――クレームを見つけ出すアルゴリズムで工夫している点はありますか。
人工知能の基本性能はFRONTEOのKIBITをそのまま使っているので、私たちはそれを微調整する程度です。ただ、クレームメールの内容にはさまざまな種類があるので、その分類と軽度(緊急度の高さ)で細かく仕分けしてスコアリングに反映するチューニングは開発時から現在まで継続的に行っています。
――FRONTEOのKIBITは、少ない量の教師データを元に類似性の判定やスコアリング評価ができる点が特長だと思いますが、実際に運用してみていかがでしょうか。
確かに、ある程度のクオリティまでは少ない教師データですぐに立ち上がりますね。ただ、そこから高い精度を担保しようとすると、やはり大量の教師データを必要としますし、クレーム分類などを細かくチューニングする必要があると思います。一方、利用企業にとっては、AIクレームチェッカーの判定結果に違和感を持ったものをチェックしていけば、少ないサンプル数で企業に合わせたカスタマイズができると思います。
――どのような企業での活用を想定していますか。
BtoBでビジネスを展開している企業を想定しています。BtoCでもクレームはあるのですが、BtoCビジネスではCRMの体制を作っており顧客の声を集約することは難しくありません。一方、BtoBビジネスでは営業担当者の意思によってクレームが顕在化するか否かが決まってしまうため、そうした課題を解決できる製品として企業に提案していますね。
また、営業担当者が数十人を超えてくると現場責任者や経営者は各営業担当者の業務を把握するのが難しくなってきます。ある程度大きな規模の営業組織を持っている企業や定期的に顧客企業とのメールやりとりが発生する業務を行う企業も対象になってくると考えています。具体的には、人材、広告、ウェブ制作、システム開発、不動産、イベント企画・運営などを行う企業がこのAIクレームチェッカーを導入しています。最近ではほとんどのビジネスでやりとりにメールが使われているため、対象業種は幅広いと思います。
加えて、最近ではBtoB製品でもウェブでのダイレクト販売やインターネットサービスのセルフサービス型提供などもありますので、そうした製品のサポートデスクに寄せられるメールなども、AIクレームチェッカーを活用するシーンになるのではないでしょうか。こうしたシーンでは毎日届く膨大な問い合わせメールの重要度分類ができずに、重要度の高いメールを見落としてしまったりする場合もありますが、AIクレームチェッカーでスコアリングすることで、こうした課題も解決できるのではと考えています。
営業担当者がメールを処理する場合でも、サポートデスクでする場合でも、相手のクレームの緊急度や重要度の判断は各担当者に属人的になりがちですが、人工知能が客観的に判断することで、対応優先度の判断や対応漏れを大きく削減できるものと考えています。
――導入企業では、どういった事業への効果や業務の改善につながっているのでしょうか。
このAIクレームチェッカーの導入で重要なのはクレームを発見することではなく、その原因を理解することだと考えています。たとえば、メールのやりとりを追いかけていくと、どのようなプロセスがクレームを生み出したのかを正確に把握、理解できるのです。原因を把握して組織や業務のワークフローを改善することで、本当の意味で顧客満足度を高められるビジネスが生み出せるのではないでしょうか。
実際、導入して業務改善に取り組んだ企業では、クレーム件数の大幅な減少や解約数の減少による売上の大幅な改善を実現しています。クレームの端緒になるようなメールの段階で必要なフォローアップができたお陰で、クレームになるのを未然に防ぐ結果になっているほか、クレームになったメールのやりとりも社内で教材として共有して、社内の教育に活用しているという事例もあります。
――教材として挙げられた社員にとっては辛いところですが、重要なのは発想の転換かもしれませんね。失敗しない社員はどの会社にもいませんし、“こういうことは誰にでも起きることなんだ”という社内の雰囲気作りも大事なのかもしれません。
「今回はあなたに寄せられたクレームだけど、それは誰にでも起きることなんだ」ということを社員に理解してもらって業務の改善に組織で取り組んだほうが、結果は明らかに良いと思いますね。そういう意味では、ある時に失敗した社員というのは「次に誰かが失敗しないために役に立った」と言えるのかもしれません。失敗した社員に対して懲罰的な対応をすることは社員が疲弊することに繋がるため、絶対にやってはいけません。失敗は早く共有して社内全体で対応したほうが、社員の営業成績も向上しますし、より前向きな組織になるのです。
――最後に、今後の展開について教えてください。
まずは、このAIクレームチェッカーを多くの企業に導入していただくことに注力していきたいと考えています。一方で、製品の展開としては、企業の業務システムに組み込めるAIクレームチェッカーの開発も進めているほか、クレームだけでなく別のテーマでもメールの内容を解析して特定の課題を検出する製品を構想しています。
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