満の声が以前からくすぶり続けている。一方、民主党側にしても、先の大統領選でFacebookのサービスが極右などの流すフェイクニュースの拡散の強力な手段として使われたり、ロシアによる選挙干渉の道具になっていたりしたことで、「FacebookがDonald Trump氏当選の片棒を担いだ」という遺恨が残っている。さらに「国民のプライバシー保護」という大義名分がどちらの側にもある。
そうしたことで、ざっくり言えば「民主主義の根幹を脅かしかねない」Facebookという怪物、あるいは同社経営陣らでもすでに御し難いフランケンシュタインのような化け物に成長してしまったFacebookのサービスをなんとかしたい、といった機運が、例のCambridge Analyticaのスキャンダルが露見するずっと前から、政界関係者の間で少しずつ高まっていた。
そんな流れの上にある今回のNYT報道では、主に3人の人間が槍玉に挙がっていた。Facebookで対外的なPRや政界工作を仕切る立場にある最高執行責任者(COO)のSheryl Sandberg氏、主に共和党対策要員としてFacebookのワシントンDC拠点の責任者を務めるJoel Kaplan氏という社内ロビイスト、それにChuck Schumer氏という民主党の大物上院議員の3人である。
このなかで私が一番感心したのは、Schumer氏の名前が出てきたこと。Schumer氏は民主党上院のリーダー(minority whip)で、Obama氏の2度目の大統領就任式の際には司会役も務めていたほどの大物と記憶しているが、そんなSchumer氏が民主党内でFacebook批判派を抑え込む同社の擁護役を果たしていた。たとえば、テクノロジ大手の規制を進めようとする議員たちのなかで急先鋒とされているMark Warner氏(バージニア州選出の上院議員)に対して、Facebook追及から「手を引け(”back off”)」と言ったなどという関係者の話が引用されている(まるで、テレビドラマの『ハウス・オブ・カード 野望の階段』か『ビリオンズ』に出てきそうなエピソードで面白い)。
Schumer氏はそんな役回りを引き受けることでFacebookからいろんな形で見返りを受け取っていたようだ。選挙の際に「Facebook従業員からの個人献金が一番多かった議員」とか、あるいは娘が「Facebookのニューヨーク拠点で働いている」といったことまでNYT記事には書かれてある。こんなことまで明らかにされてしまうと、いくら大物議員といえども(少なくともFacebook関連ではしばらくの間)自重せざるを得まい。Facebook側から見れば民主党からの攻撃に対する有力な防御壁がひとつ崩れた、ということになる。
Kaplan氏については、少し前にあった米最高裁の新たな判事任命をめぐる騒動の際、物議を醸したBrett Kavanaugh判事の「(ボクシングでいう)セコンド」の様な形で上院公聴会に出席していたとして一部のFacebook従業員の間から非難の声が上がっていた人物。Trump氏が見つけてきてかなり力づくで判事の座の押し込んだ感のあるKavanaugh氏は、かつて女性の中絶の権利を否定するような見解を表明し、それが任命に反対する人々にとっての理由のひとつになっていたようだ。またそれ以上に世間の注目を集めていたのがKavanaug氏のセクハラ疑惑ーー大学時代に女学生を酔っ払わせて不届きな行為に及んでいたのではないか、という例の話で、Facebookで働くとくに女性たちの中には、「なんでそんなやつの介添えに自分たちの会社の偉い奴が(しかも勤務時間中に)出て行ってるんだ?!」と怒った人たちがいたと報じられていた。
NYT記事では、Trump氏が大統領選(予備選)の初期にFacebook上に人種差別的な投稿を載せて同社上層部の間で問題になっていたーーそうしたものが同社の定める利用規程に抵触していないかどうかを討議した際、「ここで共和党を敵に回すのは得策でない」と進言していた人物とされている(この意見をSandberg氏も受け入れて、Trump氏を出入り禁止にはしないことにした)。またその後共和党が政権を握ったことに伴い、Kaplan氏の社内での影響力も高まっていたという。そんなKaplan氏も今回の報道で、Schumer氏の場合と同様に、一定の足かせをはめられたと考えられる。Facebookくらいの大企業になればたくさんのロビイストを抱えていて当然とも思われるが、代わりにどんな「コマ」がいるのかはわからない。
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