このメールは“クレーム”なのか--属人的な判断をAIが担う「AIクレームチェッカー」

 BtoBビジネスを展開する企業にとって、顧客企業とのやりとりを日常的に行う営業担当者のコミュニケーションは、顧客満足度に直結する。その一方で、多くの企業を掛け持つ営業担当者の日常的な業務の中で、重要なタスクを見落としてしまったり、顧客からの相談に充分に応えられなかったりした場合には、顧客企業の契約継続やアップセリングなどが困難になる場合もあり、事業の売上に大きな影響を与える。ただ、実際のところ、営業担当者のやりとりを上司や事業責任者が把握するのは難しく、小さな顧客の不満を見つけにくいのが実際のところだ。

 営業コンサルティングなどを展開するAI salesが、FRONTEOが提供する人工知能「KIBIT」をベースに開発した顧客不満足度発見システム「AIクレームチェッカー」は、こうした企業の営業現場に潜む課題を解決するソリューションだという。同社代表取締役の佐々木寿郎氏に、製品の開発背景などについて聞いた。

 AIクレームチェッカーは、企業の営業担当者が顧客から受け取るメールをすべて人工知能が解析し、クレーム危険度を判定。緊急度が高いクレームだと判定した場合に、上司に報告する仕組みだ。開発にあたっては、AI salesおよびグループ企業で送受信された法人顧客1万社、上場企業の元役員6000人以上とのメールを、「クレーム」「クレームの初期段階」「クレームの予兆」「非クレーム」の4段階にわけ、そのデータを教師データとして、KIBITに学習させたという。


AIクレームチェッカーのサービスイメージ

BtoBビジネスの解約理由、60%以上は回避できる可能性

――まず、なぜAIクレームチェッカーを作ったのか。その背景を教えてください。

 顧客は企業の担当者を信じて期待して契約をします。しかし、そのすべての期待に満足を与えられているかというと、実際のところは難しいですよね。残念ながら解約やクレームにつながったり、そこまで至らなくても不満を抱えてしまうケースは存在します。本当に満足している顧客はごく一部なのです。単純にこの状況が心苦しいと感じていたことが、AIクレームチェッカーを考えたそもそものきっかけです。

 加えて、グループ企業の顧客に対して「なぜ解約したのか」という質問をしてみたところ、約200社のうち25%が対応への不満で、大きな不満はないが期待を下回ったという回答も32%ありました。つまり、6割以上の解約理由が、担当者が充分なフォローができていれば回避できる可能性を持ったものだったのです。不満が小さいうちに発見して充分なフォローができれば、失うことのなかった顧客なのです。


解約理由の大半は顧客対応の改善で対応できるという

 こうした状況をなんとか改善したいと考え、クレームを早期に発見する仕組みを考案しようとしました。顧客アンケートは良くある方法ですが、実はアンケートは回答率が非常に低く、有効性はありません。幹部が表敬訪問してヒアリングをすることも選択肢のひとつですが、すべての顧客を回るには時間が足りません。そこで、社長に直接メールで不満や要望を寄せて欲しいとすべての顧客に呼びかけたところ、月に1〜2通しか来ず、しかも内容は不満に耐えかねてメールしたというお叱りだったのです。私は将来の解約につながってしまう小さな不満を見つけ出したかったのですが、その目的が実現する方法ではありませんでした。

 そこで、メールサーバに直接アクセスして営業担当者のメール内容を抜き打ちでチェックすることを試みました。「申し訳ありません」など特定のフレーズでメールを検索してみたのです。すると、膨大な数が検出されてしまい、とてもチェックしきれる状況ではありませんでした。それが、ちょうど今から2年ほど前なのですが、当時は人工知能への注目が高まり始めた頃で、こうした膨大なメールチェックの解析に人工知能を活用できるのではないかと考え、自然言語解析に優れた技術を持つFRONTEOの製品を活用して、AIクレームチェッカーの開発が始まりました。


顧客企業のクレームが顕在化しない理由

 FRONTEOは自然言語解析の人工知能を10年以上手がける企業で、KIBITの仕組みをそのまま活用することができましたが、「クレームの検出」という特殊性を実現するためには、そのための教師データが必要でした。そこで、私たちのグループ企業で過去にやりとりしたメールを内容やクレームの危険度に応じて分類して教師データを構築し、人工知能に学習させました。過去のクレームに関しては社内で報告を受けているものがあるので、そこから当時のメールを探し出してきました。

――社員の中には、トラブルの火種を社内に共有したくない、自分で解決して黙っておきたいという人もいるのではないでしょうか。社員は積極的に協力してくれたのでしょうか。

 社員は非常に協力的でしたね。というのも、このサービスは社員本人が楽をするため、本人の営業成績を改善するためのものなのです。たとえば、社員があるクレームを受けたときに、すぐに報告すると怒られるから嫌だと考え、自分で丸く収めてから報告しようとしますが、実はその方法が間違っています。そういう、なんとなく上司に相談しづらいシチュエーションは誰にでもあるものですが、実はこのサービスでは危険度の高いメールがすぐに上司に報告され、すぐに上司や周囲がフォローしてくれます。結果的に、社員が抱えるストレスをなくすことができるのです。

――確かに、ちょっとしたクレームへの対処を抱えてストレスを溜めてしまった社員が周囲に相談すると、意外にすぐに解決したりするものですよね。

 営業経験者の方であれば、みなさん身に覚えがあると思いますね。

――教師データのアップデートはどのように行っていくのでしょうか。

 グループ企業で1日約6000通のメールがやりとりされていますが、そのメールの中でクレームに関するメールをその都度分類して、定期的にAIクレームチェッカーに学習させています。一方、利用企業によっては業種ならではのメールの傾向や特色、クレーム判定の定義の違いがあると思いますので、利用企業の方がAIクレームチェッカーによって検出されたメールを確認する中で、これは本当のクレームか否かを判定してもらい、その結果をもって利用企業の人工知能をアップデートするようにしています。

 ただ、導入時に利用企業が時間と労力を掛けて教師データを用意したり、データの解析をしなくても良いというのは、このサービスの大きな利点ではないかと思います。導入時にはある程度の頭脳に仕上がっているので、あとはお使いいただきながらアップデートしていく形で利用企業に合わせた精度向上を目指せるのです。人工知能導入時に想定される手間を大きく軽減できる点が強みだと考えています。

――確かに、人工知能を業務に導入しようとすると、企業はまずはその“空っぽ”の人工知能を育てるところから始める必要がありますよね。結果的に、何かを実現したくて人工知能を導入するのに、その導入そのものが目的化してしまう。結果的に効果を生み出すまでが遠く、導入意義に疑問を抱いてしまうことになります。

 速度感をもって効果を出していこうという点に主眼を置いているのがAIクレームチェッカーの開発のポイントだと思います。確かに、お金とリソースを充分に確保できる大手企業であれば、ゼロから人工知能を育てることは難しくないかもしれませんが、日本企業の大多数を占める中小企業ではそうはいきません。

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